第41章 ⑦
三日後、グライナー伯爵家が来た。
本当に来た。
馬車は三台。
護衛もいる。
前に学園で見た顔もあった。
伯爵。
伯爵夫人。
オットー。
それから、オットーの妻。
ニコは私の隣にいた。
逃げない。
でも前には出ない。
ギルドマスターが会議室へ案内する。
前回より人が多かった。
役人達もいる。
商人もいた。
おばちゃんもいる。
何故か薬師までいた。
「何故いるの?」
「面白そうだからだ」
帰ればいいのに。
全員席につく。
最初に口を開いたのは年配の役人だった。
「本日は確認の場です」
「感情論ではなく事実を確認します」
伯爵が頷く。
「異論はない」
役人は書類を開いた。
「まず捜索記録について」
机へ数枚の紙が並ぶ。
伯爵家が提出した資料だった。
行方不明当時の届出。
捜索隊の記録。
近隣の聞き込み。
探索依頼。
確かに探していたらしい。
おばちゃんも腕を組んだまま黙った。
役人が続ける。
「ただし」
紙を一枚持ち上げる。
「最後の記録は八年前です」
部屋が静かになる。
「以後の捜索記録は提出されていません」
伯爵が口を開いた。
「手掛かりが途絶えた」
「何度探しても見つからなかった」
声は重かった。
嘘には聞こえない。
役人も頷いた。
「その説明自体は理解できます」
「ですが」
また、ですがだった。
大体面倒になる。
「九年間進展がなかったにも関わらず、今回に限って身元確認前の保護移送を求めています」
役人の視線が伯爵へ向く。
「理由をお聞かせください」
伯爵は少し黙った。
代わりに口を開いたのはオットーの妻だった。
「その子は私の息子です」
部屋が静かになる。
ニコは何も言わない。
女性は真っ直ぐニコを見ていた。
「顔が似ています」
「年齢も一致しています」
「名前も同じです」
声が少し震えている。
「私は間違えません」
役人は記録を取りながら尋ねた。
「それは確信ですか」
女性は答えなかった。
しばらくして。
ゆっくり首を横へ振る。
「違います」
部屋が静かになる。
「そうであってほしいんです」
小さな声だった。
でも。
誰にでも聞こえた。
「九年です」
女性は続ける。
「九年間、見つからなかった」
手が震えている。
膝の上で強く握られていた。
「だから、似ているだけかもしれません」
「勘違いかもしれません」
「それでも」
そこで言葉が止まる。
しばらくして。
やっと続きが出た。
「会いたかったんです」
誰も何も言わなかった。
私はニコを見る。
ニコも女性を見ていた。
学園では逃げた。
今は見ている。
親子かどうか。
私には分からない。
でも。
この人が九年間ずっと苦しかったことだけは分かった。
その時だった。
「一つ確認したい」
ギルドマスターが口を開く。
全員の視線が向く。
「保護下への移送を求めたのは誰だ」
空気が変わった。
役人も書類から顔を上げる。
伯爵は黙っている。
オットーも答えない。
しばらくして。
伯爵が口を開いた。
「私だ」
部屋が静かになる。
「理由は?」
「もし本人だった場合、伯爵家の責任で保護する必要がある」
「確認前にか?」
ギルドマスターの声は低かった。
伯爵は視線を逸らさない。
「確認後では遅い場合もある」
納得していない顔が何人もいた。
私もよく分からない。
ただ。
ニコの手が少しだけ強くなる。
私の袖を掴んでいた。
私はその手を握る。
ニコは何も言わない。
でも。
離したくないらしい。
私は離さなかった。




