↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
352/425

第41章 ⑦ 

三日後、グライナー伯爵家が来た。


本当に来た。


馬車は三台。


護衛もいる。


前に学園で見た顔もあった。


伯爵。


伯爵夫人。


オットー。


それから、オットーの妻。


ニコは私の隣にいた。


逃げない。


でも前には出ない。


ギルドマスターが会議室へ案内する。


前回より人が多かった。


役人達もいる。


商人もいた。


おばちゃんもいる。


何故か薬師までいた。


「何故いるの?」


「面白そうだからだ」


帰ればいいのに。


全員席につく。


最初に口を開いたのは年配の役人だった。


「本日は確認の場です」


「感情論ではなく事実を確認します」


伯爵が頷く。


「異論はない」


役人は書類を開いた。


「まず捜索記録について」


机へ数枚の紙が並ぶ。


伯爵家が提出した資料だった。


行方不明当時の届出。


捜索隊の記録。


近隣の聞き込み。


探索依頼。


確かに探していたらしい。


おばちゃんも腕を組んだまま黙った。


役人が続ける。


「ただし」


紙を一枚持ち上げる。


「最後の記録は八年前です」


部屋が静かになる。


「以後の捜索記録は提出されていません」


伯爵が口を開いた。


「手掛かりが途絶えた」


「何度探しても見つからなかった」


声は重かった。


嘘には聞こえない。


役人も頷いた。


「その説明自体は理解できます」


「ですが」


また、ですがだった。


大体面倒になる。


「九年間進展がなかったにも関わらず、今回に限って身元確認前の保護移送を求めています」


役人の視線が伯爵へ向く。


「理由をお聞かせください」


伯爵は少し黙った。


代わりに口を開いたのはオットーの妻だった。


「その子は私の息子です」


部屋が静かになる。


ニコは何も言わない。


女性は真っ直ぐニコを見ていた。


「顔が似ています」


「年齢も一致しています」


「名前も同じです」


声が少し震えている。


「私は間違えません」


役人は記録を取りながら尋ねた。


「それは確信ですか」


女性は答えなかった。


しばらくして。


ゆっくり首を横へ振る。


「違います」


部屋が静かになる。


「そうであってほしいんです」


小さな声だった。


でも。


誰にでも聞こえた。


「九年です」


女性は続ける。


「九年間、見つからなかった」


手が震えている。


膝の上で強く握られていた。


「だから、似ているだけかもしれません」


「勘違いかもしれません」


「それでも」


そこで言葉が止まる。


しばらくして。


やっと続きが出た。


「会いたかったんです」


誰も何も言わなかった。


私はニコを見る。


ニコも女性を見ていた。


学園では逃げた。


今は見ている。


親子かどうか。


私には分からない。


でも。


この人が九年間ずっと苦しかったことだけは分かった。


その時だった。


「一つ確認したい」


ギルドマスターが口を開く。


全員の視線が向く。


「保護下への移送を求めたのは誰だ」


空気が変わった。


役人も書類から顔を上げる。


伯爵は黙っている。


オットーも答えない。


しばらくして。


伯爵が口を開いた。


「私だ」


部屋が静かになる。


「理由は?」


「もし本人だった場合、伯爵家の責任で保護する必要がある」


「確認前にか?」


ギルドマスターの声は低かった。


伯爵は視線を逸らさない。


「確認後では遅い場合もある」


納得していない顔が何人もいた。


私もよく分からない。


ただ。


ニコの手が少しだけ強くなる。


私の袖を掴んでいた。


私はその手を握る。


ニコは何も言わない。


でも。


離したくないらしい。


私は離さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。