第41章 ③
オットーが戸へ向かう。
「待って」
足を止めた。
「ずっと捜してたんですか?」
「ああ」
「一年でやめてますけど」
オットーの顔が固まる。
記録には、七年前に捜索依頼を終了したと書かれていた。
ニコも覚えている。
「何故、それを知っている」
「ギルドの記録を見ましたから」
「勝手に?」
「仕事で整理してました」
答えたのはニコだった。
オットーがニコを見る。
「お前が?」
「はい」
言葉遣いが変わっている。
学園で貴族への話し方を覚えたらしい。
「何故、一年で捜すのをやめたのですか」
ニコが聞く。
オットーはすぐに答えなかった。
クララが俯く。
「手掛かりが、何も見つからなかったのです」
「だからやめた?」
私が聞く。
「捜索には多くの人間と金が必要になる」
理由にはなる。
でも、ずっとではない。
「家を守る責任もあった」
オットーは続ける。
「残された家族を守らなければならなかった」
ニコも家族だった。
口に出す前に、ニコが聞いた。
「僕以外にも、子供がいるんですか?」
「ああ。弟と妹がいる」
知らない兄弟がいた。
ニコの顔からは、何を考えているか分からない。
「二人も、同じ学園に?」
「弟がいる。一年下だ」
同じ場所に一年もいたらしい。
お互い知らなかった。
それは仕方ない。
顔を見ただけで兄弟だと分かる人はいない。
多分。
「ニコラウス」
クララが呼ぶ。
ニコの肩が少し動く。
でも、返事はしなかった。
「私達は、あなたが生きていると知らなかったの。知っていたら、必ず迎えに来ました」
「今、ニコって呼ばれてます」
私が言う。
クララの目が私へ向く。
「本当の名前はニコラウスです」
「まだ決まってません」
痣まで同じだった。
多分、本当だと思う。
それでも、本人が受け入れていない名前で呼び続けるのは違う。
教師が間へ入る。
「本日のところは、ここまでにしていただけますか」
オットーが教師を見る。
「我が子を連れて帰るだけだ」
「学園へ登録されている保護者は、こちらの方です」
教師が私を示す。
「身元が確認されていない以上、学園から引き渡すことはできません」
良かった。
学園は、まともだった。
「確認されれば引き渡すんですか?」
私が聞く。
教師が困る。
「その場合も、本人の意思と正式な手続きが必要です」
もっと良かった。
ニコは十二歳。
この世界では、自分の意見を聞いてもらえる年齢らしい。
オットーは納得していない。
それでも、今日は連れて帰れないと分かったようだった。
「明日、改めて話す」
「明日は帰る」
長い休みに入る。
ニコは森へ帰る予定だった。
「逃げるつもりか?」
「帰るだけ」
「なら、滞在先を教えろ」
「何故?」
知らない人へ、泊まる宿を教える必要はない。
オットーが何か言おうとする。
教師が先に戸を開けた。
話は終わりらしい。
伯爵夫婦が部屋を出る。
クララは最後までニコを見ていた。
戸が閉まる。
ニコが息を吐いた。
鞄の五十円玉から、ようやく手を離す。
「帰れる?」
「帰るよ」
「森に?」
「うん」
首席になったお祝いをするはずだった。
食事へ行く予定だった。
それは今からでもできる。
「何食べたい?」
ニコが少し考える。
「肉」
「分かった」
難しい話をした後でも、お腹は空く。
十二歳だった。
明日、森へ帰る。
その後で、伯爵家が何をするか考える。
一年しか捜さなかった人達に、急いで返す子供はいなかった。




