第41章 ①
あれから一年が過ぎた。
ニコは十二歳になった。
長い休みには森へ帰ってきた。
背が少し伸びていた。
持ち帰った本も増えていた。
服より本の方が多い。
ミラが縫った服は、まだ着られた。
袖だけ少し短くなっている。
直してもらうように言うと、自分でやると言った。
失敗した。
結局、ミラへ持っていった。
学園からは、毎月手紙が届いた。
授業のこと。
寮の食事。
図書室で見つけた本。
同じ部屋の子の寝言。
困っていることは書かれていない。
聞いても、特にないと返事が来た。
本当にないのかは分からない。
でも、帰ってきた時の顔を見れば大丈夫そうだった。
家は静かなまま。
私とイナだけの生活にも慣れた。
食事を作りすぎることは減った。
食器も最初から一枚だけ出せる。
少し寂しい。
でも、楽だった。
そんな頃、学園から手紙が届いた。
一年を通した成績が決まったらしい。
ニコが首席になった。
驚いた。
ギルドマスターへ見せる。
驚かなかった。
書記にも見せる。
やはり驚かなかった。
何故、私だけ驚くのだろう。
手紙には、表彰式へ来るように書かれていた。
保護者も出席できる。
行く。
馬車で二日。
遠い。
でも、行く。
表彰式の日。
学園の大きな広間には、生徒と保護者が集まっていた。
服が綺麗な人が多い。
貴族だと思う。
私の服も綺麗だった。
ミラが作った。
白髪は隠せない。
気にしない。
前の方に生徒が並ぶ。
ニコを見つけた。
一年で少し大きくなった。
私に気付き、笑う。
手を振ろうとしたが、隣の教師を見てやめた。
真面目だった。
名前が呼ばれる。
「一年次首席、ニコ・ノルベルク」
ニコが前へ出る。
学園長から紙を受け取る。
広間に拍手が響いた。
私も叩く。
手が少し痛くなるまで叩いた。
ニコが一礼して戻る。
その時、斜め前に座っていた女が立ち上がった。
年は三十代くらい。
良い服を着ている。
ニコを見たまま、動かない。
顔色が悪かった。
隣の男が腕を支える。
「どうした?」
女は答えない。
ニコの髪。
目。
顔。
一つずつ確かめるように見ている。
やがて、小さな声を出した。
「ニコラウス……?」
ニコには聞こえなかったらしい。
自分の席へ戻る。
女だけが、まだ見ていた。
式が終わる。
ニコが私のところへ来る。
「来てくれた」
「首席、おめでとう」
「うん」
嬉しそうだった。
鞄には、青い革紐と五十円玉が付いている。
一年経っても、失くしていない。
帰る前に食事へ行こう。
そう話していると、教師が近付いてきた。
その後ろに、さっきの女と男がいる。
女は近くでニコの顔を見る。
手を伸ばしかけ、止めた。
「お名前を、もう一度聞いてもよろしい?」
ニコが私を見る。
私は女を見る。
「先に、自分から名乗って」
女の目が私へ向いた。
驚いている。
何故だろう。
知らない人へ名前を聞くなら、自分から名乗る。
普通だった。
男が一歩前へ出た。
家名を告げる。
聞いたことがあった。
八年前の記録に書かれていた、貴族の名前だった。




