第40章 ⑤
二日かけて、森へ戻った。
町へ着いた時には夕方だった。
商人の店へ寄る。
ニコを学園へ置いてきたと伝えると、商人は頷いた。
「泣かなかったか?」
「ニコはね」
「お前は?」
「泣いてない」
本当だった。
少し寂しいだけ。
店を出る。
町にはカイル達がいる。
寄ろうと思えば寄れる。
でも、今日は遅い。
そのまま森へ向かった。
イナが先を歩く。
時々振り返り、私が付いてきているか確かめる。
家へ着く頃には暗くなっていた。
戸を開ける。
「ただいま」
返事はない。
イナが先に入る。
私も入る。
荷物を置く。
火を点ける。
明かりが広がる。
家の中は、出かける前と同じだった。
ニコの本がない。
机の上も片付いている。
寝る場所には、畳んだ毛布だけが残っていた。
静かだった。
ニコがいても、家の中は静かだった。
本を読んでいる時は話さない。
勉強している時も、紙をめくる音しかしない。
それでも。
今とは違う。
紙をめくる音がない。
分からない言葉を聞かれない。
夕食ができたと呼ぶ必要もない。
「こんなに広かった?」
イナが私を見る。
答えない。
分かっている。
食事を作る。
二人分。
違う。
一人分と、イナの分。
カルト芋を切る。
多かった。
鍋へ入れてから気付く。
明日の分にすればいい。
食器を出す。
二枚。
一枚を戻す。
食事をする。
誰も今日の出来事を話さない。
イナは食べ終わると、私の足元へ伏せた。
「ニコ、図書室から出てこないかもね」
尻尾が床を叩く。
聞いているらしい。
「休みには帰るって」
もう一度、尻尾が動いた。
片付けを終える。
湯を沸かす。
寝る前に、窓へ映った自分の顔が見えた。
髪に白いものが混じっている。
前からあった。
少し増えた気がする。
明かりのせいかもしれない。
数えない。
戸締まりを確認する。
火を消す。
寝台へ入る。
イナが近くで丸くなった。
家が広い。
静かだった。
カイルが出て行った。
ミラも出て行った。
ルークとサラは修行へ行った。
ニコも学園へ行った。
子供達は、皆、自分の道を歩いている。
良いことだった。
私は毛布を引き上げる。
「おやすみ」
イナが小さく鼻を鳴らした。
返事は、それだけだった。




