第40章 ④
入学の日が来た。
学園までは馬車で二日。
ニコ一人では行かせない。
私も付いていく。
イナも一緒だった。
カイル達が町の入口まで見送りに来た。
リーゼはテオを抱いている。
ミラとフリッツも仕事を休んだ。
ルークとサラは来られない。
代わりに手紙が届いていた。
ルークは、困った時は先生へ聞くようにと書いている。
サラは、土のモグルの絵を描いていた。
何故だろう。
ニコは手紙を鞄へ入れる。
五十円玉のお守りも付いている。
「休みになったら帰ってくる?」
ミラが聞く。
「帰る」
「手紙も書けよ」
カイルが言う。
「書く」
「ちゃんと食べて」
リーゼが言う。
「食べる」
全員から同じようなことを言われている。
ニコは少し困っていた。
馬車が出る。
皆が小さくなるまで、ニコは後ろを見ていた。
一日目は、ほとんど本を読んでいた。
酔わないらしい。
私は酔った。
文字を追ったせいだと思う。
読んでいない。
でも、揺れる馬車は疲れる。
途中の宿で一泊し、次の日の夕方に学園へ着いた。
大きかった。
石造りの校舎。
その隣に、寮が二つ。
運動場もある。
高い塀もあった。
門には守衛がいる。
勝手に出られないらしい。
良かった。
受付で名前を伝える。
「ニコ・ノルベルク」
家名がないので、町の名前を付けて登録されていた。
呼び名のためだけで、貴族の家名とは違う。
寮の部屋は二人部屋だった。
寝台が二つ。
机も二つ。
服を入れる箱もある。
窓には鍵が付いていた。
寝台の下。
机の裏。
窓の外。
一通り見る。
「何を確認しているんですか?」
案内してくれた教師が聞く。
「逃げ道と、入ってこられる場所」
教師が黙った。
大事だった。
食堂も見る。
今日の夕食は、パンと肉の煮込み。
野菜も入っている。
量も足りそうだった。
洗濯する場所。
湯を使える日。
病気になった時に行く部屋。
手紙を出す場所。
全部聞いた。
ニコが途中で私の袖を引く。
「図書室」
忘れていた。
図書室へ行く。
広かった。
ギルドより本が多い。
棚が幾つも並び、奥まで続いている。
ニコが動かなくなった。
「これ、全部読んでいいの?」
教師が笑う。
「貸し出せない本もありますが、ここでなら読めます」
ニコの顔が明るくなる。
多分、大丈夫だった。
夜は近くの宿へ泊まり、翌朝もう一度学園へ行った。
授業が始まる前だった。
ニコは制服を着ている。
ミラが寸法を直したので、よく似合っていた。
「困ったら?」
「先生に聞く」
「それでも駄目なら?」
「手紙を書く」
「急ぐ時は?」
「ギルドへ行く」
決めてある。
私は頷いた。
ニコの鞄で、青い革紐が揺れる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
抱き締める。
もう十一歳。
でも、まだ私の腕に収まった。
離す。
ニコは校舎へ向かう。
一度だけ振り返り、手を振った。
私も振る。
姿が見えなくなるまで待つ。
それから、イナと二人で門を出た。
帰りの馬車は静かだった。
本当に、静かだった。




