第40章 ➂
ニコは学園の試験に受かった。
ギルドマスターも書記も驚かなかった。
私は驚いた。
試験の内容を見ても、半分くらい分からなかったから。
入学は一か月後。
寮へ持っていく物を揃えるため、カイル一家とミラ夫婦も森へ来た。
ミラは服を縫い、カイルは丈夫な鞄を用意した。
商人から買ったらしい。
お金は払うと言ったが、受け取らなかった。
「入学祝い」
そう言われたので、ニコが受け取った。
私は家の奥から缶を出す。
故郷から持ってきた硬貨が入っている。
蓋を開け、穴の空いた五十円玉を一枚取り出した。
細い革紐を通し、抜けないように結ぶ。
反対側には小さな輪を作った。
鞄や腰袋へ付けるためのものだった。
「ニコ」
呼ぶと、すぐに近付いてくる。
「新しいお守り」
手のひらへ載せる。
ニコは硬貨を裏返した。
「前のは?」
服の中からネックレスを出す。
長く使っているので、紐も飾りも汚れていた。
「それも持っていていいよ。洗えば綺麗になる」
「これは何?」
「私の故郷のお金」
「使える?」
「ここでは使えない」
穴が空いていて、紐を通しやすい。
それだけ。
でも、家を離れる時には持たせることにしている。
「ルークとサラにも、修行へ行く時に渡した」
「同じもの?」
「同じ」
ニコが少し笑った。
鞄の金具へ青い革紐を結び、引っ張って確かめる。
外れない。
大丈夫だった。
「俺は?」
カイルが言った。
「何が?」
「お守り」
「町にいるじゃん」
「家は出た」
「すぐ会えるでしょ」
「それとこれは違う」
十八歳。
妻もいる。
子供もいる。
もうすぐ二人目も産まれる。
それでも欲しいらしい。
「私も、もらってない」
ミラまで言った。
「ミラも町にいるでしょ」
「家は出たよ」
同じだった。
二人が並んで私を見る。
少し拗ねている。
欲しいなら、先に言えばいいのに。
五十円玉を二枚出し、革紐を通す。
カイルは茶色。
ミラは赤。
二人へ渡す。
カイルは何でもない顔で、すぐ腰袋へ付けた。
ミラは嬉しそうに、裁縫道具の箱へ結ぶ。
リーゼとフリッツが、その様子を見ていた。
「二人もいる?」
リーゼが驚く。
「私も、いいんですか?」
「家族でしょ」
リーゼへは緑。
フリッツへは黄色。
また二枚、五十円玉を取り出す。
フリッツは両手で受け取った。
面接の時より緊張している。
リーゼも大切そうに握っていた。
「テオは?」
リーゼが聞く。
増えた。
「まだ駄目」
小さい物を口へ入れるかもしれない。
大きくなって、家を離れる時に渡す。
随分先だった。
多分。
ニコの鞄には青。
カイルの腰袋には茶色。
ミラの裁縫箱には赤。
リーゼは緑。
フリッツは黄色。
ルークとサラも、それぞれ持っている。
缶にはまだ五十円玉が入っていた。
家族が増えても大丈夫だった。
故郷では、小さなお金。
この世界では何も買えない。
でも。
お守りには、それで良かった。




