第40章 ②
次の日、ニコとギルドへ行った。
ギルドマスターの部屋で、送られてきた記録を見せてもらう。
古い紙だった。
端が傷み、文字も少し薄くなっている。
小さい。
目から離す。
ニコが横から読む。
「もっと近くで見た方がいいよ」
「見えてる」
見えにくいだけだった。
行方不明になった子供の名前は、ニコラウス。
八年前、三歳。
髪と目の色はニコと同じ。
いなくなった場所も、カイル達がニコを拾った場所から遠くない。
父親は貴族。
家名も書いてある。
でも、服装が違った。
記録には、家の紋章を縫い取った上着を着ていたとある。
カイル達が覚えているニコの服は、それより質素だった。
自分達の服よりは良かった。
でも、貴族の子供が着るようなものではない。
紋章もなかった。
「着替えさせられた可能性はある」
ギルドマスターが言う。
「誘拐?」
ニコの顔が強張る。
「可能性の一つだ。今は何も分からない」
名前。
年齢。
外見。
場所。
同じところは多い。
それでも、ニコがニコラウスだと証明するものはなかった。
捜索の依頼も、七年前に終了している。
理由は書かれていなかった。
「知らせる?」
私が聞く。
「何をだ」
「似た子がいるって」
「知らせない」
ギルドマスターは記録を閉じた。
「これだけでは、本人だと断定できない。相手が貴族なら、なおさら軽々しく話を持ち込めん」
同じ考えだった。
ニコを見る。
「調べたい?」
少し考えてから、首を横に振った。
「今はいい」
なら、今は終わり。
記録は元の箱へ戻された。
話が済んだので帰ろうとする。
ギルドマスターが止めた。
「もう一つ、ニコのことで話がある」
また何かあった。
ニコが緊張する。
「悪い話ではない」
机の引き出しから、別の紙を出した。
町の名前。
学園の名前。
授業の内容。
文字。
計算。
歴史。
地理。
法律。
商業。
他にも並んでいる。
ニコの目が紙から離れなくなった。
「この町で教えられることは、もう少ない」
書記からも同じ話があったらしい。
仕事に必要な知識なら、これからも教えられる。
でも、ニコはそれだけでは足りない。
「推薦を出せる」
「学園に?」
ニコが聞く。
「ああ。試験に受かれば入れる」
「本もある?」
「図書室がある」
ニコの目が輝いた。
多分、もう行きたい。
私は紙を見る。
「遠い?」
「馬車で二日だ」
遠かった。
「毎日帰れない?」
「全寮制だ」
聞いていない。
紙を見る。
書いてあった。
小さい文字ではない。
見落とした。
「休みは?」
「長い休暇には帰れる」
毎日ではない。
ニコは十一歳だった。
もう十一歳。
でも、十一歳だった。
「費用は?」
「入学試験の成績次第で免除される。首席なら、寮費と食費も学園が負担する」
首席。
簡単に言う。
「受からなかったら?」
「推薦は出さない」
ギルドマスターが答えた。
自信があるらしい。
私はニコを見る。
「行きたい?」
ニコはすぐに答えなかった。
紙を読む。
私を見る。
また紙を見る。
「もっと勉強したい」
小さな声だった。
でも、迷ってはいなかった。
寂しくなる。
家には私とイナだけになる。
それでも、ニコが行きたいなら止められない。
「試験を受けよう」
ニコが頷く。
出生の記録を見つけた日。
ニコには、もう一つの道も見つかった。




