第39章 ⑧
別居の話が決まった。
これで結婚できる。
皆がそう思ったらしい。
「その前に、一緒に暮らしてみる?」
全員が私を見る。
「結婚前にですか?」
フリッツの母親が聞いた。
「うん。三か月」
「まだ夫婦ではありません」
「夫婦になってから、暮らせませんでしたでは遅いから」
反対しても、二人は若い。
駄目だと言うほど、意固地になるかもしれない。
なら、実際に暮らせばいい。
フリッツの良いところも悪いところも見える。
親との距離も分かる。
何より、ミラが自分で確かめられる。
「お前は、それでいいのか」
「うん」
ミラも頷いた。
「私も、やってみたいです」
住む家は、二人で探した。
ミラの仕事場と染色工房の間。
どちらへも歩いて通える。
小さいが、二人なら十分だった。
寝る場所。
食事を作る場所。
机と椅子。
家賃は二人で払う。
家事も分けた。
料理は交代。
洗濯はフリッツ。
掃除は気付いた方。
曖昧だった。
少し心配。
でも、それも自分達で決めた。
一週間後、様子を見に行った。
家は片付いている。
食べるものもある。
喧嘩はしていない。
フリッツの母親が、野菜とパンを持ってきたらしい。
それくらいならいい。
二週間後。
また行った。
台所の物が増えていた。
フリッツの実家から持ってきた鍋。
食器。
棚。
「誰が置いたの?」
ミラが答える。
「お母さんが、足りないだろうって」
勝手に置いたらしい。
その日の夕方、フリッツの母親が来た。
「明日、工房が忙しいの。ミラさんも手伝ってくれるわよね?」
「はい」
ミラは答えた。
やはり断れない。
フリッツが母親を見る。
「ミラには仕事がある」
「仕事が終わってからでいいのよ」
「疲れてる」
「少しくらい、家族なんだから」
「手伝いが必要なら、仕事として頼んで。給金も払って」
母親の顔が変わった。
「あなたは誰の味方なの?」
「ミラの味方だよ」
すぐに答えた。
母親は何も言わずに帰った。
フリッツは、勝手に置かれた鍋と食器を実家へ返した。
棚だけは二人で相談し、残した。
一か月後。
母親はまた来た。
「最近、仕事が忙しいでしょう。今日は実家へ泊まりなさい」
フリッツが首を横に振る。
「俺の家はここだよ」
「まだ結婚していないのに?」
「だから、一緒に暮らせるか試してる」
「ミラさんも、一人の方が休めるでしょう?」
フリッツがミラを見る。
「一人がいい?」
「一緒がいい」
ミラが答えた。
母親は帰った。
三か月の間、二人は何度か喧嘩をした。
料理。
掃除。
使った物を戻さない。
小さなことだった。
でも、黙ったままにはしなかった。
三か月後。
私はミラへ聞く。
「我慢した?」
「少し」
「大丈夫?」
ミラは考えた。
すぐに答えない。
「嫌なことはあった。でも、話したら聞いてくれた」
「直った?」
「全部じゃない」
正直だった。
「それでも結婚したい?」
「うん」
迷わなかった。
ミラは、自分で見た。
自分で話した。
それで決めた。
なら、私は反対しない。
「合格」
ミラが笑う。
フリッツも息を吐いた。
三か月の試用期間が終わった。
今度こそ、結婚できる。




