第39章 ⑦
三日後。
フリッツの家へ行った。
私とミラ。
フリッツもいる。
カイルとニコは連れてこなかった。
今度は、必要ない。
家の隣に染色工房がある。
干された布が風に揺れていた。
青。
赤。
黄色。
綺麗だった。
中へ通される。
フリッツの父親と母親が待っていた。
二人とも、あまり嬉しそうではない。
挨拶をする。
椅子へ座る。
「別居へ反対していると聞きました」
最初に聞いた。
父親が頷く。
「フリッツは長男です。いずれ、この工房と家を継ぎます」
「仕事を継ぐことには反対してないです」
「家も含めて継ぐものです」
「今すぐ?」
父親が止まる。
まだ元気だった。
仕事もしている。
「いずれです」
「なら、今は別に住めますね」
父親の顔が少し固くなる。
母親が口を挟んだ。
「家が二つになれば、お金がかかります」
「二人で払えます」
フリッツが紙を出す。
収入。
家賃。
食費。
貯金。
今回は、答えではない。
数字だった。
父親が紙を読む。
生活はできる。
それでも、納得した顔ではなかった。
「ミラさんがこちらへ入れば、家賃は必要ありません」
「代わりに、何をするんですか?」
母親が私を見る。
「家族として暮らします」
「家事は?」
「皆でします」
「工房は?」
「忙しい時に手伝ってもらえれば」
来た。
「ミラには仕事があります」
「仕立ての仕事だと聞いています。でも、結婚すれば家のことも覚えてもらわなければ」
「何で?」
「嫁ですから」
分かりやすかった。
私はミラを見る。
黙っている。
やはり我慢する。
「ミラは、あなた達の家で働くために結婚するんじゃない」
母親の眉が寄る。
「私も、嫁いだ時はそうしました」
「大変だった?」
母親が止まる。
答えない。
多分、大変だった。
「自分がしたから、ミラにもさせる?」
「そういう意味では」
「じゃあ、させなくていいですね」
父親が息を吐く。
「昔から、皆そうしてきました」
「ミラは皆じゃない」
静かになった。
私は喧嘩をしに来たわけではない。
フリッツを家から離したいわけでもない。
親子で仕事を続ければいい。
困った時は助け合えばいい。
ただし、ミラの帰る家は別。
「近くに住みます」
フリッツが言った。
「工房の仕事も続けます。父さん達に何かあれば、俺が来ます」
「なら、何故別に住む」
「ミラと二人で、家族を作りたいからです」
父親は黙った。
「ミラに、この家のやり方を我慢させたくない」
今度は、自分の言葉だった。
「父さんと母さんが嫌いなわけじゃない。でも、同じ家に住む必要はない」
母親がミラを見る。
「あなたも、それを望んでいるの?」
ミラは膝の上で手を握った。
「はい」
小さい声だった。
でも、顔を上げている。
「仕事を続けたいです。自分達の家で暮らしたいです」
母親は、しばらくミラを見ていた。
やがて、肩から力を抜く。
「近くには住むのね?」
「はい」
フリッツが答えた。
父親も、最後には頷いた。
「工房を継ぐ意思は変わらないんだな」
「変わらない」
話は決まった。
別居。
ミラは仕事を続ける。
工房の手伝いは、本人がすると決めた時だけ。
紙にも書いた。
小さい文字はない。
家を出る時、フリッツの母親がミラへ言った。
「困った時は、言ってちょうだい」
「はい」
言えるだろうか。
多分、すぐには言えない。
だから、私も見る。
フリッツも見る。
一人で我慢させない。
別居は認められた。
これで、結婚できる。




