第39章 ⑤
森へ戻る日。
ミラは、約束通り一人の青年を連れてきた。
名前はフリッツ。
十八歳。
町の染色工房で働いている。
布を届けに来た時、ミラと知り合ったらしい。
カイルとニコも一緒だった。
何故いるのか。
多分、知っているから。
家へ入る。
私の向かいに、ミラとフリッツが座った。
カイルとニコは壁際。
面接が始まる。
「結婚したい?」
ミラが頷く。
「うん」
「なら、反対はしない」
フリッツの肩から力が抜けた。
「でも、不甲斐なければ却下」
また固まった。
「志望動機は?」
「志望……」
「ミラと結婚したい理由」
フリッツは背筋を伸ばした。
「ミラさんと家族になりたいからです。仕事に真面目で、自分の考えを持ち、嫌なことも黙って受け入れずに話せるところを尊敬しています」
綺麗だった。
綺麗すぎた。
「アピールは?」
フリッツが紙を出す。
染色工房で五年働いている。
収入。
貯金。
借金はない。
家を借りても生活できる。
料理と洗濯もできる。
全部、順番に説明した。
止まらない。
私は紙を見る。
次にフリッツを見る。
最後に、壁際の二人を見た。
カイルが目を逸らす。
ニコも逸らした。
「誰に教わった?」
フリッツが止まる。
「何をでしょうか」
「答え」
沈黙。
ニコが小さく手を上げた。
「僕とカイル」
やはり。
「どこまで?」
「聞かれそうなことを考えて、答えを整理しました」
私は二人を睨む。
「仕事場の面接じゃない」
カイルの肩が動く。
「ミラの将来だよ」
二人とも黙った。
「おまえ達が結婚するんじゃない。私に気に入られる答えを作って、どうするの」
「でも、失敗しないように」
カイルが言う。
「失敗させて」
「え?」
「困った時に、どう考える人か見たいの。正解を覚えさせたら、分からない」
ニコが下を向いた。
頭が良くても、今日は間違えた。
私はフリッツへ向き直る。
「ミラは、嫌なことを話せる人?」
フリッツがミラを見る。
すぐには答えなかった。
「……話してくれると思います」
「違う」
ミラは我慢する。
大丈夫ではなくても、大丈夫と言う。
周りへ迷惑をかけないように、一人で抱える。
それを知らない。
「カイルが変なことをしたら、後ろから拳骨を落とせる」
カイルが頭を押さえた。
まだ落としていない。
「リーゼの味方もできる。でも、ミラが向こうの家で我慢しても、私はすぐには分からない」
ミラが私を見る。
「我慢しないよ」
「するよ」
知っている。
八年前から見てきた。
「ミラの味方になれる人か、私は見たいの」
だから、用意された正解では駄目だった。
私は、いつまでもいるわけではない。
フリッツは膝の上で手を握った。
「今日は不合格」
ミラが何か言おうとする。
その前に続けた。
「結婚に反対してるんじゃない」
フリッツが顔を上げる。
「次は、自分で考えて来て。カイルとニコは手伝わない」
二人へ言う。
「分かった?」
「分かった」
「はい」
今度は、二人とも私を見て答えた。
面接は終わった。
次がある。
でも、同じ答えを持ってきたら、また不合格だった。




