第39章 ④
赤ちゃんには、テオと名前が付いた。
産まれてからしばらく、私は町へ泊まった。
ニコも一緒だった。
イナは森の家と町を行き来する。
カイルの家は狭いので、近くに小さな部屋を借りた。
朝になると、カイルの家へ行く。
リーゼの食事を作る。
洗濯をする。
赤ちゃんを抱く。
夜に泣いた時は、カイルが起きる。
最初は遅かった。
泣き声がしても起きない。
リーゼが先に目を覚ます。
私がカイルを起こした。
「泣いてる」
「うん」
「起きて」
「起きてる」
目は閉じていた。
起きていない。
布を替えるのも遅かった。
テオが動く。
足を上げる。
カイルが押さえる。
逃げられる。
また同じことをしている。
昔も見た。
ハンスだった。
今はカイル。
父親は、最初に布へ負けるらしい。
それでも、毎回やらせた。
手伝うんじゃない。
一緒に育てると約束した。
一か月が過ぎる頃には、カイルは泣き声で起きるようになった。
三か月で、布を替えるのも速くなった。
テオを抱いたまま、片手で湯を用意する。
リーゼが疲れている日は、食事も作った。
焼いたパン。
切った野菜。
少し焦げた肉。
料理と呼べる。
多分。
半年が過ぎた。
リーゼは仕事へ戻る準備を始めた。
テオは寝返りをする。
私を見ると笑う。
カイルが帰ってくると、手を伸ばす。
二人だけでも大丈夫そうだった。
「そろそろ森へ戻る」
私が言うと、リーゼが驚いた。
「もうですか?」
「もう半年」
「でも」
「困ったら呼んで」
いつもの言葉だった。
リーゼは少し寂しそうにした。
私も少し寂しい。
でも、ここはカイルとリーゼとテオの家だった。
おばあちゃんが、いつまでもいる家ではない。
お役御免。
ニコは喜んだ。
町へ通うのは近かったが、森の家の方が静かに本を読めるらしい。
イナも町より森がいい。
多分。
帰る日を決める。
その頃から、ミラがよく来るようになった。
テオへ会いに来たのだと思っていた。
抱く。
笑わせる。
服の大きさを見る。
それも本当だった。
でも、何か変だった。
私が森へ戻る日を何度も聞く。
「いつ帰るの?」
「五日後」
次の日にも聞く。
「何時頃?」
「朝」
その次は、荷物の量を確認した。
「何かある?」
私が聞くと、ミラは首を横に振った。
ある顔だった。
ニコを見る。
目を逸らした。
知っているらしい。
カイルを見る。
カイルも逸らした。
こっちも知っている。
知らないのは私だけだった。
少し腹が立つ。
森へ戻る前日。
ミラが私の前へ座った。
背筋を伸ばす。
昔、エマへ弟子入りを頼んだ時と同じ顔だった。
「明日、一緒に森へ行っていい?」
「いいよ」
「会ってほしい人がいるの」
やはり、何かあった。
私は頷く。
「連れてくればいい」
ミラが息を吐いた。
安心するのは早い。
誰を連れてくるかは知らない。
でも、カイルとニコが先に知っている。
多分。
準備もしている。
次は、私の面接だった。




