第39章 ①
あれから五年が経った。
ルークは十三歳。
サラは十一歳。
二人は二年前、ベルタへ正式に弟子入りするため、森の家を出た。
カイルとミラは、それより前に町へ引っ越している。
カイルは十八歳。
商人として働いている。
ミラは十六歳。
エマの仕事場で、裁縫職人になった。
ニコは十一歳。
今も森の家で暮らし、毎日町のギルドへ通っている。
だから昼間、家にいるのは私とイナだけだった。
静かだった。
最初は変な感じがした。
食事を作りすぎる。
名前を呼んでから、いないことに気付く。
今は慣れた。
多分。
その日、ニコが昼過ぎに帰ってきた。
いつもより早い。
一人ではなかった。
カイルがいる。
その隣に、見知らぬ少女がいた。
三人が家へ近付く。
イナが立ち上がり、カイルの方へ歩いていく。
尻尾は前よりゆっくり動くようになった。
それでも、カイルの匂いは覚えていた。
少女は両手を腹の前で重ねている。
お腹が大きかった。
私はカイルを見る。
カイルが目を逸らした。
怪しい。
ニコは逸らさなかった。
多分、もう全部聞いている。
「何か月?」
少女が答えた。
「六か月です」
「カイル」
「……うん」
「先に言え」
「ごめん」
六か月。
半分を過ぎている。
少女が頭を下げた。
「初めまして。リーゼと申します」
「初めまして」
私も頭を下げる。
それから家へ入れた。
立ったまま話すことではない。
椅子へ座る。
リーゼへ水を出す。
カイルは、その隣に座った。
ニコは私の横。
面接官だった。
「結婚する?」
「する」
カイルが答える。
リーゼも頷いた。
「二人で決めた?」
「はい」
今度はリーゼが答えた。
「家は?」
「町に借りています」
「仕事は?」
「俺は続ける。リーゼは仕立てた革製品を売る店で働いてる。今は仕事を減らしてもらってる」
「産まれた後は?」
「しばらく休みます。店の主人にも話してあります」
「お金は?」
カイルが紙を出した。
収入。
家賃。
食費。
出産に必要なお金。
リーゼが働けない間に使う分。
全部書いてある。
商人だった。
ニコが横から紙を見る。
「僕も見た」
やはり、先に確認していた。
「リーゼの家には?」
「話した」
「怒られた?」
「怒られた」
「殴られた?」
カイルが頬へ触る。
「一回」
そうか。
もう終わっていた。
リーゼが申し訳なさそうにカイルを見る。
カイルは首を横に振る。
二人で決めたなら、二人の問題だった。
「子供、育てる?」
私が聞く。
二人が同時に頷いた。
迷わなかった。
なら、私から言うことは少ない。
「困ったら来ればいい」
カイルが私を見る。
「怒らないの?」
「もう怒られたでしょ?」
「うん」
「なら、いい」
六か月まで黙っていたことには少し腹が立つ。
でも、来た。
準備もしている。
リーゼも、自分で答えた。
「ご飯食べる?」
二人が頷く。
ニコも頷いた。
いつもより三人多い。
久しぶりに大きな鍋を出す。
棚の奥へ片付けていたものだった。
食事を作りながら考える。
カイルに子供が産まれる。
血は繋がっていない。
でも、カイルは私の子供だった。
なら、その子供は孫になる。
私は振り返る。
カイルとリーゼが並んで座っている。
ニコは紙を読み直していた。
「私、おばあちゃん?」
カイルが笑った。
「うん」
そうらしい。
異世界へ来て九年。
私は、おばあちゃんになることになった。




