第38章 ⑨
ベルタの試用期間が始まった。
練習はギルドの訓練場で行う。
最初の三日間、私も見ていた。
ルークは火を大きくするより、小さく保つ練習をした。
砂の上に描いた円から出さない。
ベルタが合図をしたら消す。
別の方向を見ていても、火から意識を外さない。
地味だった。
ルークも、最初は不満そうだった。
「魔物を倒す練習は?」
「自分の火も止められない奴に、魔物を狙わせると思うかい?」
正しかった。
ルークは黙って、小さな火を出した。
サラは土を少しだけ動かす。
山を作る。
戻す。
穴を掘る。
埋める。
モグルは出さない。
サラは一度だけ、ニコくらいの山を作ろうとした。
すぐにベルタが止めた。
「大きいものを作るのは、上手くなった証拠じゃないよ」
「でも、できる」
「止められるかい?」
サラが土の山を見る。
少しずつ戻す。
途中で動かなくなった。
疲れたらしい。
ベルタは残った山を自分で崩した。
水魔法で砂を濡らし、風で平らにする。
サラは黙って見ていた。
次の日から、大きな山を作ろうとしなくなった。
ベルタは怒鳴らない。
出来ない時に、何故出来なかったのかを聞く。
分からなければ、別のやり方を試す。
疲れる前に終わらせる。
研究所とは違った。
四日目からは、私も毎回付いて行くのをやめた。
ギルドマスターがいる。
カイルとミラも町にいる。
ニコは練習が終わる頃に勉強を始める。
何かあれば、誰かが見ている。
多分、大丈夫。
夕方に帰ってきた二人から、その日の話を聞いた。
ルークは、離れた場所の火を消せるようになった。
サラは、触らずに地面の石を押し上げた。
失敗した話もした。
ルークの火が円から出た。
サラが砂をミラの靴へ飛ばした。
隠さなかった。
ベルタも、毎日二人の様子を書いて渡した。
使った回数。
疲れ方。
出来たこと。
出来なかったこと。
小さい文字はなかった。
合格。
十日目。
また全員でギルドへ行った。
最初の日と同じ部屋に集まる。
ベルタがルークとサラを見る。
「二人とも教えられる」
ルークの顔が明るくなる。
サラも笑った。
「ただし、今すぐ弟子には取らない」
二人の顔が戻った。
「ルークは八歳。サラは六歳。別の町で住み込みを始めるには早いよ」
私は頷いた。
そこは同じだった。
「ルークは、この町のギルドで森の歩き方と冒険者の基礎を学びな。魔法は、燃やさない技術を優先する」
「冒険者になれる?」
「今すぐ登録はしない。準備はできる」
ルークは少し考えてから頷いた。
「サラは、今の練習を続ける。大きく動かすより、自分で止めることを覚えな」
「モグルは?」
「小さいのなら、一匹まで」
許可が出た。
サラは嬉しそうだった。
「私は数か月ごとに、この町へ来る。ギルドの仕事もあるからね。その時に二人を見るよ」
ベルタが二枚の紙を出した。
それぞれの課題が書いてある。
ルークは火の大きさと時間を記録する。
サラは土を動かした回数と、疲れた時の様子を記録する。
「字も書くの?」
サラが紙を見る。
「書けないところは、家族に手伝ってもらいな」
ニコが覗き込んだ。
手伝う気らしい。
書く量が増えそうだった。
「次に来るまで、無理に先へ進まなくていい。分からないことがあれば、ギルドを通して手紙を出しな」
私はベルタを見る。
「お金は?」
「今日まではギルドから出る。次からは一回につき、二人で銀貨一枚」
安くはない。
でも、払える。
「紙に書く?」
「書こう」
ギルドマスターが契約書を用意した。
定期的に二人の魔法を見ること。
無理な訓練をさせないこと。
薬や道具を使う場合は、先に説明すること。
辞める時は、どちらからでも断れること。
一つずつ確認する。
小さい文字はない。
私とベルタが名前を書いた。
「これで採用?」
ベルタが聞く。
「仮採用」
「まだなのかい」
「正式な弟子入りは、まだだから」
ベルタは呆れた顔をした。
でも、笑っていた。
ルークとサラも笑う。
二人の道は、まだ決まっていない。
冒険者になるのか。
魔法使いになるのか。
別の何かになるのか。
今すぐ選ばなくていい。
カイルは商人の店へ。
ミラはエマの仕事場へ。
ニコはギルドの書記へ。
ルークとサラは、二人で魔法を学び始めた。
全員の進む先が、少しだけ見えた。
三年前は、今日を生きることで精一杯だった。
今は、先のことを考えている。
それだけ、子供達が大きくなった。




