第38章 ③
ギルドから家へ戻る。
ルークとサラは、あまり話さなかった。
行きは二人で並んでいた。
帰りも並んでいる。
でも、時々お互いを見る。
何か言いたそうだった。
私は聞かない。
まだ考えている。
多分。
ニコだけは、返した本の話をしていた。
次は違う本を借りたいらしい。
何の本か聞く。
「昔の町の本」
「面白い?」
「分からないから読む」
そうだった。
家へ着く。
カイルとミラは、まだ帰っていなかった。
夕食の準備をする。
サラも手伝う。
ルークは薪を運ぶ。
ニコは本がないので、少し暇そうだった。
豆の筋を取らせる。
遅い。
一つ取る度に豆を見る。
何を考えているのか分からない。
でも、手は動いている。
しばらくして、カイルとミラが帰ってきた。
カイルは紙の束を持っている。
ミラは布の包みを抱えていた。
二人とも、三年前より持ち帰る物が増えた。
「それ何?」
カイルへ聞く。
「店の記録」
「持ってきていいの?」
「古いやつ。数字を合わせる練習に使えって」
商人が渡したらしい。
何を育てようとしているのだろう。
多分、商人だった。
ミラの包みには、途中まで縫われた服が入っていた。
エマから出された課題。
袖を付けるらしい。
難しそうだった。
夕食を食べる。
今日は豆と野菜のスープ。
パン。
焼いた肉。
イナにも肉を分ける。
食べ終わっても、ルークとサラは席を立たなかった。
いつもなら、サラはニコと一緒に動き始める。
秘密基地へ行く。
イナを追いかける。
今日は座ったままだった。
私は二人を見る。
「話す?」
ルークがサラを見る。
サラもルークを見る。
先に口を開いたのは、ルークだった。
「魔法を教える人、この町にいないって」
カイルがルークを見る。
ミラも手を止めた。
二人には、まだ話していなかった。
私はサラの魔力が出たことから説明する。
土が動いた。
カブが抜けた。
モグラを二匹出した。
ニコが口を挟む。
「土」
「モグラ」
サラが訂正する。
どちらでもいい。
ギルドマスターへ相談したこと。
魔法を教える人がいること。
でも、この町には住んでいないこと。
全部話した。
カイルがサラを見る。
「怖くない?」
サラは少し考える。
両手を見る。
「昨日は怖かった」
「今は?」
「モグラ、出せる」
答えになっているかは分からない。
でも、昨日よりは怖くないらしい。
ミラがサラの頭を撫でる。
「習いたいの?」
サラはすぐに頷かなかった。
ルークを見る。
「お兄ちゃんは?」
「僕?」
「習う?」
ルークも答えない。
サラはルークと一緒に行きたい。
多分。
でも、ルークが選ぶ方を自分も選ぼうとしている。
私はサラへ聞く。
「サラは、どうしたい?」
サラが困った顔をする。
「お兄ちゃんと一緒」
「ルークが冒険者になったら?」
「冒険者」
「魔法使いになったら?」
「魔法使い」
同じだった。
ルークの表情が曇る。
嬉しくないわけではないと思う。
でも、自分が選べば、サラの道も決まる。
八歳には重い。
「同じじゃなくていいよ」
私が言う。
サラが私を見る。
「別々?」
「道は別でも、家族は同じ」
サラは黙った。
今すぐ納得しなくてもいい。
六歳だった。
離れることを考えたくないのだと思う。
ルークが言う。
「僕は、冒険者になりたい」
前から決めていた。
森へ行く。
採集する。
依頼を受ける。
町の外へも行く。
そういう冒険者になりたい。
「でも、魔法も習いたい」
「両方できるって言ってた」
私が答える。
「簡単じゃないって」
「簡単な方がいい?」
ルークが考える。
「分からない」
「なら、まだ決めなくていい」
ギルドマスターも言っていた。
まず、魔法を教える人に会う。
話を聞く。
どんな場所で、何を学ぶのか。
それから決めればいい。
ルークは頷いた。
サラも少し遅れて頷く。
話は終わったと思った。
カイルが口を開いた。
「俺も話がある」
見る。
姿勢が少し固い。
「何?」
「商人の店で働きたい」
手伝うではない。
働く。
カイルは、はっきり言った。
「商人になりたい」
驚かなかった。
町へ行く回数。
帰る時間。
持ち帰る紙。
商人を見る目。
何となく分かっていた。
「何を売るの?」
「まだ決めてない」
「商人なのに?」
「何を売るか決める前に、仕入れと帳簿を覚えるんだよ」
少し怒られた。
商人のようだった。
「商人には話した?」
「まだ」
「何で?」
「最初に、みーに言おうと思った」
私はカイルを見る。
十三歳。
三年前より背が伸びた。
でも、まだ私より小さい。
多分。
これから抜かれる。
「住み込み?」
「最初は家から通える。もっと大きな商会で学ぶなら、町に住むかもしれない」
家を出るかもしれない。
初めて聞いた。
でも、止める理由はなかった。
カイルがやりたいことだった。
「分かった」
「いいの?」
「商人に聞く」
カイルが少し笑った。
多分、許可をもらったと思っている。
違う。
商人の労働条件を確認する。
休み。
給料。
仕事の時間。
小さい文字も見る。
絶対だった。
今度は、ミラが手を上げた。
学校ではない。
でも手を上げた。
「私も」
「裁縫?」
ミラが頷く。
分かりやすかった。
「エマさんのところで働きたい。服を作れるようになりたい」
「もう作ってる」
「直しているだけ。最初から全部は作れない」
布を測る。
切る。
縫う。
着る人に合わせる。
覚えることは多いらしい。
エマから正式に弟子へ来ないかと聞かれている。
でも、返事をしていなかった。
カイルと同じ。
先に私へ話そうと思ったらしい。
二人とも町へ通う。
そのうち、町に住むかもしれない。
家の中が静かになる。
少しだけ想像した。
まだ早い。
今は全員いる。
最後にニコを見る。
ニコも私を見た。
「ニコは?」
「勉強したい」
すぐに答えた。
「何の?」
「全部」
無理だった。
多分。
「読みたい本がいっぱいある。数字も、町の昔のことも、魔法のことも知りたい」
「何になるの?」
ニコが首を傾げる。
「ならないと駄目?」
駄目ではない。
勉強した先に仕事があると思っていた。
でも、六歳だった。
先に知りたいでもいい。
「どこで勉強する?」
「分からない」
ギルドの本だけでは足りない。
町に学校があるのか。
先生がいるのか。
私も知らなかった。
また、ギルドマスターへ聞くことが増えた。
全員の顔を見る。
ルークは冒険者になりたい。
魔法も学びたい。
サラは魔法が出た。
まだ、何になりたいかは分からない。
カイルは商人。
ミラは裁縫職人。
ニコは勉強。
三年前は、今日食べるものと、明日寒くないかを考えていた。
今は、その先を考えている。
良いことだった。
多分。
でも。
一人ずつ、行きたい場所ができている。
家から出る道だった。
少し寂しい。
まだ出ていないのに。
私は立ち上がる。
「分かった」
全員が私を見る。
「順番に話を聞く」
カイルは商人。
ミラはエマ。
ルークとサラは魔法を教える人。
ニコは勉強できる場所。
知らないことが多い。
確認することも多い。
「今日は寝る」
ニコが言う。
「本は?」
「寝る」
「まだ早い」
「でも、明日聞く」
「誰に?」
「ギルドマスター」
また行くのか。
受付の人が嫌な顔をしそうだった。
何か起こすわけではない。
進路相談だった。
多分。
子供が五人いる。
道も五つあった。




