第38章 ②-2
ギルドへ入る。
受付の人が私達を見る。
少しだけ身構えた。
三年経っても変わらない。
何か起こすと思われている。
今日は起こさない。
相談だけだった。
「ギルドマスターいる?」
受付の人が奥を見る。
「ご用件は?」
「冒険者の事を聞きたいの」
受付の人の顔が変わった。
ルークを見る。
それからサラを見る。
「少々お待ち下さい」
すぐに奥へ消えた。
待つ。
あまり待たなかった。
ギルドマスター本人が出てくる。
「中で聞こう」
三年前と同じだった。
大事な話は、中でする。
部屋へ入る。
戸が閉まる。
ギルドマスターが椅子を出す。
私は座る。
ルークとサラも座った。
ニコは本棚を見ている。
イナは床へ伏せた。
「何があった」
ギルドマスターが聞く。
私はサラを見る。
サラは両手を膝に置いた。
「土、動いた」
ギルドマスターの表情が変わる。
でも、驚いただけだった。
嫌な顔はしない。
「いつだ?」
「昨日」
「どれくらい動かした?」
サラが手で小さな山を作る。
「これくらい」
「他には?」
「カブ抜いた」
「カブ?」
「まだ早かった」
私が答える。
ギルドマスターは少し黙った。
笑わなかった。
偉い。
「痛みは?」
「ない」
「熱が出た、気分が悪くなった、力が抜けた。そういうことは?」
サラが首を横に振る。
「ちょっと疲れた」
「今日は使ったのか?」
「モグラ出した」
ギルドマスターが私を見る。
説明する。
イメージ。
土の中のモグラ。
頭を出し帰る。
ギルドマスターは最後まで聞いた。
「お前が教えたのか」
「うん」
「土魔法を使えるのか?」
「使えない」
ギルドマスターが額を押さえた。
何故だろう。
「使えない人間が、魔法を教えたのか」
「イメージで出来た」
「出来たかどうかの話ではない」
でも出来た。
サラも頷いている。
ギルドマスターは深く息を吐いた。
「無理はさせるな」
「してない」
「一日に何度使わせた」
数える。
カブ。
草。
モグラ二匹。
帰る。
穴を埋める。
固める。
「少し」
「次から数えておけ」
「分かった」
ギルドマスターがサラを見る。
「研究所へ知らせる必要はない」
サラの肩から力が抜けた。
「ここから話を出すつもりもない。だが、扱い方は覚えた方がいい」
「教える人、いる?」
「いる」
すぐに答えた。
私は少し驚く。
もっと難しいと思っていた。
「冒険者?」
ルークが聞いた。
ギルドマスターがルークを見る。
「魔法を使う冒険者もいる」
「弟子、取る?」
「人による」
「魔法使いも、冒険者なの?」
「冒険者になる魔法使いもいる。魔法を研究する者もいる。町や領主に雇われる者もいる。魔道具を作る者もいる」
ルークは黙った。
冒険者になる。
それしか知らなかった。
魔法を使う道が、他にもある。
初めて知ったらしい。
ギルドマスターは続ける。
「お前の火魔法なら、きちんと学べば魔法使いとして働ける」
ルークが顔を上げる。
「魔法使いとして?」
「ああ。火を出せるだけではない。温度を調整する。範囲を決める。長時間維持する。火を消す。周囲へ燃え移らせない。魔力を無駄にしない。学ぶことは多い」
ルークの表情が変わる。
興味がある。
でも、困っている。
冒険者になるつもりだった。
森を歩く。
採集する。
依頼を受ける。
それとは別の道が出てきた。
「冒険者になったら、魔法使いにはなれない?」
「そんなことはない」
ギルドマスターが答える。
「ただ、どちらを先に学ぶかで、身につくものは変わる」
「両方は?」
「できる。簡単ではないがな」
ルークは自分の手を見る。
小さな火を出す。
指先の上で揺れる。
すぐに消した。
「考える」
「今決める必要はない」
ギルドマスターが言う。
ルークは八歳だった。
確かに、今すぐ決めなくていい。
でも。
今まで一本道だった場所に、分かれ道ができた。
サラがルークを見る。
「わたしも?」
ギルドマスターが頷く。
「土魔法を学ぶ道はある」
「冒険者?」
「それもある」
「お兄ちゃんと一緒?」
「選ぶ道が同じならな」
サラも黙った。
今度は二人で悩んでいる。
私はギルドマスターを見る。
「安全な人」
「ああ」
「研究所と関係ない人」
「ああ」
「子供を調べない人」
ギルドマスターは少し考えた。
「一人、心当たりがある」
「冒険者?」
「元冒険者だ。今は弟子を取って、魔法を教えている」
「どこ?」
「この町にはいない」
遠いらしい。
私はルークとサラを見る。
二人も私を見る。
森の家を離れる。
町を離れる。
それは、今まで考えていなかった。
ギルドマスターが言う。
「まず話を通す。会うかどうかは、その後で決めろ」
私は頷いた。
ルークも頷く。
サラは少し迷ってから頷いた。
魔力が出た。
怖かった。
でも、土は動いた。
モグラも出た。
帰った。
少しだけ、自分で動かせた。
サラはもう、両手を強く握っていなかった。




