第38章 ②-1
次の日、畑の端に立つ。
私とカイルとミラを除いた全員。
カイルとミラは町だった。
今日は手伝いではない。
魔法。
サラは両手を握っている。
昨日と同じだった。
土を動かしたくないらしい。
「大丈夫だよ」
昨日も言ったが今日も言う。
サラが私を見る。
「また、カブ抜けたら?」
「カブから離れよう」
畑は危ない。
まだ育っている。
だから、何も植えていない場所へ来た。
少しくらい土が動いても困らない。
穴が空いたら埋めればいい。
ルークがサラの隣に立つ。
「火より安全だよ」
サラがルークを見る。
「そうなの?」
私と同じだった。
火は燃える。
土は燃えない。
土の方が安全な筈だ。
「まず、少しだけ」
私は地面を指す。
「ここ」
サラも見る。
「どうやるの?」
「昨日、何考えた?」
「草、抜きたいって」
草を抜きたい。
それで土が動いた。
なら、イメージで動くのかもしれない。
ラノベでは、よくある。
私は魔法を使えない。
魔力もない。
でも、ラノベの知識はある。
信用していいかは分からないが、何とかなるだろう。
「土が、少し上がる」
手で形を作る。
「これくらい」
指一本分。
小さく。
サラが地面を見る。
じっと見る。
何も起きない。
「上がるって考える」
「考えてる」
難しい。
私は少し考える。
「土の下に、モグラ」
サラが顔を上げる。
「もぐら?」
いなかった。
この世界で見たことがない。
説明する。
「土の中にいる、小さい動物」
「ねずみ?」
「似てる」
「モグラが、下から頭を出す」
私は拳を地面から持ち上げる。
「こう」
サラが拳を見る。
地面を見る。
もう一度、拳を見る。
少し笑った。
「土の中にいるの?」
「いると思う」
この世界にもいるかは知らない。
でも、イメージだからいい。
サラが地面へ手を向ける。
「もぐら」
土が動いた。
小さく盛り上がる。
拳より小さい。
でも、昨日より形がはっきりしていた。
サラが目を見開く。
「出た」
「出たね」
モグラではない。
土が盛り上がった。
サラがしゃがむ。
盛り上がった土へ触る。
普通の土だった。
熱くもない。
硬くもない。
「もう一回」
今度は自分から言った。
少し離れた場所を見る。
手を向ける。
「もぐら」
土が盛り上がる。
最初より少し大きい。
サラが笑った。
怖そうな顔ではなかった。
「二匹」
「土だけどね」
ニコが言った。
それは言わなくていい。
サラがニコを見る。
「もぐらなの」
「土だよ」
「もぐら!」
揉めそうだった。
止める。
「次、戻そう」
サラが盛り上がった土を見る。
「どうするの?」
「モグラが帰る」
拳を下へ戻す。
サラも手を下げた。
「帰る」
盛り上がった土が、少し下がる。
元通りではない。
小さな山が残った。
でも、下がった。
「帰った」
サラが嬉しそうに言う。
良かった。
モグラに任せていいのかは分からない。
でも、動かせた。
自分で出した。
自分で止めた。
それが大事だった。
次は、小さな穴を埋める。
土を横へ動かす。
少し固める。
一度にたくさんはしない。
疲れたら終わる。
サラに聞く。
「疲れた?」
「ちょっと」
「終わり」
「もう一回」
「終わり」
魔力切れがどうなるのか知らない。
無理はしない。
サラは少し不満そうだった。
昨日とは逆だった。
それでいい。
ルークは、サラが作った小さな山を見ていた。
「僕も、こうやって覚えたら違ったのかな」
「火?」
「うん」
ルークは誰にも教わっていない。
使いながら覚えた。
パン屋の窯。
明かり。
焚き火。
失敗もしたと思う。
聞いていないだけで。
「今からでも覚えられる」
私が言うと、ルークは自分の手を見た。
「冒険者になったら、教えてもらえるかな」
「魔法使う冒険者、いると思う」
ラノベにはいた。
剣士。
弓使い。
魔法使い。
回復役。
大体、四人か五人で組む。
荷物持ちもいる。
この世界も同じとは限らない。
でも、冒険者がいる。
魔法使いもいる。
魔法を使う冒険者も、多分いる。
「弟子にしてもらう?」
ルークは少し考えた。
「冒険者の?」
「魔法使いの」
「魔法使いも冒険者なの?」
町で見た冒険者は、武器を持っていた。
居た筈だ。
私が移転したばかりの時に質問責めにした。
「聞いてみよう」
私は言った。
分からない時は、知っている人に聞く。
今回は冒険者だ。
なら、ギルドマスター。
サラの魔力を隠したままにすることも考えた。
でも、サラは六歳。
これから力が強くなるかもしれない。
私のモグラだけで、全部教えられるとは思わない。
ルークの火も同じだった。
二人を研究所へ渡さない。
それと、魔法を学ばせないことは違う。
その日の午後。
町へ行った。
私とルークとサラ。
ニコも来た。
本を返すらしい。
イナも来た。
いつものことだった。




