第38章 ①
三年が過ぎた。
小屋には、誰も送られてこなかった。
代わりに、物が増えた。
綺麗な石。
変わった形の枝。
木の実。
何かの羽。
綺麗な布。
使い道の分からない木の板。
全部、子供達の宝物だった。
三年前に中には物を置かないように言った。
今は座る場所もない。
誰かが来たら困る。
そう言うと、サラとニコは片付ける。
次の日には戻っている。
本当に秘密基地になった。
秘密は増えるものらしい。
イナも時々、骨を隠している。
それは見つけたら外へ出した。
家も変わった。
最初に建てた時より、少し広くなった。
ハンスが棚を作った。
カイルとルークが寝る場所も広げた。
ミラには自分の道具を置く箱がある。
サラとニコにも一つずつ箱がある。
大体、空だった。
二人の物は秘密基地にある。
畑も広がった。
カルト芋。
カブ。
ニンジン。
葉物。
豆。
毎年作るものが決まってきた。
何をいつ植えるかも、大体分かる。
失敗もした。
芽が出ない年。
虫に食べられた葉。
雨が多すぎて腐った芋。
全部上手くはいかない。
でも、食べるものは足りている。
少し余る。
余った分は町へ持っていく。
商人が買う。
また何か持ってくる。
相変わらずだった。
子供達は大きくなった。
カイルは十三歳。
もう子供と言うと、少し嫌そうな顔をする。
背も伸びた。
荷物も持てる。
町へ一人で行くことも増えた。
商人の店へ行くと、なかなか帰ってこない。
何をしているのか聞く。
「手伝ってる」
それだけだった。
多分、遊んでいるわけではない。
商人が帰さないのかもしれない。
ミラは十一歳になった。
前より口数が増えた。
でも、静かなところは変わらない。
縫い物をしている時は、特に静かだった。
エマに教わりながら、服を直す。
今では私より上手い。
最初から私も上手くない。
比べる相手が悪かった。
ルークは八歳。
森の中を歩くのが速くなった。
採れるものも分かる。
危ない場所も覚えた。
火魔法も前より強くなった。
ルークとサラだけで暮らしていた頃は、町のパン屋で火を使い、食べ物をもらっていた。
今も、町へ行けば火を頼まれることがある。
ただ出すだけではない。
大きさを変える。
場所を選ぶ。
長く保つ。
誰にも教わっていない。
自分で覚えた。
冒険者になると言っている。
いつから決めていたのかは分からない。
サラとニコは六歳になった。
同じ年でも、全然違う。
サラはルークの後ろを付いて歩く。
畑を手伝う。
料理も少しする。
最近は、自分で髪を結ぼうとしている。
上手くいかない。
結局、ミラに頼む。
ニコは文字を覚えた。
商人が持ってくる紙を見る。
袋に書かれた文字も読む。
読めない文字があると聞いてくる。
私にも読めないものがある。
この世界の難しい文字。
そう言うと、ニコは商人へ聞きに行く。
商人にも分からない時は、ギルドマスターへ聞く。
ギルドマスターにも分からない時は、書記へ聞く。
止まらない。
知りたいらしい。
イナは元から大きかったので、よく分からない。
食べる量は増えた。
それは分かる。
赤ちゃんだった子も、時々遊びに来る。
もう赤ちゃんではない。
走る。
喋る。
サラとニコの後ろを追いかける。
ハンスとエマも一緒だった。
元気だった。
それでいい。
三年経っても、崩れた場所は開けていない。
平らな石も、そのまま隠してある。
誰にも話していない。
その日も、いつもと同じ朝だった。
朝食を食べる。
片付ける。
カイルは町へ行く準備をしていた。
商人の店を手伝うらしい。
ミラも町へ行く。
エマの仕事場で、布の裁ち方を教わると言っている。
「夕方までに帰る」
カイルが言う。
「暗くなる前に」
「分かってる」
ミラも頷く。
二人で町へ向かった。
ルークは森へ行く。
採集だった。
私も行くつもりだった。
でも、畑を見ると草が増えている。
先に抜いた方がいい。
サラとニコと一緒に畑へ向かった。
イナも来る。
畑へは入れない。
三年経っても同じだった。
柵の外から見ている。
草を抜く。
サラも抜く。
ニコは畑の端に座っていた。
商人から借りた紙を読んでいる。
手伝うように言う。
「これ読んでから」
「雑草は待たないよ」
ニコが畑を見る。
草を見る。
少し残念そうに紙を置いた。
三人で草を抜く。
日が高くなる。
暑い。
水を飲む。
少し休む。
その時だった。
サラが声を上げた。
「あっ」
見る。
手に何か持っている。
カブだった。
まだ小さい。
収穫する時期ではない。
「抜いた?」
サラが首を横に振る。
「抜いてない」
でも、カブは手の中にある。
葉も付いている。
根の先には土が付いていた。
抜いたようにしか見えない。
「何した?」
「草、抜こうとした」
サラが地面を指す。
そこには、小さな穴が空いていた。
カブがあった場所。
その周りの土が、少し盛り上がっている。
私はしゃがむ。
土へ触る。
柔らかい。
指で掘った跡ではない。
サラの手も汚れていなかった。
「もう一回」
サラが私を見る。
「草?」
「カブは駄目」
まだ早い。
畑の端に生えている草を指す。
サラが草を見る。
手を伸ばす。
触れる前に、土が動いた。
ほんの少し。
草の根元が持ち上がる。
土ごと。
サラが手を引いた。
草が落ちる。
土も落ちた。
静かになる。
ニコが紙を持ったまま見ていた。
「今の何?」
サラは答えない。
自分の手を見る。
私も見る。
何もない。
でも、動いた。
土が。
ルークは火。
サラは土だった。
三年前。
サラの魔力は発現していなかった。
今は六歳。
出てもおかしくない。
多分。
サラの目に涙が溜まった。
「やだ」
小さな声だった。
私は立ち上がる。
サラの前へ行く。
「大丈夫」
「やだ」
サラは両手を握った。
土を動かしたくないらしい。
怖いのだと思う。
魔力が。
それを調べる場所が。
魔力を持つ子供に何をする人がいるのか。
サラは覚えていないことも多い。
でも、全部忘れたわけではない。
私はサラの手を包む。
「研究所には行かないよ」
サラが私を見る。
「ほんと?」
「行かない」
調べない。
渡さない。
誰にも連れて行かせない。
サラが少しだけ手の力を抜いた。
その時、森の方からルークが戻ってきた。
いつもより早い。
籠は半分しか埋まっていない。
私達が畑の端に集まっているのを見て、走ってくる。
「どうしたの?」
サラがルークを見る。
それから、自分の手を見る。
「土、動いた」
ルークが止まる。
サラの手を見る。
畑を見る。
小さなカブを見る。
表情が変わった。
驚いた。
でも、それだけではない。
怖がっている。
サラではなく。
自分が。
多分。
私はルークにも言う。
「研究所には行かないよ」
ルークはすぐには答えなかった。
やがて頷く。
サラの隣へ座る。
「もう一回、できる?」
サラが首を横に振った。
「やだ」
「分かった」
ルークは、それ以上聞かなかった。
二人で畑に座っている。
兄と妹。
二人とも魔力がある。
私は二人を見る。
魔力が無ければ。
そう思ったことはある。
無い方が安全だった。
研究所へ狙われない。
調べられない。
怖い思いをしない。
でも。
サラにはあった。
無いことにはできない。
隠すことはできても、消すことはできない。
扱い方が分からないままでは困る。
サラは土を動かしたくないと言った。
それでも、また動くかもしれない。
教える人が必要だった。
研究所ではない場所。
子供を研究体と呼ばない人。
魔力を、魔力として教える人。
イメージなら私のラノベ脳でいけないだろうか...。
冒険者は弟子を取らないだろうか。




