第37章 ⑥
崩れた場所は、しばらく開けないことにした。
準備が必要だった。
支える木。
石を運ぶ道具。
崩れないようにする知識。
私達には足りない。
商人に相談すれば、職人を探してくれると思う。
ギルドマスターへ話せば、もっと詳しい人を呼べるかもしれない。
でも。
その先には国がいる。
古い遺跡かもしれない。
人を別の場所から移せるかもしれない。
そんなものがあると知られたら、どうなるか。
多分。
調べるから出て行けと言われる。
洞窟は封鎖される。
家も近い。
畑も近い。
どこまで立ち入りを止められるか分からない。
そして、国は使おうとする。
研究所と同じだった。
子供を助けるものでも、使う人が変われば別のものになる。
私は見た。
だから、言わない。
夕食の後、全員へ話した。
「洞窟で見つけたこと、外で言わない」
カイルが頷く。
ミラも頷いた。
ルークは少し考えてから聞いた。
「商人にも?」
「今は言わない」
商人を信用していないわけではない。
でも、商人が知れば、何かあった時に隠させることになる。
知らなければ、聞かれても答えられない。
その方がいい。
多分。
サラとニコも頷いた。
分かっているかは怪しい。
「奥、危ない。行かない」
二人へ言う。
サラが答えた。
「いかない」
ニコも答える。
「いく」
違う。
「行かない」
「いかない」
今度は合った。
イナにも言う。
「行かない」
尻尾を振った。
分かっていない。
翌日。
カイルとルークと一緒に、崩れた場所へ戻った。
昨日外した小さな石を元へ戻す。
平らな石が見えないように重ねる。
完全に同じには戻らない。
でも、何も知らずに見れば、ただ崩れているように見えた。
これでいい。
しばらくは触らない。
洞窟を出ようとして、入口で止まった。
赤ちゃんがいた場所を見る。
籠が置かれていた場所。
見つけた日は晴れていた。
雨は降っていなかった。
風も強くなかった。
だから良かった。
でも、次も同じとは限らない。
次。
また来ると決まったわけではない。
来ない方がいい。
子供が研究所から消える必要がない方がいい。
でも。
ルークとサラが来た。
赤ちゃんも来た。
二度あった。
三度目がないとは言えない。
「小屋を造る」
カイルが私を見る。
「どこに?」
私は洞窟の入口近くを指した。
赤ちゃんが見つかった場所の少し脇。
洞窟へ入る時にも邪魔にならない。
「何の小屋?」
「屋根」
「屋根?」
「また来た時、濡れないように」
カイルが赤ちゃんのいた場所を見る。
ルークも見る。
二人とも何も言わなかった。
その日のうちに造り始めた。
大きなものはいらない。
人が住む家でもない。
柱を四本立てる。
屋根を載せる。
壁は三方向。
それだけ。
残っていた木を運ぶ。
カイルとルークが地面へ穴を掘る。
私が柱を立てる。
ミラが細い枝をまとめる。
サラとニコも枝を運んだ。
短い枝。
細い枝。
途中で拾った葉。
葉はいらない。
でも持ってきたので、端へ置いた。
イナも何か咥えてきた。
太い枝だった。
使えそうだった。
受け取る。
イナがもう一度森へ走る。
仕事だと思ったらしい。
柱を立て、横木を渡す。
縄で縛る。
揺らしてみる。
少し揺れた。
縛り直す。
今度は大丈夫だった。
屋根には板を並べた。
隙間を少なくする。
少し傾けて、雨が後ろへ流れるようにする。
壁も板と枝で塞いだ。
立派ではない。
隙間もある。
強い風なら少し入る。
でも、何もない場所へ置かれるよりはいい。
夕方には、小さな掘っ立て小屋ができた。
戸はない。
床もない。
洞窟の方が開いている。
中へ入ってみる。
籠を置くには十分だった。
子供一人なら横になれる。
大人は無理。
しゃがめば入る。
ニコが入った。
サラも入る。
イナも入った。
狭い。
「出て」
三人とも出ない。
小屋だった。
新しいものだった。
入りたくなるらしい。
仕方ないので、少し遊ばせた。
その間に、屋根を見る。
穴はない。
多分。
雨が降らないと分からない。
降ったら確認する。
ルークが小屋の柱へ触れた。
「ここに来るかな」
「分からない」
赤ちゃんは小屋を造る前に来た。
次に誰かが来ても、小屋の中へ現れるとは限らない。
少し離れた場所かもしれない。
洞窟の中かもしれない。
だから、朝と夕方に入口の周りを見ることにした。
今までも通る場所だった。
少し気にして見ればいい。
私は小屋から少し離れる。
洞窟の入口。
その脇に、小さな屋根と壁ができた。
何に使うのか聞かれても困らない。
子供達の秘密基地。
それでいい。
実際、もう三人入っている。
二人と一匹。
秘密にはなっていなかった。
遊ぶ時も、中には物を置かないように言った。
誰かが来る場所になるかもしれない。
誰も来ない方がいい。
でも。
来るなら、晴れの日とは限らない。
屋根と壁は必要だった。




