第36章 ⑦
女の人に礼を言う。
商人にも言う。
聞きたいことは聞けた。
次は買い物だ。
教えてもらった子供服の店へ行く。
小さな店。
新しい服と古着が、分けて重ねてある。
私は古着を見る。
赤ちゃんはすぐ大きくなる。
新品でなくてもいい。
破れていない物。
肌に当たるところが硬くない物。
少し大きめの服を三枚選んだ。
次は布。
オムツに使う物。
下へ敷く物。
体を拭く物。
赤ちゃんがいると何枚あっても困らない。
でも、持ち帰れる量には限りがあった。
柔らかい布を選び、畳んでもらう。
山羊の乳は、朝に売りに来るらしい。
今日はもう無かった。
明日、また来ればいい。
少し遠い。
でも歩ける。
最後にカルト芋を買う。
カイルが大きな袋を持った。
ルークには小さな袋。
二人とも、一度持ち上げて重さを確かめる。
「歩ける?」
「大丈夫」
カイルが答える。
ルークも頷いた。
多分、重くても言わないだろうな。
途中で見ておこう。
ミラは畳んだ布と服を持つ。
サラとニコは何も持たない。
二人は自分で歩けば、それで十分だった。
イナは元気に尻尾を振っている。
役に立つ気はなさそうだった。
赤ちゃんが入っていた籠は、商人の店へ預けた。
包んであった布も一緒だった。
近くの村や、町へ来る行商人に見せてくれるらしい。
誰かが知っているかもしれない。
見たことがあるかもしれない。
それまでは預けておく。
私達は町を出た。
赤ちゃんは背中にいる。
歩き始めると、すぐ静かになった。
揺れるのがいいらしい。
しばらくすると眠った。
帰り道の途中で、ルークの腕が少し下がる。
歩く速さも遅くなっていた。
「芋、二つ出して」
ルークが私を見る。
「まだ持てる」
「ミラの荷物に載せるだけ」
ミラが布を抱えたまま、袋を開ける。
芋を二つ移した。
ルークは何も言わなかった。
でも、歩く速さは戻った。
今日はこれだけ。
カルト芋は、また買えばいい。
カートには急に家を出る時の荷物が積んである。
買い物のためには使えない。
町へ来るたび、持てる分だけ買う。
少しずつ増やせばいい。
家へ着いた。
戸を開ける。
カイルとルークが芋を下ろす。
ミラも荷物を置いた。
私は赤ちゃんを背中から下ろした。
まだ眠っている。
畳んだ毛布の上へ寝かせる。
サラがすぐに寄って来た。
ニコも来る。
二人で赤ちゃんの顔を覗き込んだ。
近い。
でも、見るだけなら問題ない。
私は買ってきた服と布を広げる。
まず洗う。
煮る物は煮る。
着せるのはその後だった。
水を汲んで戻る。
サラとニコの場所が変わっていた。
さっきは頭の側にいた。
今は横にいる。
赤ちゃんが少し顔を動かす。
二人も動く。
顔が見える側へ回ったらしい。
私は鍋へ水を入れた。
火を熾す。
もう一度見る。
今度はサラが足元にいた。
ニコは反対側。
何をしているのだろう。
いや。
見ているだけだった。
赤ちゃんが寝返りを打つ。
二人も動く。
うろうろ。
赤ちゃんの手が毛布から出る。
サラがしゃがむ。
ニコもしゃがむ。
うろうろ。
イナまで来た。
赤ちゃんの匂いを嗅ぐ。
三人で囲んだ。
赤ちゃんは眠ったままだった。
サラが小さな手へ指を伸ばす。
「優しくね」
「うん」
サラの指が赤ちゃんの手に触れた。
小さな指が動く。
サラの指を掴んだ。
サラが目を丸くする。
「掴んだ」
嬉しそう。
ニコも指を出す。
でも、赤ちゃんの手は一つしか空いていない。
しばらく待つ。
反対の手が動いた。
ニコがそこへ指を近付ける。
掴まれた。
「つかんだ」
二人とも動かなくなった。
赤ちゃんの両側で、指を一本ずつ差し出している。
イナは間に鼻を入れようとしていた。
赤ちゃんが目を開ける。
最初にサラを見る。
次にニコ。
最後にイナを見る。
目を何度か瞬いた。
知らない顔が三つあった。
泣くかと思った。
でも、泣かなかった。
サラが笑う。
ニコも笑う。
イナが尻尾を振った。
赤ちゃんの口が少し開く。
声は出ない。
でも、笑ったように見えた。
サラとニコがさらに顔を寄せる。
イナの鼻も近付く。
赤ちゃんが見えなくなった。
囲まれている。
嫌ではなさそうだった。
多分。
鍋の湯が沸き始める。
私は布を沈めた。
振り返る。
三人はまだ赤ちゃんの周りにいた。
少し場所が変わっている。
また、うろうろしたらしい。
昨日まで、この家に赤ちゃんはいなかった。
今日はいる。
それだけで、サラとニコは忙しそうだった。
イナも忙しそうだった。
何をしているわけでもない。
ただ見ている。
近くにいる。
時々、場所を変える。
赤ちゃんが動けば、三人も動く。
家の中が少し狭くなった。
でも。
悪くなかった。




