第36章 ⑤
朝ご飯を食べ終える。
片付ける。
町へ行く準備をする。
赤ちゃんを包んでいた布は畳んだ。
籠も持って行く。
少し大きいけど仕方ない。
この子を知っている人がいても、顔だけでは分からないかもしれない。
籠や布を見れば、気付くこともある。
赤ちゃんは背負った。
今度はミラに手伝ってもらわなくても大丈夫だった。
布を回して、前で結ぶ。
背中の位置を確かめる。
赤ちゃんは少し動いた後、すぐに静かになった。
「寝た?」
サラが覗く。
「まだ」
ミラが答える。
私からは見えない。
やはり少し気になる。
全員で町へ向かうことにした。
家へ残す方が心配だった。
赤ちゃんもいる。
今日は急がない。
カイルが籠を持つ。
ルークは畳んだ布を抱えた。
ミラはサラとニコを見る。
イナは勝手に付いて来た。
いつも通りだった。
町へ着く頃には、背中の赤ちゃんは眠っていた。
途中で何度か確認してもらった。
何度聞いても寝ていた。
「ちゃんと息してる?」
最後には、カイルまで笑った。
「してるよ」
「見えないから」
仕方ない。
町へ入る。
道を歩く人がこちらを見る。
正確には、私の背中を見ていた。
知らない子供が一人増えたのだから当然だった。
それから籠を見る。
籠を持った子供達と、赤ちゃんを背負った大きい女。
少し怪しい。
商人の店へ着く。
店の前にいた男が私達を見る。
背中を見る。
籠を見る。
そして、店の奥へ走った。
すぐに商人が出て来る。
「来たか」
私を見る。
後ろへ回る。
赤ちゃんを見る。
「もう背負っているのか」
「泣くから」
「昨日の布か?」
「借りた」
商人は少し考えた。
それから頷く。
「切ってはいないな?」
「結んだだけ」
「ならいい」
カイルが籠を差し出す。
商人は受け取り、店先へ置いた。
ルークから布も受け取る。
広げる。
端まで見る。
裏返す。
籠の内側も確かめた。
「何か分かる?」
「今のところは何も」
商人は布を指で摘まむ。
「町で売られている物ではない。だが、特別珍しい布でもない」
「籠は?」
「これも普通だ。作った職人までは分からん」
手掛かりにならない。
私は背中へ手を回す。
眠っている赤ちゃんの足に触れた。
温かい。
「この子を知ってる人、いない?」
「昨日から聞かせている。今のところ、子供がいなくなったという話はない」
商人の顔が少し険しくなる。
「近くの村にも使いを出す。行商人にも聞く」
「お願い」
「それで、お前は他に何を聞きに来た?」
分かっていたらしい。
私は頷く。
「食べ物」
「食べ物?」
「昨日、パン粥は食べた。今日も食べた」
商人が背中を見る。
「なら問題ないだろう」
「他の物が分からない」
この子が今まで何を食べていたのか。
何を食べたことがないのか。
体に合わない物があるのか。
布オムツも、この町ではどうしているのか。
順番に話す。
商人は途中から腕を組んだ。
「俺に聞くな」
「知らない?」
「子供を背負って町まで来る女よりは知らん」
それはそうだった。
私は頷く。
商人が少し嫌そうな顔をする。
何故だろう。
「だが、知っている奴はいる」
商人は店の男を呼んだ。
何かを短く伝える。
男が頷き、走って行く。
「誰?」
「この近くで子供を五人育てた女だ」
五人。
頼もしい。
「話を聞ける?」
「今、呼びに行かせた」
「ありがとう」
商人は背中の赤ちゃんを見る。
それから、私の後ろに並ぶ子供達を見た。
「お前のところは、また増えたな」
「まだ分からない」
家族が見つかるかもしれない。
迎えに来るかもしれない。
そうなれば、この子は帰る。
多分その方がいい。
背中で赤ちゃんが目を覚ました。
小さく動く。
私の服を掴む。
商人がそれを見る。
「もう馴染んでいるぞ」
私は何も言わなかった。
まだ一日しか経っていない。
馴染むには早い。
早いはずだった。




