第35章 ⑥
研究所の騒動から、一週間ほど経った。
何も起きていない。
町で新しい騒ぎが起きることもない。
中央研究所が動いたという話も聞かない。
私が知らないだけかもしれない。
でも、少なくとも家の周りは静かだった。
朝起きる。
ご飯を作る。
畑を見る。
町へ行く。
帰ってくる。
少しずつ、いつもの暮らしに戻っていた。
壁際の荷物は、そのまま。
使う物だけ出している。
少し邪魔だった。
でも、まだ片付ける気にはなれない。
もう大丈夫。
そう思って全部戻した日に、何か起きそうだった。
気のせいかもしれない。
それでも戻さない。
今日も朝ご飯を食べた。
片付けをしていると、イナが外へ出ていった。
いつものことだった。
しばらくして。
戻ってくる。
でも、家には入らなかった。
戸の前を行ったり来たりしている。
ルークが外へ出た。
「どうした?」
イナはルークを見る。
それから走った。
少し進んで止まる。
振り返る。
「イナ?」
ルークが近付くと、また走る。
森の奥。
洞窟の方だった。
ルークも追いかけていく。
私は二人を見送った。
何だろう。
また何か見つけたのかもしれない。
私は鍋を洗う。
しばらくして。
外から足音が聞こえた。
速い。
戸が開く。
「みー!」
ルークが息を切らしていた。
「どうしたの?」
「赤ちゃん」
「ん?」
「洞窟の前に、赤ちゃんがいる」
私は手を止めた。
意味が分からない。
「赤ちゃん?」
ルークが何度も頷く。
「イナが見つけた」
私は手を拭いた。
家を出る。
ルークが先を走る。
カイルも来た。
ミラも来る。
サラとニコまで付いてこようとする。
「二人は家にいて」
「いく」
サラが言う。
「ニコも」
今は駄目。
何があるか分からない。
私はカイルを見る。
「二人といて」
カイルは少し迷ってから頷いた。
「分かった」
私はルークとミラを連れて洞窟へ向かう。
入り口の前にイナがいた。
その横に籠。
見間違いではなかった。
布が動いている。
近付く。
中を覗く。
小さな手。
赤ちゃんだった。
生きている。
息もしている。
泣く元気もある。
私は周りを見る。
木。
草。
洞窟。
人はいない。
足音も聞こえない。
もう一度、籠を見る。
赤ちゃんを見る。
「……何でここに!?」
赤ちゃんは答えない。
当然だった。




