表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
304/309

第35章 ⑤ 

家へ戻る。


空になった桶を置く。


サラとニコも器を置いた。


二人の器は、ほとんど濡れていない。


畑までに大半こぼしたから。


仕事はした。


多分。


私は壁際を見る。


荷物が積んである。


服。


食料。


寝具。


鍋。


引っ越すためにまとめたもの。


昨日は、全部持って出るつもりだった。


今は戻っている。


でも。


この先もいられるとは決まっていない。


町の研究所は終わった。


多分。


その上に何があるのかは、まだ分からない。


私は荷物の前へ座る。


一番上の袋を開けた。


手拭い。


着替え。


今日と明日、使う分だけ取り出す。


残りはそのまま。


カイルが隣へ来た。


「片付ける?」


「少しだけ」


「全部じゃなくて?」


「うん」


私はカートを見る。


「使うものだけ出す」


「また引っ越すの?」


「分からない」


分からないから、全部は戻さない。


何かあったら、袋ごとカートへ入れる。


箱も入れる。


それですぐ動ける。


ミラも荷物の前へ来た。


「食べ物は?」


「すぐ食べる分だけ」


パン。


干し肉。


豆。


芋。


今夜と明日の朝に使う分を取り出す。


ルークは鍋の入った箱を見ていた。


「鍋は?」


「一つ出す」


逃げるかもしれなくても、お腹は空く。


ご飯は必要だった。


サラとニコも近付いてくる。


「おてつだいする」


「する」


二人に毛布を任せる。


サラが端を持つ。


ニコも反対側を持つ。


二人で引きずる。


途中でイナが毛布に乗った。


止まった。


「おもい」


それは毛布ではない。


犬。


「イナ、降りて」


イナは少し考えてから立ち上がる。


毛布が急に軽くなった。


サラとニコが後ろへ転ぶ。


「わっ」


「いたい」


痛くはなさそうだった。


二人で笑っている。


イナも尻尾を振っていた。


原因はイナ。


分かっていない。


私は残った荷物をカートの近くへ寄せる。


袋の口を閉じる。


箱の蓋を確かめる。


入り口は塞がない。


カイルも一緒に運ぶ。


「ここでいい?」


「うん」


カートまで数歩。


これなら、すぐに入れられる。


片付けはすぐ終わった。


全部戻していないから。


壁際には、まだ荷物が積んである。


でも。


鍋がある。


毛布もある。


着替えもある。


今日食べる物も出した。


暮らすには足りる。


「しばらく、このまま?」


ミラが聞く。


「うん」


「邪魔じゃない?」


少し邪魔。


でも、安心できる方がいい。


サラが荷物を指した。


「おひっこしするの?」


「今はしない」


「あとで?」


「分からない」


サラは首を傾げた。


私はしゃがむ。


「今は、ここにいる」


今日は。


多分、明日も。


「でも、何かあったら、すぐ動く」


サラはカートを見る。


「みんなで?」


「みんなで」


「イナも?」


「イナも」


イナの尻尾が動いた。


自分の名前だけ分かったらしい。


「ご飯にする?」


ミラが聞く。


私は出した鍋を見る。


外はまだ明るい。


でも、朝はパンだけだった。


温泉へ行って。


畑も見た。


少し早くてもいい。


「作る」


火を起こす。


いつもの場所。


いつもの鍋。


壁際には荷物がある。


その横にはカート。


前とは違う。


でも。


全部戻さなくていい。


全部決めなくてもいい。


必要な物だけ出す。


逃げ道は残す。


それで今日は、ご飯を作る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ