第7話 魔物? 食えるなら食材だろ
包丁とかまどが売れ始めた。
俺にも少しだけ金が入った。
なら次に欲しいものは決まっている。
「食材だ!」
「おー!」
リナが両手を上げる。
意味分かってないだろ、お前。
俺が向かったのは村の狩人、ダグさんの家だった。
庭には獲物が吊るされている。
角兎。
森鹿。
そして。
「……何これ」
巨大なトカゲのような生物。
「火蜥蜴だ」
ダグさんが答える。
「魔物?」
「そうだ。昨日仕留めた」
俺は近づいた。
赤黒い鱗。
太い尻尾。
体長は二メートルほど。
「食える?」
ダグさんが変な顔をした。
「食わんぞ」
「なんで?」
「魔物だぞ?」
答えになってない。
「毒?」
「ない」
「臭い?」
「臭い」
「肉は硬い?」
「死ぬほど硬い」
なるほど。
俺はニヤリとした。
「ちょっとくれない?」
「何する気だ」
「食べる」
「話聞いてたか?」
結局、尻尾の肉を無料でもらった。
どうせ捨てる部分らしい。
家へ持ち帰ると母さんが悲鳴を上げた。
「レン! それ魔物でしょう!?」
「うん」
「捨ててきなさい!」
「毒はないよ」
「そういう問題じゃありません!」
文化的な忌避か。
面倒だな。
だが俺は諦めない。
まず薄く切って焼いてみる。
一口。
「……くっさ!」
硬い。
臭い。
そして妙な酸味。
なるほど。
これは確かにそのままじゃ食えない。
でも。
食えない肉と、食いにくい肉は違う。
俺は少量を切り分けた。
香草。
塩。
酸味のある実。
さらに乳。
前世で肉の臭み取りに乳製品を使った経験がある。
半日漬け込む。
その間に筋を切る。
さらに包丁の背で叩く。
翌日。
表面の水分を拭き取り、薄く油を引いた鉄板へ。
ジュウウウッ!
香草の匂いが立つ。
「おにーちゃん、いいにおい!」
リナがやってきた。
「待て。実験中だから最初は俺」
一口。
噛む。
「…………」
硬い。
まだ硬い。
だが。
「いける」
臭みがかなり消えている。
味は鶏肉と牛肉の中間。
噛むほど旨味が出る。
改良すれば十分料理になる。
「わたしも!」
「ちょっとだけな」
小さく切ってリナへ渡す。
もぐもぐ。
「おいしい!」
その声を聞いて母さんも恐る恐る口にした。
「……本当に魔物なの?」
「うん」
「こんな味だったのね……」
俺の頭の中で何かがつながった。
この世界では魔物を食べない。
でも魔物は大量にいる。
つまり。
誰も食材だと思っていない肉が、
ほぼタダで手に入る。
「……宝の山じゃん」
その日の午後。
ダグさんの家へ走った。
「火蜥蜴、全部売って!」
「は?」
「捨てるところでいい!」
「何に使う?」
「料理!」
「お前、本気で魔物食ってんのか!?」
当然だ。
食えるなら食う。
貧乏人に食材を選り好みする余裕なんてない。
前世からずっとそうだった。
しかし。
その時。
「面白い子供ですね」
知らない声がした。
振り向く。
白い法衣を着た少女が立っていた。
俺より五、六歳上だろうか。
銀色の髪。
整った顔。
そして胸には――
あの旅人と同じ。
輪の中に枝が広がったような銀の紋章。
少女は微笑んだ。
「魔物を食べるなんて」
その目は、笑っていなかった。
「神々への冒涜ですよ?」




