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神々のいない食卓~日本の消えた異世界で、料理好きの俺は和食を作る~  作者: ちゃむたろう
第一章 日本のない世界で、妹に料理を

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第6話 俺の相棒は、この世界初の包丁

屋台で肉串を売った翌朝。


俺は机の上に銅貨を並べていた。


一枚、二枚、三枚……。


「おにーちゃん、おかねもち?」


リナが目を輝かせる。


「ふっふっふ。そう見えるか」


「うん!」


「残念ながら貧乏だ」


「びんぼー!」


楽しそうに言うな。


材料費と場所代を引けば、残った利益はそれほど多くない。


それでも七歳児の稼ぎとしては上出来だ。


そして使い道は決まっている。


「包丁を買う」


「ほーちょー?」


「ああ。料理人の相棒だ」


俺が今使っている小刀は、切るというより押し潰している。


前世なら百円ショップの包丁にすら土下座するレベルだ。


俺は銅貨を握りしめ、バルクさんの工房へ向かった。


「包丁を作ってほしい」


「帰れ」


三秒だった。


「金ならある!」


机に銅貨を置く。


バルクさんは数えて鼻で笑った。


「足りん」


「そこをなんとか」


「鉄が高いんだよ」


この世界では良質な鉄製品は貴重だ。


特にこんな辺境の村では、農具の修理が優先される。


料理専用の刃物など贅沢品。


「じゃあ小さくていい」


「小さく?」


「刃渡りはこれくらい」


手で示す。


「薄くして。厚みはいらない」


バルクさんが眉をひそめる。


「すぐ折れるぞ」


「骨は切らない。野菜と肉だけ」


「変な刃物だな」


「包丁だから」


「だから何なんだ、そのホーチョーってのは」


説明しても分かってもらえない。


俺は地面に形を描いた。


刃は片側を中心に研ぐ。


握りやすい柄。


重心は少し前。


前世で使っていた万能包丁を思い出しながら説明する。


バルクさんの顔が次第に職人のものへ変わった。


「……面白い」


「作れる?」


「誰に言ってんだ」


三日後。


俺の手に、この世界で初めての包丁が収まった。


もちろん前世の包丁には遠く及ばない。


鉄の質も悪い。


刃も厚い。


それでも。


トン。


玉ねぎに似た根菜が切れた。


トン、トン、トン。


「おおおおお……!」


切れる!


ちゃんと切れる!


文明!


文明万歳!


「うるせえ!」


バルクさんに殴られた。


その日の夕食。


俺は包丁を使って野菜を細く切った。


切り方が変わるだけで、火の通り方も食感も変わる。


硬い根菜は薄く。


柔らかい葉物は大きめに。


肉は筋に対して垂直に。


それだけで昨日までとは別物になる。


「同じ野菜なのに……」


母さんが不思議そうに食べている。


「料理って、切り方でも味が変わるんだよ」


「へえ……」


父さんは無言で二杯目をよそっていた。


そしてリナは。


「おにーちゃん!」


「はいはい」


「おかわり!」


「よく食うなあ」


笑いながら皿によそう。


こういうのでいい。


俺は別に、この世界で英雄になりたいわけじゃない。


強大な魔術師になりたいわけでもない。


家族が美味いと言って飯を食う。


それだけで十分だ。


――と思っていたのだが。


「レン」


翌日。


バルクさんが家に来た。


「どうしたの?」


「お前の包丁を見せてくれ」


「いいけど」


包丁を渡す。


バルクさんは刃を眺める。


「昨日な。旅商人がお前の包丁を見て、同じ物が欲しいと言ってきた」


「え?」


「それだけじゃねえ。あのかまどもだ」


嫌な予感。


「何個?」


「包丁が五本。かまどが十二基」


「……マジ?」


「まじ、って何だ?」


俺は頭を抱えた。


ただ美味い飯が作りたかった。


それだけなのに。


どうやら俺は知らないうちに、


この世界に存在しなかった「調理道具」という市場まで作り始めていたらしい。


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