第19話 俺の料理が村を壊す?
祭りの三日後。
問題が起きた。
「燻製小屋を壊せ?」
村長の家。
知らない男が三人座っていた。
町の商業組合から来たという。
「許可のない加工食品を販売した」
代表の男が言う。
「加工?」
「肉を燻し、価値を変えている。これは職人業だ」
何それ。
「村で食べるだけなら問題ない。しかし他所へ売った」
村長が困っている。
どうやら町には職人ごとの権利があるらしい。
パンはパン職人。
鍛冶は鍛冶師。
酒は醸造家。
勝手に新しい商品を売ると揉める。
俺は知らなかった。
また突っ走った。
「罰金は?」
父さんが聞く。
男が金額を言う。
村中の冬支度が吹き飛ぶ額だった。
「そんな……」
母さんの顔が青ざめる。
俺のせいだ。
胸が重い。
美味くしたかっただけ。
食料を無駄にしたくなかった。
でも結果として。
村に迷惑をかけた。
「俺が――」
「レン」
父さんが止めた。
「大人の話だ」
「でも俺が始めた!」
「だからって七歳の息子に責任を押し付ける親がいるか」
「でも!」
父さんの顔が厳しくなる。
「一人で全部背負うな」
言葉が刺さった。
俺の悪い癖。
思いついたら走る。
前世でもそうだった。
妹のために何でも自分でやろうとして、逆に心配された。
その時。
「少しよろしいですかな」
ハーゲンが入ってきた。
商人。
いつもの笑顔。
「この燻製技術ですが、既存の職人業に該当しません」
「何?」
「煙で保存する技術は従来にもある。しかしレン君たちの方法は温度管理、香木、魔物肉利用を組み合わせた別技術です」
紙を出す。
「先日、町で新規加工法として申請しておきました」
俺は目を丸くする。
「なんで?」
「商人ですから」
ニヤリ。
「価値が出ると思ったものには、先に札を立てる」
結果。
罰金は取り消された。
代わりに村は商業組合へ少額の登録料を払うことになった。
騒ぎが終わった後。
俺はハーゲンに頭を下げた。
「ありがとう」
「珍しい。君でも頭を下げるのだね」
「俺、何も知らなかった」
悔しい。
料理だけ知っていても駄目だ。
社会にはルールがある。
人がいる。
生活がある。
「レン君」
ハーゲンが言う。
「世界を変えるのは簡単だ」
「簡単?」
「新しいものを一つ持ち込めばいい」
そして表情を真面目にする。
「難しいのは、変えた後だ」
俺は何も言えなかった。
その夜。
リナに飯を作る。
いつもの煮込み。
「おにーちゃん、おいしい!」
その笑顔を見る。
俺は決めた。
突っ走るのはたぶん治らない。
でも。
次は。
走る前に、誰かを見る。
誰かに聞く。
一人で世界を変えようとしない。
料理だってそうだ。
一人で食べるより。
みんなで食べた方が美味いんだから。




