第18話 村祭りと、最初の「いただきます」
冬の前。
村では収穫祭が行われる。
といっても、俺が想像していた祭りとは違う。
踊る。
酒を飲む。
肉を焼く。
以上。
「料理担当やってくれ」
村長に言われた。
やっぱりそうなるよね。
一人じゃ無理なので、料理教室に来た人たち総動員。
俺が考えたのは大鍋料理。
根菜。
茸。
魔物肉。
乾燥香草。
そして出汁。
大量に作れば一人あたりの食材も少なくて済む。
「まず肉を焼く!」
「煮るんじゃないの?」
「先に焼くと香ばしくなる!」
大人たちが動く。
俺が全部作る必要はない。
むしろ最近、それが楽しい。
自分のやり方を誰かが覚える。
その人が少し変える。
さらに美味くなる。
料理は俺のものじゃない。
食べた人のものになっていく。
夕方。
巨大な鍋から湯気が上がった。
百人分。
「できたぞ!」
歓声。
木椀によそう。
しかし俺はふと思った。
食べる前。
前世では家族で必ず言っていた。
「いただきます」
別に神様に言っていたわけじゃない。
作ってくれた人。
食材。
命。
色んな意味があると教わった気がする。
俺は椀を持つ。
「レン?」
「食べる前にさ」
みんなを見る。
「俺の前いたところでは、こう言ってたんだ」
しまった。
前いたところ。
でももう止めなかった。
「いただきます」
「イタダキマス?」
リナが真似する。
「いただきます!」
母さん。
父さん。
料理を手伝った人。
一人。
また一人。
意味も知らないのに。
「いただきます」
村中へ広がる。
その瞬間。
胸の奥が熱くなった。
怖いくらい。
でも何も起きない。
神殿も壊れない。
空も光らない。
ただ。
みんなが飯を食う。
笑う。
「うまい!」
「肉が柔らかい!」
「この茸の汁いいな!」
子供たちが走る。
老人が酒を飲む。
リナが俺の膝で食べている。
それだけ。
それだけなのに。
俺は思った。
もし日本が本当に消えたとして。
土地も。
人も。
歴史も。
でも。
俺が覚えている言葉を誰かが使った。
その瞬間。
日本は、本当に全部消えたと言えるのだろうか。
「おにーちゃん」
「ん?」
「いただきますって、どういういみ?」
少し考える。
「ありがとう、みたいなもんかな」
「だれに?」
難しいな。
俺は笑った。
「いっぱい」
「いっぱい?」
「作った人とか。食べ物とか。生きてることとか」
リナはよく分からない顔。
でも。
「いただきます!」
もう一度言って食べた。
その夜。
村から遠く離れた巨大な神殿。
誰も触れていない石碑に。
一文字。
新しい文字が刻まれた。
『食』




