第14話 美味い飯は、金になる
冬支度が進むにつれて、村に一つの変化が起きた。
商人が増えた。
理由は簡単。
燻製肉だ。
もともと捨てていた魔物肉を加工し、保存できるようになった。
しかも美味い。
近隣の村から買い付けが来る。
「一束、小銅貨四枚だ!」
「いや五枚!」
村の広場が市場みたいになっている。
村長は大喜び。
狩人たちも大喜び。
バルクさんも燻製箱の注文で大忙し。
そして俺は。
「……これ、まずくない?」
「美味しいぞ?」
父さんが燻製肉を食べながら答える。
「味の話じゃない!」
問題は価格だった。
魔物肉が売れると知った途端、肉の値段が上がった。
今まで捨てていた肉まで取り合いになる。
我が家の食費にも影響が出始めた。
「市場ってこうなるのか……」
前世で習った需要と供給。
教科書では簡単だった。
実際に自分の夕飯が高くなると笑えない。
そこへ一人の男がやってきた。
名はハーゲン。
近くの町を拠点にする商人。
太った体。
派手な指輪。
そしてよく笑う。
「レン君!」
「……はい」
「君の料理、実に素晴らしい!」
嫌な予感しかしない。
ハーゲンは袋を机に置いた。
じゃら。
銀貨。
俺が屋台で稼いだ金とは桁が違う。
「これで、燻製と漬物の作り方を私だけに教えてほしい」
「村のみんなもう知ってるけど」
「なら、今後君が考える料理をすべて私に売ってほしい」
父さんの顔が険しくなる。
「どういう意味だ」
「難しい話ではありません。レン君が料理を考える。私が売る。利益を分ける」
一見、悪くない。
俺は料理に集中できる。
材料も道具も手に入る。
でも。
「それ、他の人は作っちゃ駄目?」
ハーゲンの笑顔が少し固まった。
「もちろん商売ですから」
「じゃあ嫌」
即答した。
「なぜ?」
「だって、腹減ってる人が自分で作れないじゃん」
ハーゲンが黙る。
「金持ってる人しか食えない料理にしたいわけじゃない」
俺の原点は貧乏だった。
金がなくて。
妹に我慢させて。
だから安い材料で美味しくする方法を覚えた。
それを今度は金持ちだけのものにする?
冗談じゃない。
「料理を売るのはいい」
俺は言った。
「でも作り方まで独占させない」
ハーゲンはしばらく俺を見る。
そして突然、大声で笑った。
「はははは!」
「何?」
「いや。損をする子供だと思ってね」
「悪かったな」
「だが面白い」
彼は銀貨の袋を引っ込めた。
「なら別の取引をしよう」
「別?」
「君の料理を独占するのではない」
机へ一枚の紙を広げる。
地図。
村から西へ続く街道。
その先に大きな町。
「君の料理を、もっと大勢に食べさせてみないか?」
俺の胸が高鳴った。
村の外。
新しい食材。
新しい道具。
でも同時に。
日本がない世界地図が頭をよぎった。
外へ出れば。
もっと何かが分かるかもしれない。
「町には何がある?」
「市場、鍛冶工房、魔法道具、珍しい香辛料。それから――」
ハーゲンが笑う。
「本物の料理人もいる」
その言葉に。
俺の料理人魂が反応した。
「……本物?」
「ああ」
「この世界にも料理人いるの?」
「当然だ」
知らなかった。
俺は思わず身を乗り出す。
「どんな料理作るの?」
ハーゲンはニヤリとした。
「知りたければ、自分で見に来ることだ」
くそ。
商人め。
人の釣り方を分かってやがる。




