第13話 七歳児の料理教室
村の広場に集まったのは、十二人だった。
ほとんどが母親。
そして全員、俺を疑わしそうに見ている。
当然だ。
「この子に料理を習うの?」
「ミラの息子でしょう?」
「魔物を食べるっていう……」
聞こえてるぞ。
俺は咳払いした。
「今日は、冬でも食材を美味しく残す方法を――」
「レン!」
リナが最前列から手を上げる。
「はい」
「おなかすいた!」
「あとで!」
笑いが起きた。
少し空気が柔らかくなる。
最初は乾燥茸。
次に燻製。
最後に漬け野菜。
俺は原理を難しく説明しない。
水分が少ないと腐りにくい。
煙を当てると長持ちする。
塩を使うと野菜から水が出る。
それだけ。
だが問題が起きた。
「そんなに時間をかけられないわよ」
一人の女性が言った。
「子供の世話もある。畑もある。薪も集めなきゃ」
俺は口を閉じた。
そうだ。
俺は料理が好きだから時間を使える。
でも全員がそうじゃない。
前世の母さんだってそうだった。
料理に手を抜いていたんじゃない。
時間がなかった。
「……じゃあ、まとめてやろう」
「え?」
「一軒ずつ燻製箱を作る必要ないじゃん。村に一つ大きいの作って、みんなで使えばいい」
ざわめく。
「茸もまとめて乾かした方がいい。風魔法使える人いる?」
二人手が上がった。
「火魔法は?」
三人。
「土魔法」
一人。
なるほど。
俺一人でやらなくてもいい。
むしろその方がいい。
その日の午後。
バルクさんまで巻き込み、村の共同燻製小屋を作ることになった。
父さんは木材。
土魔法が使えるおばさんが壁。
火魔法持ちは温度管理。
俺は煙の流れを考える。
「煙突はこっち」
「なんで?」
「空気が入らないと煙が抜けないから」
「なんで七歳児がそんなこと知ってるんだ?」
「天才だから」
便利だな、この言葉。
三日後。
共同燻製小屋が完成した。
村長が試作品を食べる。
「……うまい」
そして次に出た言葉が意外だった。
「これなら狩人が獲った肉を捨てずに済むな」
俺は気づいた。
料理は食卓だけを変えるわけじゃない。
保存できる。
なら狩りで獲ったものを無駄にしない。
食料が増える。
冬を越せる。
そして余れば売れる。
俺が料理を始めた理由は単純だった。
妹に美味い飯を食わせたい。
だけど。
その工夫一つで、人の暮らしまで変わる。
「レン」
料理教室が終わった夕方。
母さんが俺の頭を撫でた。
「どうしたの?」
「嬉しそうだったから」
「俺が?」
「みんなが美味しいって言うと、いつも同じ顔をするのよ」
そんな自覚はなかった。
「どんな顔?」
「子供みたいな顔」
「七歳なんだけど」
母さんが笑った。
その夜。
村のあちこちから煙が上がった。
肉を燻す煙。
食べ物を残すための煙。
俺はそれを見ながら思う。
この世界には料理文化がないんじゃない。
まだ、育っていないだけなんだ。
なら。
育てればいい。
俺一人じゃなく。
みんなで。
その時。
遠くの森で二羽の黒い鳥が飛び立ったことに、俺は気づかなかった。




