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神々のいない食卓~日本の消えた異世界で、料理好きの俺は和食を作る~  作者: ちゃむたろう
第二章 料理が村を変える

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第12話 腹が減っては冬を越せない

石板の件から一週間。


村は何事もなかったように日常へ戻った。


少なくとも表面上は。


そして俺には、神様より差し迫った問題があった。


冬である。


「今年は厳しくなるぞ」


父さんが薪を積みながら言った。


この世界の冬は長い。


さらに俺たちの村は山間部にある。


雪が降れば街道は塞がり、食料を買い足すこともできない。


「去年は何食べてたの?」


「黒麦と干し肉だな」


「野菜は?」


「秋のうちに食う」


俺は耳を疑った。


「保存しないの?」


「根菜なら少しは持つぞ」


「葉物は?」


「腐る」


当然のように言われた。


なるほど。


この世界で料理文化が育たない理由がまた一つ分かった。


食材の種類が一年を通して安定しない。


だったら冬に美味い料理なんて作れない。


「保存食を作ろう」


「ホゾンショク?」


リナが新しい言葉を覚えるたびに復唱する。


俺はまず、村の余っている食材を調べた。


森茸。


小さな酸っぱい果実。


根菜。


魔物肉。


そして大量の葉菜。


収穫期には食べ切れず、結構捨てているらしい。


もったいなさすぎる。


最初に試したのは乾燥。


薄切りにした茸を日光へ。


だが秋の空は湿っている。


「風よ」


弱い風魔法を流す。


強風ではない。


水分を飛ばすための一定した空気の流れ。


三時間後。


茸は見事に乾燥していた。


「……風魔法ってこう使うものだったか?」


父さんが呟く。


「便利なら何でもいいじゃん」


次は肉。


塩は高価なので大量には使えない。


だから薄く切り、軽く塩を振り、煙で燻す。


バルクさんに頼んで簡単な燻製箱を作ってもらった。


薪も何でもいいわけじゃない。


香りの強い木、苦味の出る木。


何度も失敗する。


一回目。


「にがい!」


リナが泣いた。


二回目。


「くさい!」


俺も泣きたい。


三回目。


「……おいしい!」


成功。


煙の香りが肉に移り、保存性も上がる。


俺は拳を握った。


「よし!」


でも一番の問題は野菜だ。


干せるものもある。


だが全部ではない。


塩がもっとあれば漬物が作れる。


「塩、高いんだよな……」


「海から遠いからね」


母さんが言った。


海。


その言葉に、日本のない東の海が一瞬頭をよぎる。


だが今は置いておく。


必要なら塩を節約すればいい。


少量の塩で水を出し、重石をする。


乳酸発酵まで狙いたいが、温度管理も衛生管理も難しい。


失敗すれば腹を壊す。


俺は慎重に小さな壺から始めた。


数日後。


恐る恐る開ける。


酸っぱい匂い。


腐敗臭ではない。


一口。


「……いける!」


前世の漬物とは違う。


でも確かに美味い。


母さんにも渡す。


「野菜が酸っぱい……」


「嫌?」


「ううん。不思議。でもお肉と食べると美味しい」


その日の夕食。


燻製肉。


乾燥茸のスープ。


根菜。


そして漬け野菜。


冬を越すためだけだった食卓が、いつもより豪華になった。


リナは漬物をぽりぽり食べている。


「これすき!」


「渋いな、お前」


父さんが笑った。


そこで母さんがぽつりと言った。


「これ、うちだけじゃなくて村のみんなに教えたら?」


俺は箸――はないので木匙を止めた。


そうか。


俺の家だけ冬を越せても意味がない。


前世でもそうだった。


妹だけじゃない。


安くても美味い飯を作れる方法を覚えたら、友達にも教えた。


「……やるか」


翌日。


俺は村の広場に張り紙を出した。


字は父さんに書いてもらった。


『冬でも美味い飯を食う方法、教えます』


その下に父さんが勝手に一文足した。


『講師・七歳』


消してくれ。

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