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神々のいない食卓~日本の消えた異世界で、料理好きの俺は和食を作る~  作者: ちゃむたろう
第十一章 名を呼べば、神は帰る

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第105話 十人で食べると、神様は近くなる?

同じ白米でも、何を思って食べるかによって神格反応が変わる。


そこまでは、かなり確からしくなってきた。


次の問題は、人数だった。


「百人で名前を呼んだら百倍になる、とか?」


ナギが言う。


「それを確認するために百人集めるのは絶対嫌だ」


祭りで学んだ。人数が増えた状態で予想外の反応が起きると、止めるのが一気に難しくなる。


レオルも同意した。


「一人、三人、十人。そこまでにしよう。それ以上は結果を見てからだ」


「人数を増やせばそのまま強くなるとも限らないしね」


フィアが言う。


その通りだ。


**「人数十倍、神様の戦闘力も十倍、とかいう雑な計算だったら困る」**


「また戦闘力」


最近、この言葉だけは妙に通じるようになってきた。


今回も神名は使わない。


食べるのは白米と、ヒムカのミソ汁。


言う言葉は「いただきます」。


参加する全員には、言葉の意味を同じように説明する。


食材。


作った人。


命。


それらへの感謝を込めて、食べ始める前に言う。


そして最初は、一人ずつ。


史料庁の職員十人に協力してもらい、別々の時間に同じ場所で食事をしてもらった。


一人目。


「いただきます」


測定石が、ごく弱く動く。


二人目。


同じ。


三人目。


似たようなもの。


十人終わっても、大きな変化はなかった。


「足せばそれなりだけど、一人の反応が強くなってるわけじゃない」


フィアが集計を見る。


次。


三人一組。


同じ卓へ座る。


説明も料理も同じ。


三人が顔を見合わせて。


「いただきます」


測定石。


少し大きく動いた。


俺は身を乗り出す。


「今、さっきより高いよな?」


「高い」


レオルが測定値を確認する。


ただし。


三人分を単純に足したより、ほんの少し高い程度だった。


誤差かもしれない。


組を変える。


もう一度。


また少し高い。


「一緒に言うこと自体に意味がある?」


エルナが聞く。


「まだ分からない」


俺は答えた。


人数が原因か。


同時に声を出したからか。


同じ食卓を囲んだからか。


条件がまだ混ざっている。


そこで、フィアが言った。


「じゃあ同じ十人を、二通りでやれば?」


「二通り?」


「同じ時間に食べる。でも別々の部屋。それと、一つの部屋で同じ卓」


なるほど。


同じ人数。


同じ料理。


同じ時刻。


同じ言葉。


違うのは。


互いを意識できるかどうか。


「フィア、研究者向いてるんじゃない?」


「商売でも同じだよ。何を変えたら売れたか分からないと困るでしょ」


強い。


実験は翌日に回した。


十人を五つの小部屋へ二人ずつ分ける。


全員へ合図を送り、同じ瞬間に「いただきます」と言ってもらう。


反応。


ある。


でも強くない。


次。


同じ十人。


今度は大きな卓を一つ囲む。


料理も同じ。


昨日と同じ説明。


俺は見学側に回った。


「では」


一人が周囲を見る。


他の九人も。


誰かが少し笑う。


そして。


十人が手を合わせた。


「いただきます」


測定石が。


光った。


今までとは明らかに違う。


「上がった!」


レオルの声。


でも警報水準ではない。


全員へそのまま食べてもらう。


会話が始まる。


「このミソ汁、昨日より濃くない?」


「同じ鍋です」


ナギが即答する。


「じゃあ腹減ってたからか」


笑い。


一人が白飯のおかわりをする。


隣の人間もつられて頼む。


普通の食事だ。


それなのに。


測定石の反応は、食事が進むにつれて少しずつ上がっていった。


「言葉を言った瞬間が最大じゃない」


エルナが気づく。


本当だ。


ピークは、その後。


十人が食べ。


話し。


同じ料理について感想を交わしている時。


「……共有?」


俺が呟いた。


単に十人が「いただきます」を言ったからじゃない。


同じ卓を囲み。


同じ料理を食べ。


「あれ美味いな」


「これは何だ」


「もう一杯くれ」


そうやって。


同じ体験を互いに確認している。


前世の学校給食を思い出した。


クラス全員で。


いただきます。


好きな献立の日。


誰かが牛乳をこぼす。


くだらない話。


何の宗教的意味もない。


神様のことなんて誰も考えていない。


それでも。


同じものを食べた記憶は残る。


「神様って」


ナギが測定石を見る。


「みんなで同じこと考えると強くなるの?」


「同じこと、というより」


サヨがゆっくり言った。


「同じ意味を、互いに確かめることなのかもしれません」


それだ。


誰か一人が神様を覚えている。


弱い。


十人が別々に覚えている。


それより強い。


でも。


十人が集まって。


「自分も知っている」


「あなたも知っている」


と確認する。


そこで。


単なる個人の記憶が。


文化になる。


背筋が震えた。


「だから祭りなんだ」


俺は言った。


祭りは。


一人でやらない。


同じ料理。


同じ日。


同じ物語。


同じ歌。


同じ神の名前。


毎年。


何十人。


何百人。


親から子へ。


文化を共有し直す場所。


それなら、神にとってものすごく強いはずだ。


だから旧神話災害対策局は祭祀を恐れた。


本一冊より。


一人の記憶より。


毎年みんなが繰り返す祭りの方が。


ずっと消しにくい。


「じゃあ、日本の神様を戻したいなら」


フィアが言う。


「大勢に教えて、一緒に食べれば早い?」


「たぶん」


俺は頷きかけて。


止めた。


「でも、やらない」


レオルが少し笑った。


「言う前に止まったな」


「俺を何だと思ってる」


誰も答えない。


答えて。


今は。


戻す方法を知りたい。


でも実行する段階じゃない。


日本の神々が何を望んでいるか。


世界樹側がどう反応するか。


何も分からない。


方法が分かったことと。


使っていいことは。


別だ。


実験を終え。


参加者たちは帰っていった。


俺たちは残った食器を片付ける。


そこでサヨが、ふと窓際へ目を向けた。


「レン」


「何?」


「光」


夕方だった。


日はかなり傾いている。


なのに。


部屋の壁へ。


細い光の線が落ちていた。


窓からではない。


机の上。


十人が囲んでいた卓の中央。


そこに置いた。


何の飾りもない銀色の水差し。


その表面が。


内側から。


淡く光っている。


「触らない」


俺が先に言った。


ナギが感心した顔をする。


やめろ。


レオルが測定石を近づける。


「日本系統と推定した反応に近い」


「名前、呼んでないよな?」


「誰も」


サヨが水差しを見る。


光は。


白というより。


金色に近い。


暖かい。


不思議と。


祭りの時のような圧迫感はない。


エルナも世界樹の祭司章を見る。


「世界樹側の低下は……ほぼありません」


それも重要だった。


日本系統の神格反応が出た。


でも。


聖火が消えるほどではない。


世界樹を押しのけてもいない。


「共存、できる……?」


フィアが小さく言った。


まだ。


そんな大きなことは言えない。


ただ。


一つ。


俺は思った。


名前を呼ばなくても。


神は。


自分につながるものを見つけられる。


米。


言葉。


食卓。


人の記憶。


それらが十分に重なれば。


向こうから。


こちらを見ることができるのかもしれない。


サヨが金色の光を見ていた。


目を細める。


「暖かい」


そして。


俺も。


なぜか知っている気がした。


この感じ。


村の地下。


石板。


天照大御神。


あの時に感じたものと。


似ている。


俺は名前を口にしなかった。


呼ばない。


まだ。


その代わり。


心の中だけで思った。


もし。


そこにいるなら。


いつか。


話をしたい。


日本を戻せ、と命令されるためじゃない。


敵を倒せ、と言われるためでもない。


一つだけ。


聞きたい。


あの夜。


日本の神々は。


何を守ろうとして。


何をしたのか。


水差しの光は。


一度だけ。


少し強くなった。


それから。


静かに消えた。


まるで。


質問を。


聞いたとでもいうように。


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