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1599:処女懐胎、なわけねえじゃん。

 ――ナイ! そっちに神が向かうぞ~


 とある日の午前中。執務を執り行っていれば、不意にグイーさまの声が聞こえてきた。凄く軽い調子で凄く重要なことを仰っているような気がするのだが、グイーさまは軽ーく笑って気配を断っていた。

 数瞬経てば少し離れた先……具体的にはアストライアー侯爵領領主邸の正門に大きな力を感じ取ることができた。これはただならぬ気配がするから、グイーさまが仰る通り神さまがきたのだろうと、私は自席から立ち上がる。


 「様子を見に行きます。門番の方たちが腰を抜かしていそうですから」


 私が声を上げるとソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまが頷いてくれた。部屋を出ようとすれば訓練を行っていたジークとリンが急いだ様子で駆けつけてくれる。

 事情を説明した私にそっくり兄妹は『神さま関連か』『なにが起こったのかと』と驚いていた。そりゃ、いきなり神さまが現れれば驚くのは当たり前である。そして気配に敏感な人は何事だと慌てるだろう。

 ジークとリンと私は急いで廊下を歩いて、玄関ホールに辿り着く。ここから正門まで急いだとしても庭が広いお陰で結構な時間が掛かってしまう。気合をいれて歩かなければと覚悟を決めれば、玄関の扉が思いっきり開いた。そして玄関の扉を開いた警備部の方が私の姿を見るなり目を丸く見開いた。

 

 「ご、ごごごごご、ご当主さま!!」


 よろりと身体を揺らしながら警備部の方が私の前に立って礼を執る。どうにも凄く慌てた様子だし、肩で息をしているから苦しそうだ。きっとここまで急いできてくれたのだろう。


 「落ち着いてください。如何なさいましたか?」


 私は効果があるかどうかわからない言葉を紡いで、次の言葉を促した。


 「正門に物凄く独特な雰囲気を纏う方がいらっしゃいました! とある創星神さまから創り出された神と自称され、ご当主さまとのお目通りを願い出ております! 通常であれば大法螺を吹いていると笑って追い返すのですが…………!」


 少し前に二十七柱さまが集まっていたのだから、もしかすると偽物ではないかもしれないため正門で待機をお願いしたそうである。正門に現れた自称神さまは警備部の方の言葉に従ってくれているものの、私と会いたいと希望しているそうである。グイーさまから連絡が入っているので、正門に現れた方は神さまで間違いないのだろう。とはいえグイーさまからどこの星の方であるとか、この星の神さまであるとか正体が明かされていない。

 

 「ご連絡、ありがとうございます。創星神さまより先程、神さまがいらっしゃると連絡を受けております。おそらくは」


 「ほ、本物の神さま……!」


 私の言葉に警備部の方がごくりと息を呑む。申し訳ないけれど、神さまを待たせるのは失礼になるからと、私たちはそそくさと玄関を出て正面の道を急いで走る。途中、庭から出てきたヴァルトルーデさまとジルケさまに出会えば、正門の雰囲気が凄いことになっていると驚かれた。

 そしてグイーさまに関連する方ではないとの旨も教えて貰う。私はまた待たせるわけにはいかないからと伝えれば、ジャドさんとルカとジアがひょっこりと顔を出す。乗ってくださいと言われたため、私はジャドさんの背にどうにか乗るのだが……何故一番前が私で、後ろはジルケさまで、ヴァルトルーデさまが最後尾に乗るのだろうか。ジークとリンはルカとジアの背にひょいっと乗って『急ごう』『落ちないでね』と視線で訴えていた。

 

 「行きましょう」


 不満を感じつつ、私が声を上げればジャドさんとルカとジアが一気に加速して、正門までの道を凄い勢いで走ってくれる。その勢いは人間が出せる速度を軽く超え、視界に映る景色は自動車の窓に流れる景色のようである。

 随分と暖かくなってきた風を受けながら歩くと十分程度かかる道を十秒ほどで辿り着く。流石、と私の口から勝手に言葉が零れると、ジャドさんがドヤ顔になり、ルカは嘶きを放ち、ジアはそんな兄に呆れていた。

 

 正門まではまだ少し距離があるものの、扉の向こうでは門番の方が凄く警戒をしている……というかあっけに取られていた。更に向こうには二つの人影……神影が見えており、静かに佇んでいた。

 私は後ろを振り向いてジークとリンに行くねと無言で頷く。そっくり兄妹はまだ身元の確定していない神さまに対して、警戒をしているのか腰に佩いている剣に手を添えている。


 私もなにかあってはならないと魔力を練れば、ヘルメスさんが『神すら凌駕してみせましょう!』と気合を入れていた。いや、そんな物騒なことにはならないからという突っ込みを我慢して、私は歩き始める。ヴァルトルーデさまとジルケさまは『悪い気配はない』『悪意があるなら即、力使うよなあ』とぼやいている。正門の横にある小門から私が外へと出れば、警備部の方が『ご、ご当主さま!!』と安堵の声を上げる。

 私は視線で対処を引き継ぎますと頷いて、正面に立つ二人、いや、二柱の……神さま……に相対する。すると数メートル先に立っている二柱さまの顔がぱあっと輝いた。


 「母上!」


 「母上!!」


 背の高い黒髪の男性と白髪の女性が声を張った。母上とは、と私は後ろを振り返る。


 「ヴァルトルーデさまのことでしょうか?」


 黒と白の神さまは私を見ているものの、子供を生んだ覚えは全くない。で、あるならば可能性として子がいるのはヴァルトルーデさまではなかろうかと後ろを振り返ると、ご本神さまは怪訝な表情を浮かべていた。


 「ナイに向けての言葉だ。悪い癖」


 ジト目でヴァルトルーデさまが私を見下ろしている。どうやら現実逃避をするなと言いたいらしい。そしてヴァルトルーデさまの隣に立つジルケさまが大きく息を吸った。


 「どう見てもナイだろうが!!」


 ジルケさまが上げた声の衝撃波が頭を通り過ぎた気がする。やはり、黒と白の神さまは私に似ているのかと改めて正面に向き直った。すると肩の上のクロが『ナイにそっくりだねえ』と呑気に声を上げる。一緒にきているジークとリンもヴァルトルーデさまとジルケさまとジャドさんとルカとジアも同意見のようだ。このままでは埒が明かないと私は腹を決め言葉を紡ぐ。


 「失礼ですが、わたくしは子を成し生んだことはございません。グイーさまからお二方は神であると教えられましたが、事実でしょうか?」


 私にそっくりな方を見上げて、ヘンテコな言葉を紡ぐ。本当に行為なんて誰とも及んでいないから生みようがないし、そもそも私の身体は未成熟である。どうしてこんなことになるのかと思いつつ、なんとなく察しがついてしまうのは如何なものか。

 とはいえ事実を確認しなければならず、頭の痛くなる話を聞かなければならないのだろう。神さま的には問題ないだろうが、私的には大問題である。乾いた笑いが出そうになるのを我慢していると、黒と白の神さまがぐっとなにかを飲み込んでから言葉を吐いた。


 「……たしかに貴女は我々を生んではいないのでしょう。ですが、我々は父から力を授かり使命を頂きました」


 「その際に母上のお力も頂いていることも教えて下さったのです。あと、我々が神であることは事実でございましょう」


 黒と白の神さまが私の前で膝を突く。いや、ちょっと待ってください。貴方方が膝を突けば、私は二柱さまより格上となってしまう。なってしまうのだが、先に確認することがあった。


 「父とは、どなたの事を指すのでしょうか?」


 そう、彼と彼女の父親はどなたになるのだろうか。いや、分かり切っている答えかもしれないが。


 「創星神、シェクトです」


 「我々が母上に会いたいと願えば、父はこの星の創星神から許可を取って頂きました」

 

 穏やかな声で白と黒の神さまが教えてくれた。シェクトさまはこれから彼らが星の未来を築く上で、グイーさまの星にきて私と会うことは良い経験になると考えたそうである。

 自星とグイーさまの星では随分と雰囲気が違うらしく、白と黒の神さま曰く、グイーさまの星は『音』が凄く多いとか。人間の喋る声、動物の鳴き声に、虫の囀りは初めて聞くらしい。シェクトさまの星でお喋りをしようとすれば、シェクトさまと彼らしかいないそうである。それは寂しいと私が即考えてしまうのは、知的生命体がたくさんいる星で過ごしてきたからだろう。


 「お二方の事情は承知しました。一先ず、屋敷に入って話をしましょう」


 しかしまあ、シェクトさまも連絡用の石で教えてくだされば良いものを。一応、私の力を使って部下である神さまを創造すると聞いてはいたが……まさか目の前に現れて『母上』と呼ばれることになろうとは。神さまだからその辺りの感覚は麻痺しているのかと私は苦笑いを浮かべてしまう。私の中に入ろうという誘いに、黒と白の神さまは困ったような顔になっていた。


 「よろしいのでしょうか? 父は迷惑を掛けてはならないと、母上の顔を見たならば戻ってきなさいと」


 「父上と母上の邂逅した時間を超えてはならないとも」


 黒と白の神さまが明らかに肩を落としていた。どうやら彼らの中ではシェクトさまの命は絶対のようだ。たしかに創造主から命を受けたならば、絶対に守らなければならないことだろう。これでお二方を突き返せば、方々から『何故、神さまをもてなさない!?』と苦情が舞い込みそうである。命令違反を犯させるような無理はできない。


 「ええと……あの、シェクトさまと連絡を取っても良いですか?」


 であるばらば、許可があれば良いじゃないと私は黒と白の神さまに提案してみた。せっかくシェクトさまから連絡用の石を預かっているのだから使わない手はないだろう。


 「構いません」


 「承知しました」


 凄く短い返事だけれど、黒と白の神さまなんとなく嬉しそうだ。正門で待って貰うわけにはいかないと、少し歩く旨を伝えて黒と白の神さまには屋敷に入って貰った。東屋に案内をした私――ヴァルトルーデさまとジルケさまに少しの間、二柱さまの対応を任せた――は自室に戻り、シェクトさまの石を目の前にする。

 隣にはグイーさまの石があるけれど、堕ちた神さまの気配を感知して閉じ込めるものだから今は関係ないとシェクトさまの石に集中した。意識すれば繋がるとシェクトさまに教えて貰っているのだが、キチンと会話ができるのか。


 「シェクトさま?」


 七色に光るスライムボディーのシェクトさまを頭の中で思い描く。するとキンと耳鳴りのようなものが聞こえた。


 ――どうした、ナイ。


 繋がったと感心しつつ、黙ったままではいけないと私は意識を集中させる。


 「シェクトさまが創り出した神さまが私の屋敷にこられたのですが、少しお話をしたいと思いまして。二柱さまがシェクトさまの星へと戻る時間が少し遅くなってしまっても良いでしょうか?」


 私が経緯を伝えればシェクトさまは『分かったと』告げこちらにきても良いかと問う。私はグイーさまの許可があればと伝えると、連絡を取ってみるとシェクトさまは言って気配が消える。私は一旦、東屋に戻ろうとシェクトさまから預かった石を持ち部屋を出た。

 そうして東屋に戻れば、ヴァルトルーデさまとジルケさまと黒と白の神さまが所在無さげに腰を下ろしていた。私の姿を見た四柱さまがぱあっと顔を輝かせるのは何故だろう。とりあえずシェクトさまの返事を待とうと、侍女の方にお茶の用意をお願いするのだった。

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> 背の高い黒髪の男性と白髪の女性が声を張った。母上とは、と私は後ろを振り返る。 > 「ヴァルトルーデさまのことでしょうか?」 > 黒と白の神さまは私を見ているものの、子供を生んだ覚えは全くない。で、…
これは全世界震撼やな。ナイはたぶん神じゃないけど、神の母だしバレたしな。会う場所が神の島なら黙ってればわからなかったかもしれないけど。 聖母信仰みたいになるの待った無しかな?
シェクトさまの眷属神さまにナイの魔力が関わった事で、眷属神さまはナイそっくりなんですね…(;-_-)=3産んでないのに、母上!って呼ばれたら…現実逃避してしまうナイの気持ちも分からなく無いですよねぇ……
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