1564:宴もたけなわ。
お開きの時間が近くなっているため、創星神さま方がもう一度どこぞの創星神さまを囲み込んでいる。皆さまに囲まれ反省しているのかと思いきや、どこぞの創星神さまの勢いの良い声が私の耳に届く。
「教えられたことは守るっつーの!」
どこぞの創星神さまは他の創星神さまを見上げながら、逆毛を立てている猫のように声を上げている。悪気はなかったようなので他の創星神さまも強く咎める気はないようで、新人の創星神さまがまた失敗しないようにと見守るスタンスを取るそうだ。
グイーさまとテラさまも知ってしまったからには放置はできないということで、今回の集まりを企てたのだから、どこぞの創星神さまの教育をきっちりと行って欲しいものだ。どこぞの創星神さまの星は行き過ぎた進化をしているようだから、今回のことで改善が見込めると良いけれど。どこぞの創星神さまは『信頼されてねえー!』と愚痴を零せば、壮年姿の創星神さまが首を傾げる。
「本当に?」
「マジ。マジだから! というか記憶や知識をまた流しこまないでくれよ! 頭が混乱しちまう! せめて加減してくれ!」
壮年姿の創星神さまに対してどこぞの創星神さまは必死に答えていた。どうやら記憶と知識を流し込まれたことは、どこぞの創星神さまにとって軽いトラウマのようになっているようだ。
たしかにいきなり自分以外の記憶と知識が流し込まれれば混乱するのだろう。自分が持っている記憶と知識との整合性とかいろいろと考えなければならなそうである。困った顔を浮かべるどこぞの創星神さまに『きちんと務めは果たせ』と他の創星神さま方が口にすれば、綺麗な創星神さまが頬に手を当てながら口を開いた。
「言葉使いもどうにかなれば良いけれどねえ。同格の神だけれど、貴女はまだまだ子供だもの」
どうやら綺麗な創星神さまは上下関係をきちんと弁えろと言いたいようである。たしかに格……というか爵位が同じでも、何代も続いている家と新興の家とでは格差があった。
他にもいろいろな要素で見えないランク付けを貴族家は受けるものであるが、創星神さま方にもはっきりとした上下関係、もしくは格の差があるようである。神力は強いもののどこぞの創星神さまは新参者のため他の創星神さまからは下に見られていた。
「それはアンタたちがすげー長い時間を過ごしているか……いや、はい。善処します……」
大勢の創星神さまに囲まれているためか、どこぞの創星神さまの勢いは失われてしゅんとなっていた。敬語扱えたのかと私は驚いていれば、創星神さま方の話は終わったようである。
するとグイーさまとテラさまが私にちょいちょいと手招きをした。私は神さま方の中に行きたくないとは言えず、大人しく二柱さまの指示に従う。一団に辿り着いた私はグイーさまとテラさまの間に挟まれ、後ろにはジークとリンが控えていた。そして目の前には二十五柱の創星神さまが立っている。
――とてつもなく荘厳な光景だ。
ありきたりな言葉かもしれないが、大勢の創星神さまを前にして改めて思う。大自然を目の前にして圧倒されることがあるけれど、それを超えるものを感じるし、ひしひしと神さま方の熱量が伝わってくるのだ。創星神さま方の視線を一身に受けた私はどうしたものかと考えていれば、右頬を腫らした獣姿の創星神さまが腕を組んでにっと笑った。
「場所の提供、感謝する!」
お気になさらないでくださいと言いたいものの、小さく頭を下げるだけに留めておく。グイーさまがドヤ顔になっているので黙っていた方が得策なのだろう。獣姿の創星神さまはグイーさまと殴り合いのじゃれ合いができたため、抱えていたストレスを発散できたそうだ。グイーさまが『儂で溜め込んだものを発散するな』と小言を告げるものの、獣姿の創星神さまは全く動じていない。
動じていない上に『また手合わせ願いたい!』と獣姿の創星神さまが豪快に笑えば、グイーさまは呆れて溜息を吐くものの肯定も否定もしなかった。おそらく二柱さまは喧嘩仲間みたいなものだろうと妙に納得できるものがある。
「グイーの星で美味しい料理が食べられるなんて信じられなかったわ。大雑把だから、料理の味も大胆なものだろうって覚悟していたのだけれどね」
綺麗な創星神さまが侯爵邸の料理を褒めてくれる。褒めてくれるのは嬉しいけれど、グイーさまの評価が低いのは何故だろう。たしかにグイーさまは豪快な方だから、繊細な料理が誕生したことは不思議と言われると納得できてしまう。綺麗な創星神さまの声を聞いたグイーさまの前にテラさまが『ああ!』と声を上げ続きを口にした。
「確かに! どうしてだろう? 今気付いたわ!」
綺麗な創星神さまの声にテラさまがポンと手を叩いて不思議そうに顔を傾げた。いや……それを言ってしまえば地球の料理は多岐に渡るのだから、テラさまが管理している星に多種多様な料理があることや美味しいものもたくさんあることに疑問が湧いてくる。
創星神さまの考え方や性格を管理している星が引き継ぐことがあるそうだ。無意識に影響を与えることもあるから、意識的に自らを律することもあるとか。星の行く末を見守る仕事も大変で苦労する部分もあるそうだ。
「お前さんら、儂のことを散々に言うのう」
グイーさまはテラさまと綺麗な創星神さまの態度にたまらず苦言を呈すものの、女性二柱さまは顔色を変えないまま口を開く。
「グイーだもの」
「グイーだからねえ」
二柱さまの声が重なれば、他の創星神さま方もうんうんと頷いていた。なんだかグイーさまの立場って割と低いのではと思わなくもないが、取っ付きやすい方だから皆さまにこうして突っ込まれているのだろう。私が神さま方のやり取りを見守っていると、綺麗な創星神さまがテラさまを見る。
「テラ。貴女もよ……」
「えっ!?」
綺麗な創星神さまの声にテラさまが驚いて目を丸く見開いていた。テラさまも割といい加減なところがあるようだし、地球の日本でズボラ生活を送っている。テラさまは自覚はなかったようで、周りの創星神さまは苦笑いを浮かべている。グイーさまは『そこがテラの良いところではないか』と惚気ているので、似た者同士がくっついたようである。
「そんなこと……は、な……は、反論できない……!」
テラさまががっくりと肩を落とせば笑いが起きた。私は笑ってはいけないなと無表情を頑張って作っていると、歳若い男性の創星神さまが半歩前に出る。どうしたのだろうと私が首を傾げると、歳若い男性の創星神さまがはあと溜息を吐いた。
「そろそろ切り上げようぜ。俺たちがグダグダ喋ってるから困ってんだろ」
彼の声を聞いたグイーさまがむんと胸を張った。
「そうだの。よし! 皆、今日は困り者のために集まって貰い感謝する! そして、ナイ! 儂の願いを聞き届けてくれたこともな!」
ガハハと笑うグイーさまが私の肩を叩く。痛くはないけれど、身長が縮みそうなのは気のせいだろうか。名指しされたどこぞの創星神さまも微妙な表情になっているが『同じ間違いはしねえよ。馬鹿じゃねえし』とぼやいていた。どうやら、やってしまったことに対してきちんと反省しているようである。では解散だというグイーさまの声に各々の創星神さまは私に対して短い挨拶をくれ、それぞれの星へと戻っていかれた。
「飯、美味かったぞ。機会があれば、またな」
「グイーとテラに振り回されないようにね」
若い男性の創星神さまと綺麗な創星神さまが私に視線を合わせながら声を掛けてくれた。おそらく会場内で気さくに私に声を掛けてくれた方ではなかろうか。二柱さまの星がどんなものか気になるけれど、口に出して『行ってみる?』という展開になるのは不味いので私は無難に返事をかえした。
するとすうと二柱さまの姿が薄くなり、ふっとお姿が消えた。他の創星神さま方もふっと消えていけば、会場の中の雰囲気が軽くなっているような。ほとんどの創星神さまがそれぞれの星に戻られていく中、のろりのろりとスライムボディーを動かして私の足下に七色の創星神さま、シェクトさまがやってきた。
『ナイ。セワニナッタ』
そう告げたシェクトさまは身体の一部を細く伸ばして私の方へとなにかを掲げている。なんだろうと私はしゃがみ込んで両手を差し出せば、七色に光る石が掌の上に転がった。
「朝は驚きましたが、シェクトさまと有意義な時間を過ごすことができました。こちらは?」
『グイートテラハ、テキトウデオオザッパダカラ。コマッタトキ、ソレツカウ。ネガエバ、ナイノコエガワレニトドク。ギャクモデキル』
シェクトさまの伸ばした身体の一部が元に戻っていく。私の掌の上にある七色に光る石はシェクトさまと通信できるモノのようである。しかし貴重なものを私が頂いても良いのだろうか。グイーさまとテラさまは目を丸くして驚いているが、シェクトさまと私の会話に入る気はないようだ。これでは話が進まないなと私は確認を取るために言葉を紡ぐ。
「よろしいのですか?」
グイーさまから頂く品より貴重なものになるのではなりそうで私は片眉を上げる。とはいえシェクトさまは私が困った時のためにと単純に捉えているような気がしてならない。
『ナイノチカラトワレノチカラヲマゼタ。カマワナイ』
いつの間にそんなことを……と思うけれど、シェクトさまの前で私の魔力がかなり減ったのだった。まさかその時にと私が訝しんでいると、グイーさまとテラさまが腰を曲げながら七色に光る石を覗き込んだ。
「うむ。ナイとシェクトと連絡を取るための機能しかないようだの」
「ちょっと不本意だけれど、真面目なシェクトからの品なら問題ないでしょ。ナイも悪用なんてしないでしょうしね」
グイーさまとテラさまが苦笑いを浮かべながら、七色に光る石を頂いて良いのか判断してくれたようである。グイーさまの星に影響を与えることもないようだし、教えて貰った通りの機能しかないのであれば問題あるまい。しかし通信機能しかついていないシェクトさまの石をどう悪用するのだろう。使い道は他にあるのかと考えてみるものの、なにも思い浮かばず私はテラさまを見た。
「悪用できる方法が思いつきませんよ」
「だって、売り払うことだってできるし、創星神から授かった石だって言って飾れば見学料を取れるでしょう?」
まあ、やろうと思えばやれるけれど、やったあとになにが起きるのかが怖い気がする。それに。
「創星神さまから頂いた品というより、シェクトさま個人? 個神? から頂いたものですから。そんなことしません」
おそらくシェクトさまは創星神というよりは、グイーさまとテラさまを仲間として見ているからこその対応のような気がする。私はしゃがんだままシェクトさまの方を見れば、スライムボディーをぷーと膨らませていた。
「喜んでおる?」
「珍しい反応ねえ」
グイーさまとテラさまが不思議そうにシェクトさまを見ている。どうやらシェクトさまがぷーっと膨らむのは珍しいようだ。そうしてシェクトさまはぷすんと空気のようなものを身体から吐けば『モドル。マタ』と告げて、すーっと身体を消した。
「やっぱあの七色の奴が一番、格があんのか? 空気が一番緩くなった気がするぞ」
どこにいたのか、どこぞの創星神さまが声を上げた。やれやれと言わんばかりの顔になっているが、そもそもはどこぞの創星神さまの常識のなさが招いたことのため、今後、同じことがなければ良いのだが。
「あたしの星に戻って、ちとやることやってくる。一週間、世話になった。グイーのおっさんとテラねーさんもありがとな。じゃあな!」
「ああ。困りごとがあったなら、今日会った者たちを頼れ」
「そのために集まって貰ったようなものだものねえ」
どこぞの創星神さまにグイーさまとテラさまがひらひらと手を振る。私が頭を下げれば、どこぞの創星神さまもすっと姿が消え、また空気が軽くなる。ああ、一大イベントが無事に終わったと私は息を吐くのだった。




