1561:吹っ掛け。
――変わった奴だ。
グイーさまとテラさまが私を創星神さま方に紹介してくれたわけだが、創星神さま二柱とただの人間と付き合いがあると知った皆さまは口を揃えて変わった奴だと仰った。しかし私はただの人間だから、人間と交流を持つ創星神さまの方が、ようするにグイーさまとテラさまが変わり者なのではと伝えてみた。
すると、神さま方が自身の星の方たちと接触すれば、謙ってしまいまともな会話ができないそうだ。だから普通にグイーさまとテラさまと喋っている私は変わり者だと言いたいらしい。件の神さま方は提供された料理とお酒を楽しんでいる。
ご自身の星での食事はどうなっているのか、お酒は嗜まないのか、少し気になるところであった。私は会場の一角で楽しそうに会話をしている女性の創星神さまや、グイーさまと酒盛りをしている男性の創星神さまの方を見た。
「失礼じゃないかなあ……」
私の口から勝手に声が漏れていた。出会う方、出会う方に『変わっている』とか『面白い』とか言われるのは何故だろう。そんなことを言われて喜ぶのはお笑い芸人の方くらいではないだろうかと、私の眉間に皺が寄った。
『創星神さま方なりの誉め言葉じゃないの?』
肩の上のクロがふふふと笑う。そういえばクロは私の肩の上で凄く大人しかった。ちょっと創星神さま方と離れているから、私の声を拾って喋ったようである。ジークとリンは『気にしなくて良いと思う』『ナイはナイだ』と言いたげだ。うーん、誰も私が変わっていることを否定してくれないと、さらに眉間の皺を深めていれば、近くにいたヴァルトルーデさまとジルケさまが私を見る。
「ナイだから」
「深く考えていないだけだからなー」
酷い、という言葉が出かかって私はどうにか飲み込んだ。姉神さまと末妹神さまは私を見て面白そうな顔になっている。珍獣扱いは止めて下さいと言いたいが、珍獣の自覚があるんだねと言われればお終いだ。黙っておくに越したことはないと私はもう一度、創星神さま方の方へと視線を向ける。するとどこぞの創星神さまと七色の創星神さまと視線が合った。なんだと私が首を傾げると二柱さまは一団を離れて、こちらへと歩を進める。
「上手く抜け出せた……っ!」
『ドウシタ?』
どこぞの創星神さまと七色の創星神さまはこちらへ辿り着くなり言葉を紡ぐ。なんとなく神さまの一団の中にいた時より、二柱さまが気を抜いているのは気のせいだろうか。しかし。
「皆さまとお話をしなくてよろしいのですか?」
勝手に一団から抜け出して良いのだろうか。一応、こちらを気にしている方はいないようだけれど、神さま付き合いをした方が良さそうである。私が心配していると二柱さまの雰囲気が少し緩んだ。
『ダイジョウブ。ワレトカイワスルモノスクナイ』
たしかに七色の創星神さまはグイーさまとテラさまとしか喋っているところを見ていない。他の神さま方との付き合いはないのだろうか。どこぞの創星神さまはどこぞの創星神さまで、凄く面倒そうな顔を浮かべた。
「あの輪の中にいると、説教が始まるからな。逃げるに越したことはない」
下顎を突き出しそうなくらい、どこぞの創星神さまは嫌そうな顔になっている。まあ一応、教育は終わったようだし、どこぞの創星神さまは『一度星に戻ってみる』と言っているのだから、改心したと期待しておこう。Aさま方の星が少しでも良くなるようにと願うばかりだ。二柱さまはあまり神さま付き合いをしないようだと私は結論付けて、別の話題を振るかと口を開いた。
「お料理やお酒は楽しまれました?」
食べてくれない方がいればアストライアー侯爵家調理部の皆さまが悲しんでしまう。一応、どこぞの創星神さまは食べる量が少ないと分かっているから耐えられるだろう。ただ他の創星神さまが一口も食さなかったとなれば、落ち込んでしまいそうだ。私は調理部の皆さまの腕は認めているので、食べもせずに美味しくないと否定する創星神さまがいれば腹を立てるかもしれない。
『ミタサレタ』
「腹いっぱいだぞ。どうして連中はバカスカ食べてんだ。信じられねえー」
「二柱さまの食事量が少ないだけかと」
ぷよんとスライムボディーを揺らす七色の創星神さまと呆れ顔のどこぞの創星神さまは本当に小食だと私は困り顔になる。もう少し食べても良いのではと思うくらいに食べないのだが、神さまだし食べなくても生きていける。
あまり口を出すのは良くないものの、私はつい口に出してしまった。二柱さまは不思議そうに『フツウ?』『前より食べてるぞ』と答えてくれる。
たしかにどこぞの創星神さまはこの一週間で少しマシになったと私が思い直していると、どすどすと床を踏みしめる音を立てて別の創星神さまが私の前に立つ。獣の姿――某アニメ映画の野獣みたい――の創星神さまは巨躯故に私を見下ろしている。口元の髭を動かしながら、目を細めた獣姿の創星神さまがにぃと牙を見せた。
「お前さん、力が異常に溢れているな?」
獣姿の創星神さまが口にした言葉を否定できないが、はいと頷くと嫌な予感しかなく私は『そうでしょうか?』と疑問形に留めておいた。すっとぼけた私にどこぞの創星神さまと七色の創星神さまはなにか言いたげに状況を見守っている。クロとジークとリンも妙なことにならないようにと警戒を始めていた。影の中で待機してくれているロゼさんが飛び出しそうな雰囲気があるものの、どうにか耐えてくれている。
「制御できていないというのは問題だが……ふむ。せっかくグイーの星までやってきたのだ。私と手合わせしてみるか!」
「私が負けます。結果は分かり切っているのでは……?」
獣姿の創星神さまは戦闘狂なのだろうか。笑みを深めると見えていた牙が更に見えていた。というか勝負をしても獣姿の創星神さまが勝つ姿しか思い描けない。私が一発放って獣姿の創星神さまに当てるとかであれば、多少は驚くかもしれないが……まあ、なにせ、創星神さまに勝つのは無理だろう。自分の顔が微妙な表情になっていくのが分かるのだが、獣姿の創星神さまはもう一度口を開いた。
「なに、試してみないと分からないだろう?」
一発どうだと言わんばかりの顔で獣姿の創星神さまが私に問う。いや、勝てませんて……あれ? 神さま相手に勝たなければいけないのはおかしくないかと私は思い直していると、グイーさまもこちらへやってきた。そうしてグイーさまは獣姿の創星神さまの肩に手を置いた。
「お主、無理強いさせんでくれ」
みしと音が聞こえたのは、私の気のせいだろうか。他の創星神さまは面白そうなことが始まったと、こちらに視線を向けてどうなるのかと見守っている。いや、誰か助けてください。という言葉は終ぞ出ないまま、ぴりっと空気が震えた。
「なんだ、グイー。吾輩の邪魔をするのか?」
獣姿の創星神さまが後ろを向きにやりと顔を歪ませる。獣姿の創星神さまとグイーさまの間だけ空間が歪になっているような。神さまって凄いなと私が驚きながら見ていると、グイーさまがはあと深い息を吐く。
「戦い好きなのは理解しているが、節操がないのは如何ともしがたいな」
グイーさまが呆れた表情で声を上げた。獣姿の創星神さまは、少し離れた位置にいるアリーさまのようである。まあ人間と神さまを比べるのは失礼かもしれないが……もしかすると獣姿の創星神さまとアリーさまは意気投合するのではなかろうか。
「グイーはテラという伴侶を得て丸くなり過ぎた。つまらぬ男に成り下がったものよ!」
勢いよく言葉を吐いた獣姿の創星神さまがふんと鼻を鳴らした。グイーさまは過去にぶいぶい言わせていたようである。そしてグイーさまはちらりと私を見て気まずそうな顔になった。
ありゃ、グイーさまの若かりし頃は黒歴史になっているようである。私も前世の若い頃はやんちゃをしていたし、大人になって過去に仕出かしたことが恥ずかしいと頭を抱えたこともある。黒歴史の一ページや二ページを晒されたところで、それが過去ことであれば『ふーん』で済ませるのが大人というもの。ここは知らない振りをしておこうと私が決めれば、もう一柱さまがこちらへとやってくる。
「はいはいはーい! むさ苦しい者同士がむさ苦しいことを言わないの! そもそも今日はあの子の教育のために集まったんだからねー?」
喧嘩や勝負を吹っかける場ではないでしょうとテラさまが軽い調子で声を上げた。どこぞの創星神さまと七色の創星神さまはいつの間にか私の後ろに移動している。何故、その位置にと問いたいけれど、話が逸れてしまうため黙っておくしかない。獣姿の創星神さまはテラさまの方へと身体を向け、グイーさまは肩に伸ばしていた手を外してテラさまを見る。
「テラ。この腑抜けた男のどこが良いのだ?」
「そうねえ。優しいところかしら?」
「疑問形は酷いぞ、テラ」
創星神さま三柱集まって、ただならぬ空気を醸し出していた。どこぞの創星神さまは私の服の裾を握って『超怖えー』と慄いている。七色の創星神さまは呆れている雰囲気を醸し出しているような。しかしここで喧嘩をおっぱじめられても困るから、丸く収まるようにと私は願うしかない。あと、対戦を求められたことはどこかに吹き飛んでいるようだから、そのまま忘れ去って欲しいとも願っておく。
「腰抜けめ!」
また獣姿の創星神さまが鼻を鳴らし、テラさまとグイーさまから視線を逸らす。ピリピリしていた空気は霧散したので、一触即発の危険はなくなったようだ。これ、どこかに影響していないよねと少し心配になるものの、会場警備に就いている方はどうにか平静を保っているのでなにもないはず。グイーさまは肩を竦め、テラさまは腰に手を当てて盛大に息を吐いた。
「本当に喧嘩っ早いわねえ。世の中に良い男はたくさんいるけれど、私の在り方を受け入れてくれるってなればグイーくらいだもの。貴方なら私を従わせようとするでしょう?」
「む」
テラさまの言葉に押し黙る獣姿の創星神さまであるが、もしかすると以前は三角関係であったのだろうか。仮にあったとしても獣姿の創星神さまがテラさまに想いを寄せていただけかもしれない。機会があればグイーさまとテラさまに聞いてみよう。獣姿の創星神さまには古傷となる可能性があるから聞けないなあと私は目を細めるのだった。




