1559:説教終了。
七色の創星神さまのお姿が初期状態というのであれば、どこぞの創星神さまの星は随分と進化していることになるのではなかろうか。テラさまの言い分をそのまま受け取れば、解釈はそうなってしまう。
どこぞの創星神さまは二十五柱さまに囲まれて、五歳児の身体を小さく丸めて皆さまのアドバイスに耳を傾けている。ちっぽけな人間組は神さまのやり方に止めに入る方はおらず見守るしかない。面白そうな顔を浮かべて眺めているのは副団長さまと猫背さんである。次にアリーさまがどうなるのかと興味津々で創星神さまを眺めていた。
見てくれが五歳児のどこぞの創星神さまだ。世が世であれば大人がよって掛かって子供を囲んでいるようにしか見えない。見た目が獣な創星神さまと七色の創星神さまがいるので、不思議度が高くなるけれど。
十分ほどどこぞの創星神さまが皆さまに囲まれている景色を眺めていれば、群を割って件の方が出てくる。よろよろと危なっかしい足取りで、何故か私と目が合うと歩む方向を変えてどこぞの創星神さまがこちらへきた。
「た、助けてくれ……もう疲れた」
「大丈夫ですか? ヘロヘロになっていますよ?」
へなへなしているどこぞの創星神さまに私は声を掛ける。神さまだから死にはしないだろうけれど、同格かそれ以上の方たちに囲まれていたのだから疲労することもあるだろう。私が手を差し伸べれば、どこぞの創星神さまも手を掴む。なんとなくどこぞの創星神さまの手の温もりは人間よりも低い気がする。逆にどこぞの創星神さまは安堵したかのように、口を大きく開いて私を見た。
「アイツら容赦ねえんだ! 力があるからって、神同士のルールと記憶を直接頭に流し込んできたぞ! 誰がやったんだ!?」
あたしじゃなきゃオーバーヒートしているぞとどこぞの創星神さまが私に文句を垂れてくる。私は一塊になっている創星神さま方を見つめて目を細めて、犯人捜しをしてみる。
「分かりませんが、皆さまの中の誰かなのでしょうね」
犯人は誰か分からないが、確実にあの中にいる。私が肩を竦めれば、どこぞの創星神さまは大きく息を吐いて目をかっぴろげた。
「酷くねえ? 酷いよな!? まあ、あたしがなにも知らねーからこうなったんだけどよ……」
「情緒が不安定になっておられませんか?」
どこぞの創星神さまは神さま方に囲まれてしまった理由はご自身に問題があると一応は把握しているようである。反省できているなら良かった。少しテンションが高くなっているようだから、あとは美味しいご飯を食べて寝て、起きれば嫌な記憶なんてほとんど忘れているだろう。苦笑いを浮かべていれば、私をどこぞの創星神さまは睨む。
「なってねえっ! ちと頭の中がぐちゃぐちゃしているだけだ。そのうちいつもの状態に戻る。はあ……一回、あたしの星に戻って様子を見に行かねーとな」
やはりいろいろとテンションがおかしい。どなたかが、どこぞの創星神さまの頭の中を弄っていないよねと不安になってくる。私が創星神さま方の一団に視線を向けると、テラさまと視線が合った。テラさまは私を見てぱちんとウインクを飛ばし、こちらへと歩を進める。足が長いため私寄り移動時間が凄く短い。
「それをやると、わたしたちのボスに怒られるわね」
「ボスって……創造神さまですか?」
私の思考を読んでいたテラさまは肩を竦めていた。するとグイーさまも一団から抜け出して、こちらへとやってくる。
「そそ! わたしたちの上司とか上役とかお偉いさんってやつ」
「小耳に挟んでおりましたが、神さま方を管理する神さまがいらっしゃるんですね」
なんだか軽く言われてしまうと、スーツを着込んだ堅物真面目なサラリーマンの様な姿で創造神さまを描いてしまう。煙草を吹かしながら新聞を読み、はあと深く溜息を吐いていそうな……くたびれていそうというのは多分に失礼かもしれない。私が小さく息を吐くと、こちらに辿り着いたグイーさまが口を開いた。
「創星神が好き勝手をして、創造神に罰せられた者もいる。それを踏まえると我らに対する抑止力なのだろう。創造神に消された創星神は儂らの伝説になっているな!」
がははーとグイーさまが笑う。ちなみに創造神さまより格上の方も存在しているらしい。らしい、というのはグイーさまもテラさまも一度もお姿を見たことがないとのこと。他の創星神さまも見たことはなく、今回参加していない多くの創星神さまも存在を知らず、本当はいないのではと疑問視しているとか。
「神さまの世界も広いですね」
私が神さま世界の広大さに黄昏ていれば、グイーさまとテラさまが苦笑いをしている。
「さて、おチビちゃんへのお説教兼勉強会は終わったし、みんなでわいわい楽しみましょう~娯楽が少ない所為か楽しみにしていた連中が多いのよ。ナイ、音頭をお願いー!」
十分間でどこぞの創星神さまへのルール伝授は終わったようである。本当に神さま方の力は規格外だ。しかし私が音頭を取って良いのだろうか。
「頼む」
「あたしは散々だったし、そう食べられないけどなー……はあ」
グイーさまがテラさまを肯定し、どこぞの創星神さまは疲れた様子で愚痴を告げる。七色の創星神さまも一団を抜け出して、スライムボディーをゆっくりと動かしながらこちらへとやってくる。
『ゴハン、オイシイト、ミナニツタエタ』
七色の創星神さまも早く始めようと言いたいのか、身体をキラキラ光らせている。それならと私は前を向いて、一団になっている皆さまの方へと向かう。
「お話は終えたようですので、食事会の用意をさせて頂きます。皆さまの口に合えば良いのですが」
私はそう告げて、会場の隅っこにいる料理長さまとエーリヒさまに目配せをするのだった。
◇
信じられない光景を俺は見ている。
グイーから救援要請があり話を聞けば、若い創星神がやんちゃをしたから先達としていろいろ教えてやって欲しいと頼まれた。テラも関わっているようで、グイーの話は真実かと問えば実際に起きていることだと教えてくれる。
というか、テラの星に新人の創星神が忍び込んでいたことに驚きである。他の星の創星神が自身が造り出した星に忍び込めば違和感を覚えると思うのだが……まあ、俺は誰かに侵入を試まれたことはないのだから憶測でしかないけれど。
しかしグイーの星に住むナイという人間は少々変わっている……いや、俺たちの想像を超える存在ではなかろうかと、今、目の前に広がる光景を見て感心していた。彼女の足下には気難しい創星神が身体を揺らしながら付いている。グイーの星でいうところのスライムに似ている姿をした創星神は最古参といっても構わない。最古参だというのに原初の星の姿のままで進化をする前兆が全く現れていない。
ある程度の時間、星を見守っていればなにもなかった場所に大気と水が誕生して命が育まれる。そしてそこから多種多様な生き物が生まれ知的生命体が誕生する。だというのに最古参の創星神の星は未だに水と草花くらいしか誕生していない。
俺たちはそんな最古参の創星神を『堅物』と呼んでいた。何故、星を成長させないのか甚だ疑問であるが、創造神からなにも言われないのであれば俺たちが口や手を出すべきではない。そんなつまらない星を管理してなにが楽しいのかと声を大きくして言いたくなるが、まあ堅物には堅物なりの考えがあるのだろう。
そして今、生命体のいない、もしくは知らない堅物が生命体の側でなにやら飯を強請っている。俺は信じられない光景を見ていると、軽食コーナーに立つナイと呼ばれる少女と堅物を凝視していた。
すると同時期に創星神となったお嬢口調の金髪碧眼の創星神――金髪碧眼、ついでに乳のでかい女は創造神の趣味である。男神はバランスを取るために仕方なく生み出しているとか――も驚いて目を丸く見開いている。
堅物が少女の側にいるのは新人の教育前に見ていたものの、本当に信じられないのだ。あの堅物が喋っていることも信じられない。グイーの星の者たちに舐められては困るから平然を装っていたのだ。
「ただの人間がどうやってあの堅物真面目な奴を手懐けたんだ?」
「分かりませんわ。しかしあの堅物が屋敷の主に懐いていることは事実……信じられませんわ」
いや、本当に。しかも堅物は少女に取り分けて貰い、皿の上に乗った飯まで食っている。一体全体どうなっているのだ。今回の場を整えたであろうグイーとテラは他の連中と雑談に興じている。
誰かこの状況を説明してくれと腹から叫んだとしても誰も俺のことなど気にしない。グイーはお気に入りの酒の説明に入っているし、テラも美味しい品を紹介している。新人の創星神は居心地悪そうな顔をして会場の隅にある椅子に腰かけていた。輪の中に加わらなければ、知識を得ても常識や相手との距離感を掴めないと言いたくなってくる。その辺りも新人にグイーとテラが教えてくれると良いのだが。
「グイーとテラはその辺り無頓着だからなあ……苦労するぞ、あの子も新人も」
「とはいえその苦労を苦労と感じていないように見えますわ。新人は……どういたしましょうか」
俺が肩を竦めるとお嬢口調の創星神もはあと息を吐いた。まあ、堅物相手に語り掛ける創星神はグイーとテラくらいしかいないから、堅物がグイーの星の者に懐くのは必然だったかもしれない。でもなあ。
「まあ、平然と堅物相手に話をしているからな……会話が成立していることが不思議でたまらん」
「ええ。よく相手を務められるものだと感心いたします」
最古参故に堅物は力を蓄えている。俺たち創星神が十柱集まって堅物の相手をしたとして……敵うのだろうか。闘争心むき出しの創星神もいるが、彼でも相手をしたくないと言わせるほどだ。本当に神の奇跡が起こっている――俺も神であるが、星の管理者としての立場が強いからなんとも言えんが――なあとお嬢口調の創星神と視線を合わせる。
「しかしお前とは久しぶりに会ったな」
「どれほどの時間、お会いしていないのか、覚えておりませんわ」
本当にいつ振りだろうか。彼女と俺は創造神に同時期に造られ、自分たちの星についていろいろ語り合っていたのだが、いつの間にか疎遠になっていた。それくらい久しぶりに会うと目を細めると、鼻を刺激する良い匂いが漂ってきた。どうやら温かい料理が運び込まれて取り分けてくれているようだ。匂いに釣られて腹がぎゅうと音を鳴らす。するとお嬢口調の創星神が笑い、俺は恥ずかしくなって少し視線を逸らしつつ口を開いた。
「ま、とりあえず、俺たちも楽しむか」
「ですわね。いろいろ刺激される匂いが漂っていますもの」
少女が言っていた通りに食事を楽しもうと笑い、俺たちは取り分け用の皿を手にするのだった。




