1558:説教開始。
――予定の時間となった。
会場となるのは屋敷の中にある迎賓室である。侯爵家レベルでは少し豪勢なのだとか。ここが元バーコーツ公爵邸で良かったのかもしれない。
会場には護衛としてヤーバン王であるアリーさまや副団長さまと猫背さんに侯爵家の騎士の方たちが周りを固めていた。他にもフィーネさまとアリアさまとロザリンデさまに、給仕役の方たちも一緒に時間まで待っている。
緊張している方がほとんどであるが、ウキウキしている方も一部にはいるようだ。錚々たる顔ぶれだと私が目を細めれば、会場の床に幾何学模様が浮かび始めた。この感じはグイーさまかなと首を横に傾げると『どうしたの、ナイ?』というクロの声が聞こえてくる。私がクロになんでもないよと返したその時、光の中からシルエットが現れて見慣れた姿が顕現した。
「我、降臨!」
いつものアレを口にしたグイーさまであるが、少し声量が控えめで緊張感があるような。気のせいかと私が逆の方向へ首を傾げると、テラさまも少し遅れてやってくる。
側にいたどこぞの創星神さまが『派手だな』と零し、七色の創星神さまが『グイーダカラ』と少し呆れた様子で口にした。地上に顕現したグイーさまとテラさまに遅れて、北と東大陸の女神であるナターリエさまとエーリカさまも地上に降りられた。そうしてグイーさまとテラさまとナターリエさまとエーリカさまが私の前に立つ。私が深く頭を下げると『そう畏まる必要はないぞ!』とグイーさまがカラっとした声を上げ、テラさまが半歩前に出る。
「ナイ。いろいろと準備ありがとねー! 神の島だとちょっと大変なことになりそうだから、地上で集まれる場所があって良かったわ!」
テラさまが良い匂いがすると言って周りを見渡している。既に軽食コーナーには冷めると美味しくない料理以外が出されていた。私はテラさまと視線を合わせた。
「いえ。我が屋敷を選んで頂き感謝致します。しかし、神さまの島では問題となるというのは……?」
相変わらず私が話をする方は背が高い。最近はどこぞの創星神さまと七色の創星神さまと話す機会が多かったから、いつもより首が痛い気がしてならない。妙な他所事を考えるのは止めようとすれば、グイーさまも半歩前に出てきた。どうやら私の疑問に答えてくれるようである。
「喧嘩っ早い者がいるからなあ。儂の島だと遠慮なく力を使えると言って大暴れするのだが、地上でその力を振舞えばどうなるかは理解しているからな。だからナイを頼ったのだ!」
神さまの島では力の解放は自由であるが、地上では迷惑を掛けないように制限が掛かるし、神さま同士のルール上では星を創造した者が最強となるそうである。ということは見た目がヨワヨワなどこぞの創星神さまも、ご自身の星へ帰還して地上に降りれば敵なしとなるわけか。
見た目が五歳児だから強いイメージは抱けないし、創造神さまとして振舞う姿が頭の中に描けない。当のどこぞの創星神さまはグイーさまとテラさまの登場にこれから説教が始まるとゲンナリしている。どこぞの創星神さまの隣にいた七色の創星神さまはスライムボディーを揺らして、ゆっくりとこちらへ移動してきた。
『グイー、テラ。ヒサシブリ』
ぷよんと七色の創星神さまの身体が揺れる。グイーさまは床に膝を突いて七色の創星神さまと視線を合わせた。
「久しぶりだなあ! しかし儂には信用というものがないのか……?」
『シンヨウトイウヨリ、ミナガジカンニテキトウ』
どうやらグイーさまだけに向けたものではなく、創星神さま方に七色の創星神さまは苦言を伝えたいようだ。存在している時間が神がかっている所為か、皆さま時間には随分とルーズなご様子で。それなら今回、時間通りにグイーさまとテラさまが訪れたのは奇跡ではなかろうか。それとも地上で行うために配慮をしてくれたのか。私は横で黙って話を聞いていると、テラさまが片方の手を腰に当てる。
「本当に久しぶりね。まあ私たちが時間に拘りがないのは反省するけれど、貴方も貴方で時間に拘り過ぎじゃない? 真面目なところは評価しているけれどね?」
『ヤハリ、テキトウ』
「厳しいわねえ」
渋い雰囲気を醸す七色の創星神さまにテラさまはひたすら明るい。陽気な夫婦と堅真面目な人を見ているようだ。どこぞの創星神さまが一緒にいるせいか、テラさまとグイーさまの子供に見えなくもない。しかし他の創星神さまはこられないのだろうかと私が片眉を上げれば、グイーさまが床から立ち上がる。相変わらずの巨漢で私を見下ろしていた。
「ナイ。皆を呼んでもいいか? 今回のことを説明する際に、星に力を流して島を大きくさせた話をすれば、ナイに興味を持った者が多くいてな!」
ガハハと腕を組んで笑うグイーさまについ口から先に言葉が出てしまう。
「もしかして侯爵邸が会場になった理由の一端に?」
私が首を傾げるとテラさまもにっと良い顔になる。
「イグザクトリー!」
――日本語英語!
という突っ込みは口にはしない。というか久方ぶりに聞いたなと懐かしくもある。しかし、まさか、南の島に魔力を流した一件が他の創星神さまにも伝わるなんて。
本当に縁は巡り巡るのだなあと私が息を吐けば、グイーさまが天井を見上げる。首筋に違和感を覚えたから、他の創星神さまと交信でもしているのだろう。するとまた幾何学模様が会場にいくつも浮かんだ。驚いている方にウキウキしている方、ドン引きしている方、反応は様々だ。場所によって様々な模様が浮かび、光る色も様々だった。幾何学模様の上にシルエットが浮かび上がり、暫くすれば身体が空間に固定されていく。
本当に神さまって凄いなあと感心していると、グイーさまとテラさまが私の横に並んだ。他の創星神さま方に同格に思われそうだが、今日の私はホスト役でもてなすのが仕事である。そのためだろうと言いたいことを飲み込めば、二十三柱さまが目の前に現れていた。
圧が凄い。
一柱さまだけでも人間にとって圧は相当なものである。だというのに二十三柱……テラさまとグイーさまとどこぞの創星神さまと七色の創星神さまを加えると二十七柱となる。会場に控えている皆さまには私の祝福を施しているのだが、誰も気を失っていないので一定の効果はあるようだ。男性姿の方もいれば女性の姿の方もいる。一部は獣の姿の方もいるのだが意思疎通はできるのだろうか。
しかしながら、七色の創星神さまの例もあれば、屋敷の魔獣や幻獣の皆さまは人語を操れる。神さまだからコミュニケーションが取れないことはないだろう。文化の違いや価値観の違いで齟齬は起きるかもしれないが。
登場した皆さまの視線が私に集まっている気がしてならない。
グイーさまから妙なことを聞かなければ良かったと私が頭を下げれば、ぞろぞろと二十三柱さま方がこちらへとやってきた。どこぞの創星神さまは壮観な光景に口の端が伸びている。
私も口の端を伸ばしてポカーンとしておきたいが、挨拶をしなければならないだろう。深呼吸を繰り返しているとテラさまが私の背に手を当てる。どうやら『過度に緊張しなくても良いし、失敗すればフォローを入れる』とテラさまは言いたいようだ。
「皆さま、ようこそアストライアー侯爵邸へ。今回、グイーさまとテラさまからホスト役の拝命を受けました。ナイ・アストライアーと申します」
しかしこの言葉以外になにを紡げば良いだろうか。あまりくどくど自分語りをしても仕方ないし、本題はどこぞの創星神さまの教育である。集まった創星神さま方は私を上から下を見て、なにか考える素振りを見せていた。私は既になにかやらかして、彼らの不興を買っているのだろうかと心配していると、テラさまが一歩前に出てくれる。
「みんな、なにか言ってよ! ナイが困っているじゃない!」
ねえとテラさまが私の方へと振り返る。そう言われても困るが助け船を出してくれたのは有難い。創星神さま方は私に視線を向けて、なにやら意味深な雰囲気を醸し出している。するとガタイの良いお兄さんといった感じの方が私に指を指し、凄く美人で高身長な女神さまがテラさまの横に並んだ。
「地上の者とどう接すれば良いのか分からんのだ!」
「ええ。初めてのことですもの。このようなか弱い者に我々が接して良いものか。グイーとテラが面白そうに話すからわたくしたちは興味を持ちましたけれど……でもまあ、言われた通りに頑丈そうな生き物ではあるかしら?」
か弱い者という言葉に複数名が吹いたような気がする。誰とは言わないが、特にグイーさま一家……そりゃ、創星神さまからすれば人間はちっぽけでか弱い生き物に見えるだろう。そもそも人類は個人の力より数で勝負している形態なのだから。
「悪いな、少し緊張していた」
「申し訳ありませんわ。こうして喋る機会など、神同士の間でしかなかったものですから」
後ろ手で頭を掻く若い男性の創星神さまと手を頬に当てて困り顔になる美人な創星神さまが私に告げた。他の創星神さまも頷いたり、不思議そうにしていたりと反応は様々だ。私は神さまでも緊張するのかと私は人間味を感じて少し胸を撫でおろす。
「いえ。当家にお越しいただきありがとうございます。本日はよろしくお願い致します」
「その謙った態度はどうにかならねえ? まあ俺たちと同等ってわけにゃいかねえけどよ、俺の星の者じゃねからなあ……」
「貴方は無理を言っているのではなくて?」
微妙な表情になった若い男性の創星神さまに美人な創星神さまが首を傾げている。絵になるなあと感心していれば、テラさまがパンと手を叩いた。
「さーて、みんな。美味しいご飯の前に、新人ちゃんへ創星神とはなんたるものか説明しましょうか!」
「ちょいと今回はオイタが過ぎたのう。なにも理解しておらぬならば、知る機会を設けても良いだろう」
テラさまの物言いだとメインがご飯に聞こえてしまう。テラさまのフォローを入れているのかグイーさまはちゃんと仕事の話をしていた。珍しい。
「問題児はあれか。くると聞いていたのに姿を見なかったのはそのためか。相変らずだな、アンタは」
若い男性の創星神さまが腰を折って、どこぞの創星神さまの目を覗き、七色の創星神さまに語り掛ける。
『ミナガテキトウ』
「適当ではなく、時間感覚の差がそれぞれにあるもの。揃えるのは結構大変ですわ」
美人な創星神さまも腰を折りながら七色の創星神さまに肩を竦めていた。
「アンタはいつまでその姿なんだ?」
若い男性の創星神さまがそう声を上げたが、一体どういうことだと私が首を傾げていれば『星の進化具合でわたしたちの容姿も変わっていくから。アレは初期状態のまま長い時間を過ごしているのね。だから彼は不思議に感じているんじゃないかしら?』とテラさまが助言してくれる。
『サア?』
「ほら、適当な答えだわ! 誰かのことを言及できませんわよ、貴方」
三柱さまの声に回りの皆さまはやれやれと言う感じで見守っている。そうして暫く、どこぞの創星神さまへの説教大会(仮)が始まるのだった。




