1557:各所から集結中。
侯爵領領主邸には関係者が多くいる。
朝ご飯を終えた私は玄関ホールの正面階段の踊り場で、集まった皆さまを見下ろしていた。私の後ろにはいつもの面子となるジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまにヴァルトルーデさまとジルケさまが控え、少し離れた同じ踊り場には家宰さまと侍女長さまが立っている。
眼下には今日のために集まってくださった方が本当にたくさんいて、ホールはすし詰め状態となっていた。ぱっと視線を取られてしまうのはアリーさまだろう。彼女の近くには昨日、侯爵領入りをした副団長さまと猫背さんがいる。
アリアさまとロザリンデさまもなにかしら参加しておいた方が良いだろうと私は考え、手紙を認めれば『参加します!』という覇気のある返事と『わたくしなどが……しかしアリアさんも参加されますので、筆頭補佐として参加させて頂きます』と記されたおり、教会騎士の方と共にホールの一角を占拠していた。
アルバトロス王国の筆頭聖女さまと筆頭聖女補佐さまが参加するのであれば、聖王国に声を掛けないわけにはいかない。ということで、フィーネさまはエーリヒさまと会えるという目的で参加を表明した。教皇猊下は聖王国自慢のワインで随分とお酒を譲っていただいている。ウルスラさまとアリサさまは聖王国でフィーネさまの帰りを待つとのこと。
アルバトロス王国上層部からはエーリヒさまが調理部助っ人として派遣され、ユルゲンさまは書類仕事を手伝うために侯爵領に一週間ほど滞在中だ。
亜人連合国からも警備としてディアンさまとベリルさまと赤竜さまと青竜さまと緑竜さまが。接待役としてダリア姉さんとアイリス姉さんがきてくれていた。彼らがいる場所も凄く目立つ。
他の方たちは緊張しているのか亜人連合国の皆さまと少し距離を保っているからだ。アリーさまと副団長さまと猫背さんにエーリヒさまなら、普通に亜人連合国の皆さまと話をしているが、他の方となるとやはりまだ蟠りがあるようで距離を取っていた。
まだ少し時間が掛かるのかと私は小さく息を吐き、ホールの右端から左端まで視線を動かし、真ん中にまた戻して息を吸い込んだ。
「皆さま、本日はよろしくお願い致します。神さま方への対応は私が主に行う予定となり、皆さまには細々としたことを行って頂く予定です。貴族のしきたりが通用しない場合もあるでしょう。困った場合は私とテラさまとグイーさまに申し出てください。あと、クロとヴァナルと雪さんと華さんと夜さんも窓口となっております。遠慮なく疑問や要望を投げて頂ければ幸いです」
とまあ、今日の私の仕事のメインは屋敷の指揮と神さまの接待と集まってくださった皆さまの相談窓口となる。どこぞの創星神さまと七色の創星神さまは二階から一階のホールをこっそり見下ろしていた。
どこぞの創星神さまは大勢の人間が集まっていることを不思議に感じているようで顔を斜めに倒している。七色の創星神さまはスライムボディーをぷるんと動かしているのだが、感情はイマイチ読み取れない。数時間の付き合いで七色の創星神さまについて詳しくないけれど、悪いことは考えていなさそうである。それくらいなら私でも感じ取れることができた。
ちなみにエーリヒさまとユルゲンさまはどこぞの創星神さまと七色の創星神さまと並んで階下を見下ろしている。エーリヒさまは微妙な、ユルゲンさまは顔を引き攣らせているけれど、神圧に耐えられているので大丈夫だろう。
ホールには顔を青褪めさせている方がいるので、あとで無理しないように通達しなければ。家宰さまに伝えておけば配慮してくれる。偉い人の長話ほど無駄なものはないと、私は早々に挨拶を終えて自分たちの担当場所へ向かうようにと告げて解散を下した。
ふうと息を吐いて私は踊り場から階下へと降りる。少し声を掛けておきたい方たちがいるためだ。歩を進めて、目立つ紫色の外套に身を包んだ二人をきょろきょろと探せば、直ぐに見つけることができた。件の二人は私が近寄っていることに気付いたようで、後ろを振り返り身体をこちらに向ける。
「アストライアー侯爵閣下。本日はよろしくお願い致します」
「よろしく。ご飯も楽しみ。昨日の美味しかった」
にこーと笑みを深める副団長さまとへらりと笑う猫背さんが声を上げた。相変わらずブレない方たちだと私は苦笑いを浮かべて口を開く。
「よろしくお願いします。アルバトロス城の様子はどのような感じでしょうか?」
私が下げた目線を元の位置に戻せば、副団長さまと猫背さんがまた笑っている。副団長さまは創星神さまという凡そ人生で関わることができない方たちを目に焼き付けるようだ。猫背さんは副団長さまと同じ気持ちを抱きつつ、領主邸の食事にも興味があるようである。
彼は自分以外の魔素や魔力が苦手な体質である。名付けるなら魔素アレルギーとなるのだろう。本当によく今まで生き残れていたものだが、最近は血色が良いし猫背も随分改善している。このまま健康でいて欲しいと願っていれば、お二人は私の疑問に答えてくれた。
「閣下が創星神さまを迎え入れる準備をしているという話で持ち切りですねえ」
「ん。聖王国の立場がないと大笑いしている人、いた」
私はフィーネさまを招待して良かったと安堵の息を吐く。最初、フィーネさまとアリアさまとロザリンデさまを呼ぶつもりは私の頭の中に全くなかった。ただクレイグが『教会の連中、呼ばなくて良いのかよ? 面子、ナイに潰されてるぞ』と夜の駄弁り時間に告げたのだ。クレイグが口にした通り、私は聖王国と教会の顔に泥を塗りまくっているかもしれないと、急いで手紙を認めた次第だ。そうして教会関係者も参加しているから……潰れることはないはずである。しかし……。
「大笑いしている方って、まさか……」
「ボルドー男爵さまではありませんよ」
「あの人なら、誰にも分らないところでそうしてると思う」
私が目の前のお二人から視線を左に外せば、即訂正の言葉が飛んできた。どうしてボルドー男爵さまが大笑いしていると私が思い描いたと副団長さまと猫背さんは理解したのか。
その前に人前で大笑いしていた豪傑は誰だろう。聖王国と教会が嫌いな方か、今回の出来事で情緒がおかしくなった方であろうか。結局、大笑いしていた人が分からないまま、お二人は警備に就くと言い残して私の下を去っていく。
「フィーネさま。アリアさま、ロザリンデさま。今日はよろしくお願いします」
私の姿を見つけたフィーネさまは小さく礼を執り、アリアさまは元気に手を振り、ロザリンデさまは恐縮そうに頭を下げる。お三方らしいといえばらしいのだろう。私は声を上げながら、彼女たちの前で立ち止まる。
「ナイさま。いろいろとお世話になります。本当に創星神さまが二十五柱さまも集まるんですね……」
「本当に奇跡が起こっていますね! 創星神さまに選ばれたナイさまは凄いです!」
「ええ、本当に。その奇跡にわたくしが加わって良いのか……」
女性が三人集まれば姦しいというのは事実だろう。話が途切れそうにないのだが、私は既に二柱さまが来ていらっしゃると告げて良いのか迷う。とはいえ黙っていても仕方ないし、出会い頭で紹介するわけにもいかないので私は腹を決めた。
「既に二柱さまはいらっしゃっておられますよ。二階のエーリヒさまとユルゲンさまの側に」
「え?」
「へ?」
「ひょ?」
私の声に間を置かずお三方は二階の廊下に立っているエーリヒさまとユルゲンさまがいる方へと顔を向けた途端に短い声を上げた。お三方は『ま、まさか幼女趣味に目覚め……?』『女の子とスライム?』『……』と小声を上げ、私の方へと視線を戻す。
「えっと。五歳くらいの女の子とス、スライム?」
「たしかに凄く特別なものを感じるというか」
「ただならぬ気配を発しておられますね……さ、ささ、流石、星を創造した神さまですわ」
お三方が顔を顰めながら言葉を発したものの、複雑な心境を抱えているようである。フィーネさまはエーリヒさまに思う所があるようだし、アリアさまはスライム形態な神さまに驚いているようである。ロザリンデさまはキャパシティーを超えている出来事に頭から湯気が上がりそうな雰囲気があった。多分きっと、深く考えると髪が薄くなるから、軽い気持ちで今回のことに挑んだ方が衛生上良いのだろう。
「テラさまとグイーさまを含めて、あと二十三柱の創星神さまがこられる予定です」
既に二柱さまはいらっしゃるが、あと二十三柱さまが揃うため、アルバトロス上層部は『前代未聞だ!』『奇跡の所業だ!』『どうしてこうなった!?』と頭を抱えているらしい。
私も頭を抱えたくなるものの、グイーさまとテラさまが連れてくる方たちなので迷惑を掛けるような神さまではないのだろう。現にどこぞの創星神さまも七色の創星神さまも基本、私の話を聞いてくれるのだから。まあ残りの方たちが私の話に耳を貸してくれるとは限らないが、グイーさまとテラさまがいるから問題が起これば二柱さまに丸投げすれば良い。
「……笑うしかないですね、ナイさま」
「幾百幾万の星がありますから、少ないような気もします」
口の端を引き攣らせたフィーネさまに私はまだ少ないのではと言ってのけた。本当に星の数は数えきれないほどあるから、二十五柱さまで済んだことに喜ばないといけないのではなかろうか。
「ナイさまは……どうしてそう泰然としていられるのか」
はあと深い溜息を吐いたフィーネさまが肩を落とした。それに創星神さまより上の存在となる創造神さまもいると分かったのだ。創造神さまが何柱さまもいると大変そうだが、グイーさまとテラさまの話では一柱さましか存在していないそうである。創造神さまがやってこないだけマシと思えば少しは気が紛れるのだ。さて、そろそろ時間だと私は仕切り直しのために、お三方をきちんと捉えて背筋を伸ばす。
「話は変わりますが、お三方には創星神さまが集まる部屋で私の側で控えて貰おうかと考えております。宜しいでしょうか?」
手紙で伝えていたし、了承を得ているけれど……最終確認だ。
「緊張しますが、聖王国のために頑張ります」
「ナイさまがご一緒されるなら、百人力です!」
「恐れ多いものの……同席させて頂きますわ」
フィーネさまは聖王国のためというよりエーリヒさまとご自身のためだろう。アリアさまは純真無垢な表情で答えてくれる。彼女の期待を裏切らないように私は立ちまわらなければなと頷いた。ロザリンデさまは表情は硬いものの決意はできているようである。そうして私はお三方と一緒にホールを少し移動して、亜人連合国の皆さまの下へと挨拶に行く。
毎回、いろいろと協力して頂いて恐縮だと私が頭を下げれば、ディアンさまもベリルさまもダリア姉さんとアイリス姉さんも口を揃えて気にするなと告げた。人化している赤竜さんと青竜さんと緑竜さんまでしっかり頷いているのだが、私は彼らから受けた恩を返し切れていない。生きている間に恩返しができると良いなと願いながら、ホール横にあるの会場へと続く廊下を歩いている。
「あれ。クレイグ、どうしたの?」
「なにもありません。偶然が重なっただけでございます、ご当主さま」
仕事服に身を包んだクレイグが廊下の端で声を上げる。彼の配置場所と時間を考えると、この場にいるのは違和感があった。偶然が重なったと彼は言っているが、なにかあったのだろうか。
私からぷいと視線を外したクレイグはアリアさまを捉えて口の端を伸ばす。そうして更に私から視線を外していた。フィーネさまとロザリンデさまはふふふと小さく笑っている。一先ず、クレイグに対して思うことがある私はソレを伝えたいために言葉を紡いだ。
「クレイグにご当主さま言われるのは変な感じ」
「いい加減、慣れろ」
「はーい」
今いる方たちは南の島組のため少々の悪態は許される。クレイグは『じゃあな』と言って、フィーネさまとアリアさまとロザリンデさまに礼を執り廊下を歩いて行った。フィーネさまはアリアさまに肘打ちを入れ、ロザリンデさまはふふふと小さく笑っている。
「ナイさま、行きましょう!」
アリアさまは少し顔を赤くしながら、私に先を急ごうと急かすのだった。




