1556:腹ごしらえ。
なんだかんだと言いながらもどこぞの創星神さまと七色の創星神さまは打ち解けているようで、朝ご飯の時には二柱さま仲良く隣の席に腰を下ろしている。流石にスライムな創星神さまは椅子の上に腰を下ろすと、テーブルの食事が取れないため上がって貰っているけれど。
今日の朝ご飯は私が力を付けたいからと言って、白ご飯と鮭とお味噌汁とお漬物を料理長さまにお願いしている。クレイグとサフィールは従業員用の食堂で朝ご飯を済ませると連絡がきたためこの場にはいない。ヴァルトルーデさまとジークとリンはパン食、ジルケさまはご飯食を選んでおり、頂きますの合図を待っていた。
用意された朝ご飯をじっと見るどこぞの創星神さまと七色の創星神さまは目の前の料理を凝視している。
「相変わらず、飯の量が多い……」
『……オオイカスクナイノカ、ワカラナイ。オイシイトイウガイネンモ、ヨクワカラナイ』
どこぞの創星神さまの前には一人前の朝ご飯が。一週間、どこぞの創星神さまは屋敷で過ごされているためか、一口でお腹いっぱいと言っていたのに、今は三口食べてお腹いっぱいと言っている。
残ったご飯はヴァルトルーデさまとジルケさまが食べてくれるので残飯となる心配はなかった。二柱さまは『まさか他の星を創った方の残り物を処理するなんて』とぼやいていたけれど。流石に私が食べるわけにもいかないし、屋敷の方たちに任せるわけにはいかないので、二柱さまには迷惑を掛けている。ただ好物があると嬉しそうに食べているため、さほど気にしてはないようだ。
七色の創星神さまは目の前の物が未知のため、不思議そうに身体を揺らしている。少し困っているような気もするが、美味しいの概念が分からないのであれば口に合わないものを探し出すしかないのだろう。
ただ食事を行えるのか甚だ疑問である。ロゼさんは私の魔力をご飯としているので、見た目が同じどこぞの創星神さまも同じ印象を私は抱いてしまうのだ。とはいえ興味が湧いて挑戦しようとしているならば、全力で応援する次第である。ご飯は日々の楽しみだし、生きていく上で大事なものだ。七色の創星神さまが食事から刺激を受けて、停滞している星の進化になにか変化がある可能性もある。
「食事の量が多ければ残してくださいね。美味しいの概念が分からないのであれば、いろいろと食べてみて味の好みを見つけるしかないのかなと」
だからこそ、いろいろ提供したかったのだがそれはお昼に期待しよう。屋敷の調理場では神さまの島からディオさんもやってきて、戦力として加勢してくれている。エーリヒさまも『俺が』と遠慮しながらも、料理を作っているところを私がのぞけば結構楽しそうにしていた。
料理長さまとも話が合うようだし、他の料理人の方とも会話を交わしていた。ディオさんも一時期研修にきていたので、料理人の方々は恐縮そうにしつつちゃんと指導をしているところを見たのだ。仲が良くて良いなと私は少し羨ましくなりながら手を合わせる。
「いただきます!」
私が声を上げれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまとジークとリンも唱えてくれた。女神さまを差し置いて『いただきます』と唱えるのは如何なものかと思うものの、ヴァルトルーデさまとジルケさまは大陸式の祈りを捧げるものよりも良いそうである。
「まーす」
『ナゼ、コエヲアゲタ?』
どこぞの創星神さまは語尾の部分だけを口にし、七色の創星神さまはぽよんと身体を動かす。
「生き物や植物の命を頂いていることと、作ってくれた方に感謝を捧げる意味合いがありますね」
生きるために他の命を途中で手折っていることも告げておく。食事ができる感謝を忘れてしまっては、文明の中で生きる人間として失格だ。私は食べましょうと二柱さまに伝えれば、どこぞの創星神さまはパンに大量のジャムを塗りたくる。
口に入るか心配になる量であるが、食べる量は確実に上がっていた。今は好き嫌いを直すとか、栄養素をきちんと摂るとかより、どこぞの創星神さまは食べることに力を入れて貰わねば。
グイーさまやテラさまのように楽しむことができれば、創星神さまライフも充実するかもしれないのだから。もちろん七色の創星神さまにも食事の楽しさを理解して貰いたい。神さま相手に傲慢かもしれないが、ちっぽけな人間の望みである。少しくらい叶えてくれたって良いはずだ。
「甘いのは美味い」
どこぞの創星神さまはパンを頬張りながら口にした。中が見えていないから咎める必要はないだろうと、私は口の中のものを嚥下してから口を開く。
「それは良かったです。食べられるだけ、食べてくださいね」
「半分は埋まってるな。でもまあ、もう一口くらいいける。甘いしな」
どこぞの創星神さまはお腹を押さえつつ答えてくれるが、もう一口頑張って食べるようだ。七色の創星神さまは『アマイ?』と言葉を反芻すると、ヴァルトルーデさまが『味の一種です』と告げ、ジルケさまが『食べてごらんになりますか?』と問うている。
七色の創星神さまは興味を持ったようで、ヴァルトルーデさまがパンにジャムを適量塗って七色の創星神さまの前へと腕を伸ばした。すると七色の創星神さまはスライムボディーをゆるりと動かして、ヴァルトルーデさまの手にあるパンを身体に取り込んだ。七色の創星神さまはなにか取り込んだパンを咀嚼しているのか、身体をうにょうにょと動かしている。激しく光ったりはしないから、七色の創星神さまは平常心だと思いたい。
『アマイ……ヨクワカラナイ』
七色の創星神さまの身体が横に広がる。もしかして味が分からなくて残念に感じているのだろうか。私が『甘い』という味をどう説明したものかと頭を捻っていると、ヴァルトルーデさまがこちらを見ていた。
「ナイ。お味噌汁少し分けて」
「構いませんが」
「お味噌汁は少ししょっぱ辛い。甘いの反対、です」
ヴァルトルーデさまがドヤと顔を変えて頷く。今日は麦味噌――他の味噌より甘い――を使っていないから、辛いの説明にある程度貢献できると思う。ただもっとわかりやすい食品があるなと私は口を開いた。
「それなら唐辛子の方が分かりやすいような……?」
「いきなり刺激の強いものを献上できねえだろ。食べることが嫌いになったらどうするんだ」
私が小さく首を横に倒せば、ジルケさまが呆れた声を上げる。たしかに唐辛子は初心者の方にはキツイだろうか。私は唐辛子を食べるなんて全く持って思わないから、少し気持ちがはやり過ぎたかもしれない。
私はジルケさまに『そうでした』と頭を下げれば『ナイは極端なんだよ』と苦笑いを浮かべる。兎にも角にもお味噌汁を分けることが先かと私はヴァルトルーデさまに椀を差し出した。まだ手を付けていないから、七色の創星神さまに食して貰っても大丈夫なはずである。多分。
ヴァルトルーデさまは未使用のスプーンでお味噌汁を掬い盗り、また腕を伸ばして七色の創星神さまに差し出す。すると七色の創星神さまは身体を動かしてスプーンの方へ伸びていく。ぺろんとスプーンの上に身体を乗せてさっと引けば、スプーンの中のお味噌汁は綺麗に消えていた。一体どういう仕組みで七色の創星神さまの身体の中に入っているのだろう。
「口がねえのに器用なことしやがるな」
『クチ、ヒツヨウナイ。ドコカラデモトリコメル』
どこぞの創星神さまに七色の創星神さまが『ドヤ』という雰囲気を醸し出す。他の創星神さまたちは人型タイプが多いそうで、七色の創星神さまのような有機物の単細胞生物系の形の方はあまりいらっしゃらないとか。
私はへーと感心しつつ、アニメ映画で有名な呪いの神さまのような方はいないようだと安堵した。見る分には良いけれど、うにょうにょ系は少々苦手である……あれ、となるとロゼさんもうにょうにょしているというのに私は苦手意識を抱いていない。スライムは平気なようだと新たな発見をしていると、どこぞの創星神さまは『もう腹が一杯だ』と言って今日は三口で朝ご飯を終えお腹を擦りながら声を上げる。
「便利だな。あたしもそうするか」
『ヤメテオケ。キュウナ、ニクタイカイゾウハ、ホシニモエイキョウスル』
「そうなのか?」
『ソウダ』
力を使いなにかに擬態するとかであれば構わないが、ご自身の身体を弄るのはお薦めできないそうである。作りだした星と創星神さまは一体のようなもののため、能力や見た目に変化があれば星にも影響を受けるということらしい。
こんな重要なことを安易に聞いても良いのだろうか。不安になるも、私は創星神さま方に場所を食事を提供するだけである。今回を乗り切れば、協力してくれた屋敷の方たちと方々からきてくれた方を招待して慰労会と銘打った集まりを開こう。私は美味しいご飯が食べられるし、他の方たちも羽目を外し過ぎない程度に食事と雑談に興じて欲しい。
「ナイ。顔が緩くなってる」
「十中八九、ナイは食い物のこと考えてるんだろ。放っといてやれ、姉御。それにな、美味しい物に有りつけるかもしれないぞ」
ヴァルトルーデさまとジルケさまが私のことに言及しているけれど、朝ご飯を済ませようと焼き鮭に箸を入れる。ほろりと崩れた身の中には骨があるから気を付けて……お醤油はほんの少し。解した身を優しく箸で持ち上げて自分の口へ運んだ。保存の兼ね合いで塩味が強いけれど、鮭自体の味も感じられる。
「そうだと嬉しい」
「だなあ」
「てめーら、本当に食い物の話ばかりしてんな。そんなに良いのかよ?」
ヴァルトルーデさまとジルケさまの話にどこぞの創星神さまが加わっていた。少しづつ打ち解けているのか、会話の流れが自然になっている。私はどこぞの創星神さまの疑問に答えるべく、鮭を嚥下して頷いた。ご飯は美味しいし、仲の良い人たちと食べるのは楽しいのだから。それに飢えを味わっているために、他の人より私はご飯に対する執着心が強い。同じ孤児だったジークとリンとサフィールとクレイルよりも私はご飯に対するものが酷いから、元々の気質とかあるのかもしれないが。
お腹がぐうと鳴ればご飯が恋しくなるのは当然だ。時間がくればご飯が出てくる環境は凄く有難い。恵まれた環境で過ごしていると感謝をするものの、流石にいろいろと私の周りで事件が起こり過ぎだけれど。
「同じタイミングで思いっきり首を縦に振るんじゃねえ!」
どこぞの創星神さまのツッコミが炸裂して、七色の創星神さまが『驚いた』と身体をぽよんと揺らす。私はご飯の続きを食べようと、今度はお漬物に手を伸ばす。あ、しまった。卵焼きも作って貰えば良かったと少し後悔をしながら。




