1555:七色の創星神さま。
グイーさまに他の星の創星神さまが参られましたと伝えれば『え、もうナイの屋敷に向かったの?』という返事が戻ってきた。テラさまも一緒にいたようで、七色に光るスライムみたいな方と伝えると『相変わらず真面目ねえ』と感心していたので既知の方のようである。
神さまの島に向かって貰っても良いけれど、時間になれば私の屋敷に向かうことになるのだから、七色に光る創星神さま――(仮)は不要か――は、ご本神さまも言っているし、そのままで良いだろうと話がついた。私は特に問題ないけれど、屋敷の方たちは大変ではなかろうか。しかし、グイーさまとテラさまの決定を覆すわけにもいかず、私は食堂で七色の創星神さまを見下ろす。
「話をグイーさまとテラさまが予定を決めてしまいましたが、創星神さまは良いでしょうか?」
『サッキモイッタ、モンダイナイ』
私の声に七色の創星神さまはぷるんと身体を動かしながら答えてくれる。今度は逆に身体を動かした七色の創星神さまがぽこんと小さく凹んだ。もしかして人間の『口』に当たる部分だろうか。
『ドウシテ、ワレヲコワガッテイル? オマエハヘイキソウダ』
「創星神さまからはただならぬ圧が発せられております。それ故かと」
私の答えに七色の創星神さまはまた身体を左右に動かした。なんとなく七色の光が弱くなったような気がすると、私はエッダさんと下働きの小母さまを見る。やはり七色の創星神さまの圧は耐えられないものがあるようで、二人は顔を青く染めている。
ジークとリンとクロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちとアズとネルはどうにか心を平常に保っているようで、黙ってこちらの様子を伺っていた。すると七色の創星神さまがおもむろに身体を動かして、椅子に腰かけたままの下働きの小母さまの前に出る。
『サッキ、オドロカセタ。スマン』
「わ、わ、わわたくしこそ、失礼な態度を執ってしまい大変申し訳ありませんでした! 創星神さまとは露知らず大声を出したこと、命で償っても足りません!!」
七色の創星神さまがぺしょりと身体を伸ばせば、下働きの小母さまは慌てて椅子から降りて平伏しながら声を上げた。これは屋敷の主人として一緒に頭を下げねばならぬと私も彼女の隣に移動して平伏する。
ジークとリンの気配も感じるし、クロたちの気配とエッダさんの気配も感じるから、私と一緒に頭を下げてくれているようだ。七色の創星神さまは下働きの小母さまの行動は仕方ないことと受け止めていたようだけれど、これでどう出るのだろうか。
『シャザイ、ウケトッタ。フツウニシロ』
七色の創星神さまは私たちの謝罪を受け取ってくれ、突然現れた自身も悪いから気にするなと下働きの小母さまに伝えている。一先ず首は飛ばないと確定したと、私は下働きの小母さまとエッダさんには退室の命を下す。気の荒い神さまでなくて良かったと安堵していると、二人と入れ替わりでヴァルトルーデさまとジルケさまが食堂に顔を出した。私たちが先にいることを認めた二柱さまはこちらへと歩み寄り、七色の創星神さまを見下ろしている。
「父さんの声と母さんの声が聞こえたからきてみた」
「まさか先にこられる方がいるとは……」
ヴァルトルーデさまが普段通りに、ジルケさまが少し畏まった言葉で喋った。ジルケさまの敬語に違和感を受けつつ、七色の創星神さまは黙ったままである。膠着状態は宜しくないと私は二柱さまに七色の創星神さまを紹介しようと視線を合わせた。
「グイーさまの星よりずっとずっと遠い星を創造なされたお方だそうです」
『グイーノムスメカ。ナントナク、テラトグイーノケハイスル』
私が紹介した途端に七色の創星神さまは声を上げた。するとヴァルトルーデさまとジルケさまが膝を突き、胸に手を当てて頭を下げる。
「グイーとテラの力を授かり創造されました。西の大陸を司っております」
「同じく、父と母の力を受け創造され、南の大陸を司る見守り役の女神となります」
ヴァルトルーデさまとジルケさまが七色の創星神さまに名乗りを上げた。七色の創星神さまは身体をプルンと震わせて『ヨロシク』と声を上げ、私の下へ移動する。私は床に膝を突いたままどうしましたと問えば、ヴァルトルーデさまが『会話してる』とぼそりと零し、ジルケさまが『ナイだからなにも考えてねーだろ』と失礼極まりないことを小声で話していた。
『ヤシキ、ウロウロシテイイカ?』
「構いませんが……」
驚く方が大勢出てくるなと私は目を細めた。きっと大騒ぎになると安易に想像できてしまう。どうにか穏便に済ませることはできないだろうかとヴァルトルーデさまとジルケさまに顔を向ければ、合わせた視線を逸らされる。酷いと私が泣きたくなるのを我慢していれば、七色の創星神さまがまた一度身体の一部を凹ませる。
『オドロクコト、マナンダ。ケハイケス』
「承知しました。なにかあれば私に知らせて頂けると嬉しいです。あと我々は今から朝食を摂りますが、創星神さまはどうされますか? 同じものでよければ用意できます」
気配を消して動いてくれるなら被害を受ける方は減るだろう。とりあえず七色の創星神さまが屋敷の中をウロウロすると伝えておけば問題あるまい……多分。あと朝食をそろそろ摂る時間になっているので、一応七色の創星神さまも食べるか聞いてみる。
昼に予定しているような品は出せないけれど、遠くの星からやってきたならお腹も空いているかもしれない。創星神さまだからお腹は減らないタイプだろうかと私が右に首を傾げると、七色の創星神さまも身体の右側を凹ませる。
『ショクジ? ショクジ、ナニカシラナイ。スコシ、マテ』
七色の創星神さまがそう言って黙り込んだ。勢いで私は朝食を摂るかと聞いてみたが、スライムのような創星神さまがどう食べるのだろうかと今更疑問を抱えてしまう。
あ、失敗したかもと私が反対側に首を倒せば、ヴァルトルーデさまとジルケさまとジークとリンにみんなが少し呆れた様子を醸し出す。私は仕方ないじゃないかと言いたい気持ちを堪えて、七色の創星神さまの答えを待った。
『シラベタ。ワレノホシニ、ショクジノガイネン、ナイ』
なんだかどこぞの創星神さまの星のようだが、詳しく見るとそもそも七色の創星神さまの星では栄養を摂らなければならない生物がおらず、大気、水、草木が一兆年ほど経過しているそうである。神さまに食事の概念がないなんて驚きだ。生命はなにかを摂取しなければ生きていけないのだから。凄くゆっくりな進化なのは創星神さまの食事を必要としないことが原因であろうか。
しかし大気と水があり、草木があるなら単細胞生物とか存在していそうなものである。いるならば、そのうち魚や恐竜が現れて独自の進化を果たしそうだが……まあ、それは七色の創星神さまが決めることだと私は片眉を上げた。
「食べられない可能性もあるでしょうし、無理はなさらないでくださいね」
『ン』
短く返事をくれた七色の創星神さまはぽよんと身体を動かす。側にいたロゼさんもぽよんと身体を動かすのだが、シンクロしていて本当にきょうだいのようである。その光景を見た私が笑みを浮かべると、七色の創星神さまとロゼさんが不思議そうな雰囲気を醸し出した。
特に意味はないと私は軽く首を横に振り、机の上にある呼び鈴を鳴らして一食分増やして欲しいと頼んで、クレイグとサフィールは創星神さま方と一緒に朝ご飯を摂るか聞いてきて欲しいとお願いした。噂をしていたからなのか、どこぞの創星神さまも食堂に顔を出す。食べる量は本当に少ないけれど、ご飯の時間になればダルそうにしながら顔を出してくれていた。
「食べにきてやったぞ。って、なんだコイツ!? あん? あたしと同類か。なんだよ、その見てくれは」
どこぞの創星神さまは腰を折りながら、七色の創星神さまを見下ろし懐疑な顔をありありと浮かべる。七色の創星神さまの見た目がロゼさんだからか、どこぞの創星神さまは鼻で笑って身体を起こした。
すると七色の創星神さまの光が強くなり、ぷうと身体を膨らませる。ロゼさんと行動が似ているためか怒ったかと私は直ぐに理解した。私が魔力を練ると腰元のヘルメスさんが『ああん! マスターの魔力がぁ!』と声を上げるも、きちんと制御を担ってくれるあたり頼りになる錫杖さんだ。私は四節の魔術詠唱を紡ぎ、七色の創星神さまとどこぞの創星神さまとの間に障壁――視認しづらいもの――を展開させた。ちゃっかりヴァルトルーデさまとジルケさまも私が張った障壁の内側にいるのは何故だろう。
『タイド、オウヘイ』
ぼそりと言葉を紡いだ七色の創星神さまの上から黒い稲光がどこぞの創星神さまに向かって落ちる。
「にぎゃあ!!」
どうやって喉から出たのか不思議になる声をどこぞの創星神さまは上げれば、真っ黒焦げになっていた。ただ回復力が早いようで、どこぞの創星神さまは直ぐに元の姿に戻る。ホラーな光景を長く見ずに済んで良かったと私はほっと息を吐く。
「……ご飯前」
「姉御、見なかったことにしろ。記憶を一瞬だけ消せ。創星神が黒焦げになるって前代未聞だぞ」
凄く神妙な顔をしたヴァルトルーデさまは先程の光景が良いものではないと言いたいようで、ジルケさまは姉神さまに記憶を失くすようにと伝えている。たしかに創星神さまが黒焦げになることなどあり得まい……いや、目の前で起きたのだからあり得ているけれど……。
私たちも凄く怪訝な顔をしていることに気付いたジルケさまが『ナイたちも記憶消すか? 良いもんじゃねえし、あたしが消してやるぞ』と少し迷惑そうな顔で伝えてくれる。
私はある程度慣れているので大丈夫と感謝と共にジルケさまはと告げれば、ジークとリンも問題ないようだ。私たちは少なからず耐性があるけれど、屋敷の方たちが見なくて良かった。もし屋敷の方で今のような光景を見た方がいればお願いできますか、とジルケさまに進言すれば了承を得られた。どうやらヴァルトルーデさまも協力してくれるとのこと。
「いってえなあ! なにすんだよ! いきなり!!」
『シツレイナコト、スグニクチニスル。ヨクナイ。テラモオマエノコト、ソウイッテタ』
どこぞの創星神さまが鼻を鳴らし腕を組む。そして七色の創星神さまはぽよんと身体を揺らして私の方に近づいた。
『メイワクカケタ。ケド、キョウイクトシツケガヒツヨウ』
「私たちや屋敷に被害がなければ問題視しませんので、あまりお気になさらず」
私に七色の創星神さまが『ナルホド、リカイシタ』と声を上げる。七色の創星神さまの声を聞いたどこぞの創星神さまは目を丸く見開いて、私の方を見た。
「ちょっと待てよ! 理不尽に攻撃を受けたのはあたしだぞ! ソイツを責めろよ!!」
フシャーと猫が逆毛を立てるように怒るどこぞの創星神さまだが、どうにも迫力を感じられない。私はご飯にしようかとジークとリンとみんなに言い、七色の創星神さまにもご飯にしましょうと告げる。しかし騒がしい朝ご飯になりそうだなあと、私は窓の外を見るのだった。




