1554:第一号。
創星神さま方の集まる当日となった。
早朝。ベッドの中でもう直ぐ起きなければなあという意識を持ちつつも、お布団の中の温かさに私はなかなか抜け出せずにいた。起きる時間までもう少しあるからゆっくりしていようと少し息を深く吐く。
今日はグイーさまとテラさまに他の創星神さま方が屋敷に集まるという大イベントが催されるため寝坊は許されない。まあ、どこぞの創星神さまの教育のために開かれるものだから、私はお接待の指揮を粛々と取るだけ。暇だろうから寝落ちしないようにしなければならないため、ギリギリまで寝ていようと今度は息を吸ったその時だった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」
というけたたましい声が屋敷の中に響いて、私はベッドから飛び起きた。一体何事かとベッドから降りれば、クロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんに毛玉ちゃんたちも声で目が覚めたのか、顔を起こしてきょろきょろと部屋を見渡している。私は羽織を取って外に出れば、ジークとリンが廊下を駆けてこちらへと向かってくる。そっくり兄妹は既に起きていたのか寝間着から平服に着替えていた。
「ナイ!」
「ナイ、大丈夫?」
勢い良く立ち止まったそっくり兄妹は私の顔を見て安堵の息を吐いている。心配性だけれど、いつもなにかあればこうして駆けつけてきてくれる。本当に有難いと私はゆっくりと首を横に振る。
「私はなにもないよ。ジークとリン、悲鳴の出どころは分かる? クロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも分からないかな?」
私が悲鳴を上げたわけではないけれど、ジークとリンは念のために確認したのだろう。そっくり兄妹は安堵の息を吐いたあと、『階下からだと思う』『多分、そう』と告げる。クロとヴァナルと雪さんたちも『おそらく』と言っているので、屋敷の一階での出来事であるようだ。それならば早く下の階へ様子を見に行こうと私は告げ、ジークとリンは後ろに控えてくれた。急ぎ足で廊下を歩いて階段を降りる。けたたましい声だったため、他の方たちも様子を伺いに部屋の外へと出ていた。
私を見て『ご当主さま。なにがあったのでしょう?』と声を掛けてくれる方もいれば、不安そうにしている方もいる。早くなにが起こったのか調べなければと、私は声の元を探るべく片っ端からどこから声が聞こえたかと皆さまに問うた。
聞き込めば一階の食堂ではないかという声が一番多い。私はジークとリンに食堂に言ってみようと伝えて、身体を方向転換させた。そうしてまた足早に食堂へと向かえば、下働きの小母さまが床にへたり込んでいる姿が目に映る。
一点を見つめた下働きの小母さまの側にはモップが転がっていた。あと二時間ほどすれば私たちの朝食の時間となるため、下働きの小母さまは掃除の仕事に従事してくれていたのだろう。私が彼女の下へと駆けつけて腰を屈めると、下働きの小母さまと視線が合った。こちらに意識が向いて良かったと私は息を吐いて、状況を聞くべく口を開く。
「大丈夫ですか!?」
先ずはなにより彼女の安全だろう。下働きの小母さまの顔色が悪いから、悲鳴を上げた際になにかあったようである。私の声にごくりと息を呑んだ下働きの小母さまは嚥下しづらそうだった。
「ご、ごごごごごご、ご当主さま……わ、私は夢でも見ていたのでしょうか……?」
絞り出すような声で目の前の彼女は不思議な言葉を吐く。起きているのだから夢は見られないが、夢と勘違いしたいようなことが彼女の身に降りかかったとでも言うのだろうか。
胸の位置に片手を当てている下働きの小母さまを落ち着かせるのが先かもしれないと、私は立ちあがり手を伸ばす。ジークとリンは食堂をきょろきょろ見渡して警戒しているものの、なにも見つけられないようである。クロとヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちも分からないようだ。もしかすると妖精さんが彼女を驚かせたのだろうか。もしそうであるなら、創星神さまが集まるという日になにをしているのやらと私は呆れてしまいそうになる。
「一体なにがあったのですか? 一先ず、立ち上がって椅子に座りましょう。あとお茶を用意して貰いますね」
私が伸ばした手を下働きの小母さまはそっと重ねて床から立ち上がる。私はリンに『誰かにお茶の用意をお願いして』と告げたあと、下働きの小母さまと一緒に部屋の隅に置いてある椅子に向かってゆっくりと歩いて、どうぞお座りくださいと告げると下働きの小母さまが眉を八の字にさせた。
「大変申し訳ありません、ご当主さま!」
下働きの小母さまが椅子に腰を掛けたまま深く頭を下げた。あまり気にしないで欲しいけれど、対外的に謝ったという証拠は欲しいから有難い。そして平身低頭な彼女に私は苦笑いになりながら再度口を開く。
「気になさらないでください。起きたことを話せそうですか?」
私の声に下働きの小母さまが何度も息を吸って吐いてを繰り返す。彼女は状況を整理しているか、心を落ち着かせているのだろうと私は話してくれるのを待った。しばらくして。
「七色に光る、ネバネバした物が……床を這っていたことに気付かず、掃除用具で触れてしまいました。手に伝わる感触に驚いて私が悲鳴を上げると、七色に光る物はどこかに消えてしまったのです」
信じてくださいますか、ご当主さま? と下働きの小母さまが続けて口にする。信じるもなにも嘘を吐くような状況ではないだろう。今日という一大イベントの日に虚言を吐いたとなれば、首どころか命が飛んでいきそうなのだから。
目の前の彼女も理解しているだろうし、他の屋敷の皆さまも重々承知しているはずだ。私が深く一度頷けば、下働きの小母さまが小さく息を吐いていた。丁度、リンが戻ってきて一緒にエッダさんもきてくれている。エッダさんはワゴンを引いており、その上には温かいお茶と冷たいお茶が乗っていた。
「七色に光る物体ですか……ロゼさんぽい?」
私はリンとエッダさんになにが起こったのか伝えるべく、下働きの小母さまの話を端的に反芻した。するとロゼさんがひゅばっと私の影から飛び出てくる。しかし七色に光るネバネバした物ってなんだろうか。
間違えて納豆を床にぶちまけたならば残骸が必ず残っているはず。ロゼさんは七色に光ろうとすればできるかもしれないが、おそらく食堂ではやらないはずだ。ロゼさんは真ん丸ボディーをぷるんと揺らして、私をじっと見つめている……気がする。
『ロゼじゃないよ。ロゼ、マスターの側にいたもん!』
「だよね。じゃあ誰だろう?」
私たちがやり取りをしている間にエッダさんは下働きの小母さまにお茶を渡してくれていた。温かいお茶を受け取った下働きの小母さまはゆっくりとティーカップに口を付けている。これで一心地就くと良いのだが。私が下働きの小母さまとエッダさんからロゼさんへ視線を変えれば、スライムボディーがまた揺れた。
『わからない。気配みつからない』
「創星神さまが集まる日に……」
ロゼさんも気配は分からないようだ。私は創星神さまが集まる日になんてことだと頭を抱えそうになる。まあ、創星神さまが集まればなにが起こっても吹き飛ばしてくれるだろうが、歓待しなければならない身である以上、警備面には凄く気を配らなければならない。
この話が漏れれば『創星神さま方がもし危ない目に合ったらどうするのだ!?』と言いそうな方はどこかの大陸にいるはず。困ったなあという雰囲気が漂えば、ふっと空気が凍るような感じを受けた。するとジークとリンが私の前に立って覇気を醸し出し、下働きの小母さまとエッダさんはなになにと困惑し始めている。冷たい空気と共に変な感じを受ければ、床にぬるっとなにかが現れた。
『マチガエテ、ハヤク、グイーノホシニキタ。オドロカセタ、ワルカッタ』
「ひいっ!?」
『ナニモシナイ。ヘイキ』
な、んと言えば良いのだろうか。七色に光るロゼさん(仮)が床にちょこんと現れて言葉を紡いでいる。ロゼさんは『変なのがきた!』と警戒心をMAⅩになっている。クロとヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちに、ジークとリンの肩の上にいるアズとネルも気を張っていた。
とりあえず敵意はないようで話はできている。それに『グイー』と七色に光るロゼさん(仮)が告げていたので、創星神さまの可能性が出てきた。下働きの小母さまとエッダさんはカチコチに固まって動けないようである。二人には少し申し訳ないけれど、創星神さま(仮)と話をさせて頂くため床に膝を突けた。
「お話を伺うに、どこかの星の創星神さまでしょうか?」
『ソウ。グイーノホシカラズットズットトオイホシ、ツクッタ』
私の声に創星神さま(仮)が答えてくれる。心なしか七色に光る身体が更に発光しているような。それを見たロゼさんは複雑な心境なのか、身体をぷくーと膨らませている。
私の腰元のヘルメスさんは『創星神さまなのでございましょうか? その割には力が弱いような……』とぼやいていた。たしかにグイーさまとテラさまとどこぞの創星神さまのようなオーラはない。なんと言えば良いだろう。身体は七色に光っているが、元気がないというか。発光しているイカが最後のあがきと言わんばかりに光っている感じに似ているというか。
「お昼前にグイーさまとテラさまが屋敷にきて、他の方も順次こちらにくると伺っていたのですが……」
私は流石に『どうしていらっしゃるのですか?』とは聞けず黙り込む。すると創星神さま(仮)は身体をぐにゃりと歪ませた。七色に光りながら。
『グイー、テキトウ。ネンノタメ、ハヤクキタ』
創星神さま(仮)がぴしゃりと言い切る。他の創星神さまにまでグイーさまはテキトウだと言われてしまっている。私が住んでいる星の創星神さまが適当で良いのだろうかという思いは、今はどこかに置いておこう。とりあえず屋敷でこのまま時間まで待つか、グイーさまの下へ向かうのか創星神さま(仮)に聞いてみなければ。
「グイーさまの屋敷はここより更に北の位置にあります。今から向かわれますか?」
『ジカンマデココデスゴス。モンダイナイ?』
私の疑問に創星神さま(仮)が答えてくれる。一先ず、グイーさまの下に向かって欲しかったけれど、屋敷で過ごすと仰るならば追い出すことはできないだろう。とはいえ。
「構いませんが……あの、大変申し訳ないのですが、今から準備に取り掛かるために屋敷の者たちの手が空いておりません」
今から屋敷は上を下への大騒ぎになるはずだ。騒々しいことこの上ないのだが、創星神さま(仮)は平気だろうか。この辺りも私は伝えれば、創星神さま(仮)は考える素振りを見せる。
『ダイジョウブ。ココ、オモシロソウ』
創星神さま(仮)がへらりと笑ったような気がしてならない。とりあえずグイーさまに先客がきたことを伝えることの許可を私は乞う。
『ワカッタ。グイーニ、オクレルナトツタエテ』
「承知しました」
こんな簡単に創星神さま(仮)を屋敷に迎え入れても良いのかなと疑問に思いつつ、私は魔力を練ってグイーさまを呼び出すのだった。あ、エッダさんと下働きの小母さまが『ひい!』と声を漏らして涙目になってる。いけない、いけない。




