1548:どこぞの創星神さまの取り扱い。
どこぞの創星神さまをお預かりして一夜明けた。部屋を用意するなり『寝る』と告げて床の上で寝始めるものだから、屋敷の皆さまが驚いていた。私がベッドの上で寝て下さいとお願いすれば、何故とどこぞの創星神さはは問うてくる。
寝る場所であり、床に寝ると翌朝は身体がバキバキになって痛くなるからですと言えば、なるほどなと頷いてベッドに上がってごろりと転がった。どこぞの創星神さまは掛布団の概念もないようで、そのまま寝転ぶものだから頭を抱えてしまう。
風邪を引くからと私が口にすれば、どこぞの創星神さまは『カゼってなんだ?』と首を傾げる。病気の一種ですと伝えれば、病気は理解できるようだった。創星神さまなので風邪は引かないけれど、見ているこちらが寒くなるとも伝えると大人しく掛布団を被ってくれる。
悪い方ではないのは分かるけれど、圧倒的知識不足のような気がしてならない。どこぞの創星神さまは星を一気に進化させたためなのか、いろいろと感性が抜け落ちているのではないだろうか。
そうして陽が昇り朝食を摂ろうと私がどこぞの創星神さまを誘えば『腹は満たされている』と告げて、二度寝に入った。まあ、お腹が空けば起きてくるだろうと、料理長さまにお願いしてどこぞの創星神さまの食事は取っておいて貰ったものの、結局口にすることはなく。
お昼前にはどこぞの創星神さまが私の執務室に顔を出し『暇だ』と訴える。私はどうしたものかと考えて、一先ず庭に出てみようと提案してみた。どこぞの創星神さまは不思議そうな顔で席から立ちあがった私の後ろをトコトコとついてきている。身長差があるためか、どこぞの創星神さまは私より歩くのが遅い。いつもなら歩くのが一番遅いのは私のため、凄く新鮮だと感動を覚えてしまった
廊下を歩いて庭に出る扉を開く。するとそこにはルカとジアがこちらを不思議そうに見ていた。偶然だねと私が声を掛けると、ルカが嘶いてジアが煩いと言いたげな顔になった。
どこぞの創星神さまはルカの大きな声に耳を塞ぎながら耐えている。そこまでしなくても良さそうだが、慣れていなければルカの嘶きは煩いようだ。嘶きを上げたルカは満足してゆっくりと私たちの方へと歩いてくる。ジアも一緒だから、なんだかんだと言って仲の良い兄妹だろう。
ルカとジアがどこぞの創星神さまを見下ろして『どなた?』と言いたげに顔を横に向ける。するとどこぞの創星神さまも顔を横にして口を開いた。
「なあ、ナイ。なんだ、コイツら?」
「天馬のルカとジアです。屋敷で過ごしていますから、庭に出ると良く顔を会わせますよ。ね、ルカ、ジア」
どこぞの創星神さまは顔を倒したままで、ルカとジアをじっと見つめている。何故かルカとジアも顔を横にしたままで動こうとしない。私の説明が不十分なのだろうかと不安になっていれば、どこぞの創星神さまが顔を元の位置に戻した。
「テンマってなんだ?」
どこぞの創星神さまはルカとジアの名前は認識してくれたものの、天馬という存在について全く知らないようである。
「難しい質問ですね。翼が生えた馬と説明するのが一番早い気がします」
「ウマがわからねえ……」
私の説明にどこぞの創星神さまが渋い顔を浮かべた。私は釣られて苦笑いをしてしまう。肩の上に乗っているクロは『しばらく質問攻めかなあ』と呑気に声を上げていた。近くにいるヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは陽の光を浴びて目を細めていた。放っておけば毛玉ちゃんたちと日光浴を始めそうである。まあ、そうなったらそうなったでヴァナルたちは自由にしてていいだろう。一先ず、馬の説明をどうしたものかと私は考える。
「実物を見て頂いく方が早いでしょうね。厩に向かいましょう。臭い、平気ですか?」
私は厩の方を指差してどこぞの創星神さまを見下ろした。少しだけれど誰かを見下ろしていることが新鮮で。ユーリは幼いから私より小さいのは当然である。でもテオに背を抜かれ、アンファンに背を抜かれてしまった今、私が見下ろせる方は凄く限られる。
そりゃ領地に出て子供たちに囲まれれば視線を下げるだろうが、屋敷の中と限定すればどこぞの創星神さまくらいではないだろうか。ジルケさまは私とどっこいどっこい。どんぐりの背比べ状態である。まあ、そんなことはどうでも良いとして……どこぞの創星神さまは生き物の臭いに耐えられるだろうか。
「臭うのか?」
「そりゃ、生き物ですから」
またどこぞの創星神さまがこてんと首を傾げる。五歳児くらいの背格好であるものの、神さま故か顔立ちは怖いくらいに整っている。ロリコンの人がいれば一発で昇天しそうだなあと私が目を細めると、どこぞの創星神さまはスンスンと鼻を鳴らした。
「でも、お前は臭くないぞ」
「お風呂に入ってますからね」
私は毎日お風呂に入っているのに、臭うと誰かに言われた日には部屋に引き籠もってしまうかもしれない。もしくは誰かにお願いして消臭剤を作って貰うかだろう。
失礼なことを言ったどこぞの創星神さまは『ウマってやつを見に行くんだろ? 行こうぜ』と私が指を指した方向に身体を向けた。失礼なことを言ったどこぞの創星神さまだけれど、悪気はないのだろうと私は苦笑いを浮かべて一緒に歩を進める。
「たしかに変な臭いがするんだな」
「そうですね」
厩に近づけば独特な臭いが鼻をくすぐった。慣れると臭いは気にならなくなるものの、慣れるまで少しばかり時間を要する。厩番の方が思いっきり頭を下げた姿を見て、私は中を見学させて欲しいとお願いする。厩番の方は構わないけれど本当に良いのですかと言いたげな顔をしながら厩の扉を開いてくれた。各馬房にいる馬車引きの馬の方たちと天馬さま方がぬっと顔を出す。
「お邪魔するね」
私の声に馬房にいる馬さんと天馬さま方が鼻を鳴らす。
『聖女さま、如何なさいました?』
「エル。ちょっと天馬さまの説明を創星神さまにしようとしたんだけれど……馬が分からないって仰るから、それなら馬を見て貰った方が早いってなったんだ。だからお邪魔するね」
ぬっと顔を出したエルの横からジョセも顔を出す。するとエルとジョセの仔まで顔を出して、どこぞの創星神さまを見つめていた。興味深そうにどこぞの創星神さまはエルたちを見つめ、また首を傾げる。
「なんでコイツは小さいんだ?」
あんと言いそうな勢いで目を顰めている。目が悪いというよりは不思議な物を見て理解できないからだろう。私が肩を竦めると、どこぞの創星神さまはなんだと顔を見上げる。
「生まれて日が浅いですから。日が経てば彼らのように大きくなりますよ。たくさん食べて遊んで寝ていれば、きっと」
ね、とエルとジョセの仔馬に私が視線を送るとまだ細い前脚で床に敷き詰めた藁をカキカキしていた。まだルカとジアのように人間の言葉を完璧に理解できていないらしいから、私がなにか言っているなあくらいに仔馬は捉えているに違いない。
エルとジョセは創星神さまと私の前で失礼な態度を執っては駄目だと教えているようだけれど、エルとジョセの仔は不思議そうに顔を傾げている。どこぞの創星神さまも私もエルとジョセの仔に対して怒ってはいない。むしろ、どこぞの創星神さまは仔馬と成獣であるエルとジョセを交互に視線を向けながら言葉を紡ぐ。
「あたしも早くデカくなりてえんだがな。他の創星神たちに見下ろされるのは癪だ」
私も背が低いから見下ろされるばかりだと、何故か嫌な気分になるのは理解できる。とはいえジークやリンにクレイグにサフィールと仲良くなった皆さまに見下ろされるのは『まあ良いか』とは思える。だからどこぞの創星神さまにも見下ろされてもムカつかない方ができると良いのだが。とはいえ星を創り給うた神さまである。
「凄く時間が掛かりそうですね……」
本当に果てしない気がするのは何故だろう。もしくはジルケさまのように背が伸びない可能性もあるのではなかろうか。そしてテラさまのようにグラマラスにならない可能性もある。運命って時々残酷だと唸っていれば、妙な表情になったどこぞの創星神さまが私を見ていた。
「お前の凄くは、あたちのちょっとかもしれねーけどな」
どこぞの創星神さまがふっと笑う。たしかに神さま方にとって私たち人間が生きている時間は凄く短いのだろう。一瞬過ぎて、テラさまとグイーさまにヴァルトルーデさまとジルケさまとナターリエさまとエーリカさまは私たちのことを覚えていてくれるだろうか。時折、そういえばいたなあと思い出してくれるだけでも嬉しいけれど……まあ人間の詮無い願いなんて届く訳はないし、覚えていて欲しいと願うことも傲慢なのかもしれない。
「たしかにウマには翼がねえのな。あとオーラが違うか……しかも喋っているヤツがいる」
「エルとジョセは長く生きて、人間の言葉を理解できるようになったらいつの間にか喋れたみたいです」
どこぞの創星神さまが腕を組んでうんうん唸っている。私はその姿を見ながら苦笑いを浮かべていると、クロがどやと胸を張った。
『出会った頃が懐かしいねえ』
なんだろうと私がクロに顔を向けると、エルとジョセと出会った頃を思い出したらしい。エルとジョセに出会った頃は名前もなくて、天馬さまと呼んでいたなと私も懐かしい気持ちになる。
『あの頃はお手間を掛けてしまいもうしわけありませんでした』
『ええ、本当に』
頭を下げたエルとジョセにクロと私は『気にしないで』と伝えていれば、どこぞの創星神さまが『あん?』と声を上げた。その刹那、私の首筋になにかを感じる。今の感覚はと厩の天井を見上げた時だった。
――ナイ。ちょいと話がある!
唐突にグイーさまの声が聞こえた。どうやら周囲にも聞こえるようにしているのか、エルとジョセにどこぞの創星神さまやクロたちに一緒にきてくれていたジークとリンの耳にも届いているようだ。
「どうしましたか、グイーさま」
私が声を上げるとグイーさまが咳払いを一つ打った。そうして。
――神の島で創星神が集まると言っていたが、ナイの屋敷でやらないか? となってなあ。構わんかの?
凄く軽い調子で言ってのけるグイーさまである。仮に屋敷で行うとして、どれほどの創星神さまが集まるのか、どういうものを用意すれば良いのかとか、そもそも開催日はいつかとか打ち合わせなどがある。その辺り、グイーさまは気付いているのだろうかと私は天上を見上げながら言葉を続ける。
「よくないですよ……と言いたいですが、断れないですよね。確実に」
どこぞの創星神さまは『ここでやんのか。ま、どこでもいいけどよ』と呆れ顔になっていた。創星神さまからどこぞの創星神さまが教育的指導を受ける予定なのに呑気なものである。
――悪いんだが、頼んで良いか?
少しばかり申し訳なさそうなグイーさまなので、もしかすると屋敷でやろうとなった理由があるのだろうか。とりあえずアストライアー侯爵邸で教育的指導会が開かれるのが決定したようだ。
「承知しました。では日時と参加する神さまの柱数と用意すべきものを教えてください」
私がそう告げるとグイーさまが分かったと告げ、使いの者をやると言った直ぐあとにナターリエさまとエーリカさまが厩に顕現するのだった。いきなりだなあ。




