↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/11

3

翌朝、ユートはいつもより早く目を覚ました。


 窓の外はまだ暗い。


 昨日の夜に見たステータスが頭から離れなかった。


【努力行動を検知しました】


【継続回数――一〇〇〇】


【記録を開始します】


 そして最後に現れた、【???】という文字。


 あれが何なのかは分からない。


 ただ一つだけ確かなことがある。


 昨日まで存在しなかったものが、昨日から見えるようになった。


「……確認してみよう」


 ユートはベッドから起き上がった。


 いつものように木剣を手にする。


 そして構えた。


 昨日までは、千回振ることだけを考えていた。


 今日は違う。


 自分が何をすると、ステータスに何が起こるのかを確かめる。


 それが今日の目的だった。


「まずは、昨日と同じ」


 一回。


 二回。


 三回。


 木剣を振るたびに、昨日の自分を思い出す。


 ゴブリンと戦ったとき、自分は何もできなかった。


 攻撃を避けることもできなかった。


 相手との距離を測ることもできなかった。


 ただ必死に剣を振り続けて、偶然当たった一撃で勝っただけだ。


 だからこそ、今は分かる。


 自分はまだ弱い。


 昨日ゴブリンを倒せたからといって、強くなったわけではない。


 ただ、一度だけ勝てた。


 それだけだ。


 九百九十七。


 九百九十八。


 九百九十九。


「千」


 最後の一振りを終える。


 汗を拭い、すぐにステータスを開いた。


【名前】ユート・アルヴェイン

【年齢】15

【職業】なし

【レベル】1

【経験値】18/100


【HP】11.2

【MP】6.1


【筋力】4.70

【体力】5.01

【敏捷】5.40

【知力】6.80

【精神】6.30


【剣術】Lv.1

【走術】Lv.1

【魔力操作】Lv.0

【気配察知】Lv.0


【称号】なし


【???】


 何も変わっていない。


「……」


 ユートはしばらく黙ってステータスを見つめた。


 昨日は千回振ったことで何かが起きた。


 今日も千回振った。


 それなのに、何も起きない。


 ならば、昨日の表示は千回という回数だけが原因ではないのかもしれない。


 ユートはノートを開いた。


 昨日までの記録を見返す。


『木剣一〇〇〇回』


『五キロ走』


『薬草十本』


『ゴブリン一体』


 昨日の夜に経験値が17から18になった。


 しかし、木剣を振った直後ではない。


 薬草を採ったあとでもない。


 家に戻ってからだった。


「……時間?」


 ユートは首を傾げた。


 そもそも、経験値とは何なのだろう。


 魔物を倒せば増える。


 それは昨日分かった。


 だが、魔物を倒していないのに増えた。


 それなら経験値というものは、魔物を倒すことだけで得られるものではない可能性がある。


 ユートは新しいページを開いた。


『分からないこと』


 その下に書く。


『①経験値は何で増える?』


『②努力行動とは何か?』


『③継続回数一〇〇〇とは何を意味する?』


『④【???】は何なのか?』


 そして最後に一つ。


『⑤昨日と今日で何が違う?』


 ユートはペンを止めた。


 答えはすぐには出ない。


 だから今日は、できるだけ条件を揃えてみることにした。


 朝食を食べたあと、ユートは昨日と同じ五キロを走った。


 速度もできるだけ昨日と同じにする。


 道も同じ。


 走る距離も同じ。


 途中で休憩はしない。


 そして走り終わったあと、すぐにステータスを確認する。


【体力】5.01


 やはり変わらない。


 ユートはノートに書き込んだ。


『五キロ走っても体力は変化しない』


 次に、いつもの道から少し外れた。


 昨日のゴブリンとの戦いで、自分には足りないものがあると分かったからだ。


 剣術だけではない。


 足の動かし方も必要だ。


 そこでユートは、木剣を持って走りながら方向を変える練習を始めた。


 右へ。


 左へ。


 前へ。


 後ろへ。


 最初は何度も足がもつれた。


 身体が思った通りに動かない。


「くっ……」


 転びそうになりながらも、ユートは続けた。


 十回。


 二十回。


 三十回。


 百回。


 同じ動きを繰り返す。


 ただし、千回まではやらなかった。


 今日は別のことを試したかった。


 身体が疲れてきたところで、ユートは動きを止める。


 ステータスを開いた。


【敏捷】5.40


 変化なし。


「やっぱり簡単には上がらないか」


 少しだけ残念だった。


 けれど、不思議と嫌ではなかった。


 数字が上がらなくても、自分の身体が少しだけ動かしやすくなっているのは分かる。


 ステータスに現れない変化もある。


 それなら、数字だけを追いかけるのは違うのかもしれない。


 そう考えたときだった。


 草むらから音がした。


 ユートは反射的に木剣を構えた。


 昨日までなら、音がしただけで慌てていたかもしれない。


 だが今日は違った。


 呼吸を止めない。


 足を開く。


 相手が出てくる方向を見る。


 しばらく待つ。


 ガサッ。


 草が揺れた。


「……!」


 ユートは木剣を握り直した。


 草むらから飛び出してきたのは――。


「……兎?」


 小さな茶色の兎だった。


 ユートと目が合う。


 そして何事もなかったかのように、そのまま反対側へ走っていった。


「……びっくりした」


 ユートはその場に座り込んだ。


 心臓がまだ速い。


 けれど、さっき自分が取った行動を思い返す。


 音がした。


 構えた。


 相手を確認した。


 攻撃しなかった。


 昨日の自分なら、もっと早く剣を振っていたかもしれない。


 小さな変化だった。


 でも、昨日より一つだけできることが増えている。


 ユートはノートを取り出した。


『音がしたとき、すぐに攻撃しなかった』


 そこまで書いて、少し笑う。


「これも成長なのかな」


 誰かに聞いても、きっと答えは分からない。


 だから自分で確かめるしかない。


 その後、ユートは冒険者ギルドへ向かった。


 今日は依頼を受ける前に、ミレイに一つ質問をした。


「ミレイさん」


「はい?」


「冒険者のレベルって、魔物を倒さないと上がらないんですか?」


 ミレイは少し考えた。


「基本的には魔物を倒したり、危険な依頼を達成したりすると経験を得てレベルが上がります。ただ、細かい仕組みについては私にも分かりません」


「そうなんですか」


「そもそも、どうしてレベルやステータスが存在するのかという話になると、研究者でも意見が分かれていますから」


「研究者……」


「はい。王都にはステータスについて研究している人たちもいますよ」


 ユートはその言葉を覚えておくことにした。


 王都。


 今の自分には遠い場所だ。


 けれど、いつか行くかもしれない。


 父が残した本にも、王都を通った記録があった。


 そして父は東の果てへ向かった。


 ユートは少しだけ父のことを思い出した。


 アルベルト・アルヴェイン。


 自分が七歳のとき、東の果てまで行ってみると言って家を出た父。


 帰ってこなかった父。


 最後に残した本。


 その最後のページに書かれていた言葉。


『もし、この先を読む者がいるなら――東の果てへ行け』


 そして、あの奇妙な紋章。


 円の中に三本の線。


 ユートは胸元にしまっている小さな紙片を思い出した。


 父の本から写し取った紋章。


 まだ意味は分からない。


 けれど、いつか調べたいと思っている。


「……まずは強くならないと」


 ミレイが首を傾げた。


「何か言いました?」


「いえ」


 ユートは首を振った。


「今日も薬草採取を受けます」


「分かりました。ただ、昨日見つけたという足跡には気をつけてくださいね」


「はい」


 ユートは依頼書を受け取った。


 東の草原へ向かう。


 昨日と同じ場所。


 昨日と同じ薬草。


 けれど今日は、昨日より少しだけ周囲を見るようになった。


 薬草を探しながら、魔物の気配がないか確認する。


 足跡を見つけたら近づかず、周囲を観察する。


 そして十本集め終わったところで、町へ戻った。


 依頼を達成し、報酬を受け取る。


 帰宅すると夕食を食べ、身体を休めた。


 そして寝る前。


 ユートは昨日と同じようにステータスを開いた。


【名前】ユート・アルヴェイン

【年齢】15

【職業】なし

【レベル】1

【経験値】18/100


【HP】11.2

【MP】6.1


【筋力】4.70

【体力】5.01

【敏捷】5.40

【知力】6.80

【精神】6.30


【剣術】Lv.1

【走術】Lv.1

【魔力操作】Lv.0

【気配察知】Lv.0


【称号】なし


【???】


 昨日と同じ。


 だが、今日はしばらく待ってみることにした。


 一分。


 二分。


 三分。


 何も起きない。


「……やっぱり駄目か」


 ユートがステータスを閉じようとした、その瞬間だった。


【???】


 その文字が一度だけ揺れた。


 ユートは指を止める。


 文字の下に、新しい一行が浮かび上がった。


【記録:二日】


「……二日?」


 昨日の表示にはなかった。


 ユートは息を呑んだ。


 さらに数字が一つだけ変化する。


【経験値】18/100


 ――19/100


「……!」


 そして、最後に現れた文字。


【継続を確認】


 ユートはステータスを見つめたまま動けなかった。


 昨日は一〇〇〇回。


 今日は何も表示されなかった。


 それなのに、今になって経験値が増えた。


 ユートはノートを開いた。


 そして震える手で一行だけ書いた。


『努力には、何かを記録する仕組みがある』


 その下に、もう一つ書く。


『でも、何を基準にしているのかは分からない』


 ペンを置いた。


 窓の外を見る。


 夜空には無数の星が浮かんでいる。


 その中に、東の空にだけ妙に明るい星が一つあった。


 ユートは知らなかった。


 その星が、父アルベルトが最後に向かった場所と関係していることを。


 そして翌朝、ユートはまだ知らないまま、いつもの鍛錬を始めることになる。


 ――ただし、その日からステータスに現れる数字が、少しだけ変わり始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。