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砂漠の王と追放された龍の巫女  作者: 小笠原ゆか


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8/20

すれ違う気遣い

「蓮瑛様?」


呼びかけられ、蓮瑛は我に返った。

メイホアが心配そうに、耳を塞いでいた蓮瑛の手に触れる。


「お手が冷たいです。お部屋が寒かったかもしれませんね」


メイホアは寝台に畳んであった上掛けを取り、蓮瑛の肩にそっと掛けた。


「……ありがとう」


ここは龍華国ではない。そう言い聞かせるように、蓮瑛は窓の外へ目を向けた。青いオアシスと砂色の街は、まだ目に新しかった。


砦で初めて会った時、シンシャは床に伏した蓮瑛を咎めなかった。

汚れた姿を嫌悪することもなく、立ち上がるために手を差し出してくれた。王都に部屋を用意し、メイホアを世話役としてつけ、体調を気遣ってくれている。


出会ってから一度も、蓮瑛を役立たずとは呼ばなかった。


シンシャの側にいれば、もう怯えなくてもよいのかもしれない。

妃として受け入れてもらえたなら、この穏やかな日々はこれからも続いていくのかもしれない。


いつしか、そんな期待を抱くようになっていた。

シンシャに好かれたい。ここにいてほしいと、彼自身に望んでもらいたい。わがままだと分かっていたけれど、願わずにはいられなかった。


どうすれば人から好かれるのか蓮瑛は分からなかった。

美しいと褒められたことはある。けれど、その眼差しが蓮瑛自身に向けられていたとは思えない。

龍の巫女として敬われても、それは蓮瑛自身を見てくれたわけではなかった。


シンシャだけは違うのではないかと、心のどこかで願っていた。けれど、彼は王都へ戻ってから一度も会いに来ていない。本当にここにいてよいのだろうか。


「あの、メイホア……」

「はい」

「私にできることは、何かありませんか?」

「できること、でございますか?」

「はい。陛下のお役に立てることがあれば……」


メイホアは困ったように目を瞬かせた。


「今はお身体を治すことだけをお考えください。陛下からも、決して無理をさせないよう申しつかっております」

「ですが、もう部屋の中を歩くこともできます」

「長旅を終えたばかりなのですから、焦ってはいけません。蓮瑛様がお元気になられることを、陛下もお望みですよ」


優しい言葉だった。それでも、元気になった後、自分が何を求められるのかは分からないままだった。


「……分かりました」


蓮瑛はそれ以上尋ねることができなかった。



■■■



「蓮瑛殿が、私の役に立ちたいと?」


シンシャが聞き返すと、メイホアは困惑した様子で頷いた。


「はい。どのようなことでも構わないとおっしゃっていました」


蓮瑛の体調を報告させるため、メイホアを執務室へ呼んだのだが、思いがけない話だった。


「まだ働けるような身体ではないだろう。今は休むように伝えたのか?」

「もちろんです。陛下もそれを望んでいらっしゃると申し上げました。ですが……」


メイホアは言い淀み、膝の上で両手を重ねた。


「かえって不安にさせてしまったような気がいたします」


食事は以前より取れるようになり、部屋の中なら一人で歩けるまでに回復している。それでも長旅で失われた体力が、数日で戻るはずはなかった。働くことなど考えず、まずは身体を休めればよい。それほど難しい話だとは思えない。


「分かった。引き続き、無理をさせないようにしてくれ」

「承知いたしました」


一礼して、メイホアは執務室を出ていった。

扉が閉じると、それまで黙っていたランフォンが口を開いた。


「蓮瑛様は、ご自分の立場が分からずに不安なのではありませんか?」

「立場?」

「龍華国からは、陛下の妃として送り出されています。しかし王都へ来てから、陛下は一度もお会いになっていません」


シンシャは眉を寄せた。


「療養の邪魔をしないためだ」

「陛下のお考えを、蓮瑛様が知るはずもありません」


言われてみれば、その通りだった。


「それに、こちらでは客人として遇していますが、いつまで滞在してよいのかも、今後どうなるのかも、何一つお伝えしておりません」


龍華国が一方的に決めた婚姻に、蓮瑛まで従わされる必要はない。少なくとも、傷つき衰弱した状態のまま、見知らぬ男の妃になる義務などないのだ。


そのことを本人に伝えれば、余計な不安も消えるだろう。


「蓮瑛殿に会おう」


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新作短編を公開しました。

『聖女は清貧であれと言われましたが、美味しいものも素敵なものも諦めません』

おいしいものが好きな聖女と、彼女を慕う一途な騎士のお話です。ざまぁ要素もあります。
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