↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の王と追放された龍の巫女  作者: 小笠原ゆか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/16

望んだ褒賞

凱旋の儀が終わると、総大将と新たに将軍へ任じられた天曜をはじめ、主だった指揮官達が蒼天殿内へ召し出された。


殿内では、戦功を挙げた者達への褒賞が一人ずつ言い渡された。

総大将には領地と金銀が与えられ、ほかの指揮官達にも昇進や褒賞が約束される。やがて、天曜の名が呼ばれた。


天曜は再び御前へ進み出た。


「立天曜。此度の働き、まことに天晴れであった」

「ありがたきお言葉にございます」

「将軍への任官だけでは、そなたの功に十分報いたとは言えまい。他に望む褒美があれば申してみよ」


待ち望んでいた言葉だった。この日のために、天曜は一年間戦ってきた。


「畏れながら、陛下にお願い申し上げます」

「うむ。申してみよ」

「先代龍の巫女・蓮瑛を、妻として賜りたく存じます」


その名が響いた瞬間、蒼天殿は静まり返った。

天曜は顔を伏せているため、居並ぶ者達の表情を見ることはできない。それでも、先ほどまでとは異なる緊張が殿内に広がったことだけは分かった。


「蓮瑛を、だと?」


皇帝の声にも困惑が混じっている。


「はい」

「そなたは、あの娘を知っているのか?」

「二年前、龍の巫女を迎える使節の一人として、帝都までお供いたしました」


皇帝は意外そうに眉を上げ、玉座の近くに立つ雲水へ目を向けた。


「丞相。そなたは、この願いを知っていたのか」

「以前より、息子から聞いております」


雲水は平然と答えた。


「蓮瑛殿を妻として迎えたいと望むのであれば、陛下に認められるだけの功を挙げよと申しつけておりました」

「なるほど」


皇帝は小さく頷いた。


「此度の働きであれば、確かに不足はない」


天曜の胸に期待が込み上げた。


一年前、父に蓮瑛を妻として迎えたいと願い出た時、天曜はまだ一介の校尉に過ぎなかった。


丞相の息子というだけではなく、蓮瑛を守り、その生涯を引き受けるに足る男であると認めさせるため、天曜は北方へ赴いた。


ようやく、そのための功を挙げて戻ってきたのだ。


「少し遅かったな」


続けられた言葉に、不穏なものを感じた。


「遅かった、とは……?」

「蓮瑛は既に、碧砂国王へ下賜した」


一瞬、その言葉の意味を理解できなかった。


「碧砂国へ……?」

「かの国では水が不足していると聞く。晴れを願っても雨ばかり降らせる娘であれば、砂漠の国でこそ役に立つであろう」


皇帝は、自らの判断に満足しているようだった。


「蓮瑛は碧砂国王の妃として、五日前に帝都を発った」

「五日前……?」


天曜は思わず聞き返した。


「当初は半月ほど支度の時を与えるつもりであった。だが皇后が、婚姻に佳い日があると申してな。吉日を逃せば、次はひと月近く先になるという。碧砂国を待たせることもあるまいと、出立を早めさせたのだ」


天曜は雲水へ視線を向けた。父は驚いていなかった。出立が早められたことも、蓮瑛が既に帝都を離れたことも知っていたのだろう。天曜が蓮瑛を妻に望んでいたことを知りながら、一言も知らせなかったのだ。


一年間求め続けた地位を、ようやく手に入れたその日。

天曜が救おうとしていた蓮瑛は、既に帝都から姿を消していた。


「そなたは、今も蓮瑛を妻に望んでいるのか?」


皇帝から問われ、天曜は正面を向いた。


「はい。妻として迎えたいと、今も望んでおります」


迷いはなかった。

皇帝は意外そうに天曜を眺めたあと、肘掛けへ身を預けた。


「そのようにはっきり申すほど望んでいたとはな。このようなことになると分かっていれば、碧砂国などへ与えず、手元に残しておけばよかった」


天曜の表情から、わずかに温度が消えた。

皇帝にとって、蓮瑛は捨てたあとで惜しくなった宝物に過ぎないのだろう。皇宮に残された蓮瑛が、どのような扱いを受けることになるのかなど、考えてもいない。


「だが、残念だったな」


皇帝は面白がるように口元を緩めた。


「いかに朕とて、同じ女を二人の男に下賜することはできんぞ」

「承知しております」


天曜は深く頭を下げた。


「ならば、一つお願い申し上げます」

「申してみよ」

「花嫁一行を追い、蓮瑛殿に別れを告げることをお許しいただけないでしょうか」


殿内にどよめきが広がった。


「既に碧砂国王へ下賜した娘だぞ」

「陛下のご決定に異を唱えるつもりはございません。ただ、二年前からの知己として、最後に言葉を交わしたく存じます」


皇帝はしばらく天曜を見つめていたが、やがて鷹揚に頷いた。


「五日の遅れはあるが、花嫁を乗せた一行ならば進みも遅かろう。早馬を使えば追いつけるはずだ」

「では――」

「ただし、碧砂国との婚姻を妨げることは許さぬ。先方と揉め事を起こすこともだ」

「心得ております」

「よかろう。行ってくるがよい。兵部には、そなたが蓮瑛を訪ねることを許す旨の書状を用意させよう」

「ありがたき幸せにございます」


天曜は深く頭を下げた。

蓮瑛が勅命に逆らうとは思えなかった。


たとえ見知らぬ異国へ嫁ぐことが恐ろしくても、その不安を飲み込み、国のためになるのならと受け入れるだろう。周囲を心配させまいと、気丈に笑ってさえみせるかもしれない。


そういう娘だと、天曜は知っていた。

だからこそ、何も知らぬまま送り出すことはできなかった。

せめて無事を確かめたい。独りで不安を抱える必要はないと伝えたい。


もし助けを求める言葉を一言でも口にしたなら、その時は――。


天曜は、そこから先を考えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作短編を公開しました。

『聖女は清貧であれと言われましたが、美味しいものも素敵なものも諦めません』

おいしいものが好きな聖女と、彼女を慕う一途な騎士のお話です。ざまぁ要素もあります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。