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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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65:難民の受け入れ判断

朝の空気は、これまでになく凛として澄み渡っていた。

だが、正門前に立ち込める空気の密度は、昨日よりも遥かに重く、湿り気を帯びている。


「おーっと! 今朝の行列は、王都の建国祭より気合が入ってるじゃないか! 俺の鑑定眼が、あまりの情報量に嬉しい悲鳴を上げてるぜ!」


カイゼルが門の上の通路で、いつものように底抜けに明るい声を響かせた。

だが、その視線は笑っていない。列は森の奥深くまで続き、飢えと疲労に塗れた群衆が、救いを求めてこの「拠点」を凝視している。


「……ただの流民ではないな。エルダ、お前の目は何を捉えている?」


エルダが銀髪を鋭くなびかせ、灰色の瞳で列の深部を射抜く。

「……目つきが違う者が混ざっている。絶望の中にあるはずの者に、不自然なほど冷めた『観察』の視線がある。……押し込まれてきたな」


「ははっ! さすがは軍曹殿、お目が高い! マリナ、お前さんの集めた情報インテリジェンスと一致したかい?」


マリナが扇子をパチンと閉じ、不敵な笑みを浮かべる。

「ええ。周辺の領地が『厄介払い』を始めたわね。選別された役立たずと、攪乱目的の扇動者。……私たちの村を、内側から食い破らせるつもりのようよ」


「なるほど! 乗っ取るか、あるいは膨らみすぎて自滅するのを待ってるわけだ。……面白い、その挑戦、最高に陽気な『仕組み』で受けて立とうじゃないか!」


門前。

エルダが前に立ち、槍を石畳に突き立てる。その重低音一つで、騒がしかった群衆が静まり返った。

「止まれ。……ここから先は、私の許可と『主』の判断がすべてだ」


カイゼルが、珍しく一歩前に出る。その顔には、いつもの快活な笑み。だが、その声は村全体の隅々にまで響く、逃れようのない重圧を伴っていた。


「よおし、野郎ども! 遠路はるばる、この村の門を叩いた勇気に免じて、一つだけいいことを教えてやるぜ! ここは自由の楽園じゃねえ。……だが、理不尽な死もない! 働く者は俺たちが全力で守る! だがな、この村の平和を壊そうとする野郎は、一滴の情けもかけずに排除する。……それがルールだ!」


鑑定が走る。

農夫、家族持ち、真面目な職人。

「はい、合格! お前は農業班へ直行だ!」

「薬草知識あり? いいねえ、リナ先生の助手にぴったりだ! 合格!」


だが、列がピタリと止まる。

三人組の男。見た目はただの疲れた流民だが、カイゼルの目には彼らの「扇動歴」と「隠し持った暴力」が真っ赤なノイズとして映っていた。


「……不合格。お前らは回れ右だ。俺の設計図に『ノイズ』は必要ねえんだよ」


男の一人が、わざとらしく声を張り上げる。

「ひどいじゃないか! 俺たちはただ助けてほしいだけで……」


「ははっ! 嘘が下手だぜ、おじさん! その目の奥にある欲、隠しきれてねえよ。……エルダ」


「……戻れ。二度は言わん」

エルダが一歩踏み出す。それだけで、男たちは腰を抜かさんばかりに後退し、逃げるように去っていった。


「さて、ここからが本番だ! 野郎ども、今日から受け入れを『三つの箱』に分けるぜ!」


カイゼルが杖を振るい、広場に光の線を引いた。


「即戦力! 育成枠! そして――保留だ!」


マリナが面白そうに目を細める。

「あら、全部受け入れるわけじゃないけれど、完全に見捨てもしない。……絶妙な性格の悪さね、カイゼル」


「ははっ! 最高の褒め言葉だ! 即戦力はそのまま持ち場へ。育成枠は別区画で仕事を教え、監視をつける。そして保留の連中は……外縁で一定期間の『観察』だ!」


「選ばせるための猶予……か」

エルダが頷く。


「そうだ! 自分がこの村に相応しい人間かどうか、身を以て証明させる。効率的だろ?」


午後。

村はさらなる活気に満ち溢れた。

「こっちだよ!」と新入りを案内する子供たちの笑顔。

「次の方、こちらへ!」と、怪我人をテキパキと診察するリナ。

そして、「火を絶やすな! 肉を切れ!」と大鍋を回す料理人たちの怒鳴り声。


そこに漂うのは、逃げ場の沈黙ではない。

新しい「生」の始まりを祝う、暴力的なまでの熱量だ。


「……守る側に回るならな」

訓練場では、エルダが新しく入った若者たちに魔導式バレット銃を配っていた。

「これは、お前たちの弱さを埋める道具ではない。村という『仕組み』を守るための責任だ。……撃てる喜びではなく、撃たずに済む平穏を誇れ!」


夕闇が迫る頃。

村の外縁、保留区では、いくつかの不穏な影が囁き合っていた。


「……潰すか?」

エルダが静かに問う。


「ははっ! まだいい。泳がせて情報を吸い尽くしてやるのが、一番の有効活用だろ? 全部俺の監視網ネットワークの中で踊らせてやるさ!」


カイゼルは陽気に笑い飛ばしたが、その瞳には王者のような冷静な光が宿っていた。

完全な善人だけで村は作れない。だが、悪もまた、正しく管理すれば「肥やし」になる。


夜風が、新しく灯された何百もの灯りを揺らす。


「守る対象が増えたな、カイゼル」


「ああ。だがその分、俺たちの『価値』もデカくなった。マリナ、こいつを最高の利益に変えてやろうぜ!」


「ええ。この規模なら、もう周辺の領主も無視できない『勢力』ね。……楽しみだわ」


村はもう、ただの逃げ場ではない。

意志を持ち、選び、選ばれ、そして拡大し続ける巨大な生き物だ。


「ここは逃げ場じゃない。……自分たちの意志で掴み取った、新しい世界だ!」


カイゼルの声が、夜の静寂を明るく突き抜ける。

人は増え、仕組みは深化し、村は止まることなく次の「段階」へと加速し続けていた。

未来の設計図は、今また、より広大で壮麗なものへと書き換えられていく。

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