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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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64:棄民の流入

朝霧がまだ地面に白く残り、太陽がようやく重い腰を上げた頃。

見張り台の鐘が、ゆっくりと、しかし確実に三度鳴り響いた。


「おーっと、今朝の目覚ましは随分と余韻が長いじゃないか! 俺の二度寝を阻止するなんて、相当な大物のお出ましかな?」


カイゼルが広場の中央で、いつものように底抜けに明るい声を響かせた。

だが、その視線の先――村の外周、土で整えられた防衛線の向こう側には、笑い飛ばすには少しばかり重たい「現実」が横たわっていた。


人だった。


一人や二人なんてレベルじゃない。それは列になり、歩いているというよりは、押し出されるように流れてきている。痩せ細った体、泥に汚れた服。抱えた荷物はわずかで、その瞳には光が欠けていた。


「……棄民きみんだな。どこかの領主が、冬を前に『不要な口』を切り捨てた結果だ」

エルダが音もなく隣に立ち、灰色の瞳で冷徹に群衆を射抜く。

「子どもを背負う女、杖を突く老人。……武装はしていない。だが、数が多いな」


「ははっ! 王都の流行り病よりタチが悪いぜ。マリナ、お前さんの言う通り、外の世界はゴミの出し方さえ知らないらしい」


マリナが扇子を広げ、冷ややかな、しかし計算高い瞳で列を見つめる。

「ええ。情報の非対称性が生んだ悲劇ね。でも、ただの悲劇として終わらせるのは商売人の名が廃るわ。……カイゼル、この中にどれだけの『資源』が混じっているかしら?」


「任せとけ! 俺の目は節穴じゃねえからな。おスキル持ちか、ただの厄介者か……一瞬で鑑定してやるぜ!」


カイゼルの瞳に、不可視の魔導光が宿る。

一人一人の健康状態、前科、隠れた技能、そして「意志」の強さ。

情報が濁流のように流れ込んでくる。


「……なるほどな。善意の塊もいれば、どさくさに紛れて悪巧みをしてる野郎もいる。まさに『欲の闇鍋』だ!」


門前。

エルダが一歩前に出る。その圧倒的な圧力が、流れてきた群衆の足をピタリと止めた。


「止まれ。……ここから先は、私の許可なく一歩も通さん」


「ははっ! 軍曹殿のお出迎えだ、光栄に思えよ野郎ども! ――いいか、耳の穴かっぽじって聴け! この村は『来る者拒まず』の慈善団体じゃねえ! ここは――『必要な奴を選ぶ』場所だ!」


カイゼルの快活な声が、凍りついた群衆に響き渡る。


「順番に来い! 農業ができる奴、石を積める奴、あるいは俺の冗談に笑える奴! 自分の価値を証明できた奴から、温かいスープの権利をやるぜ!」


選別が始まった。


最初の男。農民。

「農業経験、中級。土の匂いを知ってる手だな。……合格! 右へ行け、そこが新しいお前の戦場だ!」


次。女と子ども。

「病気なし、裁縫が得意か。リナ先生が喜びそうだ。……合格だ、入っちまえ!」


そして、三人目。

目が泳ぎ、袖の中に刃物を隠し持った若い男。


「おっと、お前さんは不合格だ。その目は村を良くする目じゃねえ、隙を狙うハイエナの目だ。……悪いが、他所を当たってくれ」


男が逆上し、声を荒らげる。「ふざけるな! 腹が減ってるんだ、入れてくれたって――」


その言葉が終わる前に、エルダの槍の石突きが男の足元を砕いた。

「……戻れ。二度はない」

エルダの冷徹な一喝。男は腰を抜かし、這うように列の後ろへと逃げ戻った。


静まり返る群衆。

「ははっ! 次! 怖がるな、正しく生きたい奴には、俺は最高に陽気な隣人だぜ!」


時間は流れ、選別は淡々と、しかし情熱的に進んでいった。

夕方になる頃には、受け入れられた者たちが新しい居住区へと誘導されていた。


「よおし、新入りの野郎ども! 屋根がある生活は久しぶりだろ? だけどな、タダ飯は今日だけだ。明日からはお前らのその手で、この村の歯車を回してもらうからな!」


リナが怪我人の手当てに回り、料理人たちが特大の鍋で具沢山のスープを振る舞う。

「追加で煮るぞ!」「こっちにスプーンだ!」


温かいスープを啜り、涙を流す子どもたち。

「……うまい、うまいよ……」

その一言が、絶望を「希望」という名の燃料に変えていく。


夜。

村の端には、拒否された者たちが未練がましくこちらを見つめていた。


「……カイゼル、監視は付けてあるが、あいつらを放っておくのか?」

エルダが暗闇を睨む。


「ははっ! 放っておくわけねえだろ。……もう一度だけ、チャンスをやるのさ」


マリナが眉を上げる。「あら、珍しく甘いわね?」


「甘くねえよ、マリナ。これは『テスト』だ。去らずに残って、村の流儀を守れるかどうか。……選ばれるのを待つんじゃねえ、自分たちがここに相応しい人間だと『選ばせる』んだ。それを見極めてからでも遅くはねえだろ?」


夜風が吹き、新しく加わった人々の安らかな寝息が、村の鼓動に混ざり始める。


「守る範囲が広がったな、カイゼル」

エルダの言葉に、カイゼルは不敵に笑った。


「ああ! 範囲が広がれば、仕組みを強くするだけだ。そして、もっとデカいエンジンで回してやる! ここは棄てられた連中が最後に行き着く場所じゃねえ。……自らを選び、新しく生まれ変わる『始まりの拠点』なんだよ!」


灯火が揺れる中、カイゼルの陽気な笑い声が夜空に溶けていく。

人は増え、役割は重なり、村はまた一段と、誰にも壊せない「意志の集合体」へと進化していった。


「さあ、明日は新人たちにスコップの持ち方を教えてやるとするか! 未来は、俺たちの計算通りに輝いてるぜ!」

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