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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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43/120

43:加工食品開発 村人ボロボロ

朝の広場は、ある種の地獄絵図だった。

……いや、正確には「静かなる戦死者の平原」といったところか。


「……おいおい。お前ら、今日は地面の硬さを調査する役割に振り替えた覚えはねえぞ? それとも、そのまま土に還って肥料にでもなるつもりか?」


カイゼルが、いつものように底抜けに明るい声を響かせながら広場を闊歩する。

その足元には、数十人の村人たちが奇妙なポーズで固まっていた。

ある者は四つん這いのままフリーズし、ある者は生まれたての小鹿のように膝をガクガクと震わせている。


「む、無理だ……カイゼルさん……指一本動かすだけで、全身の筋肉が『やめてくれ』って悲鳴を上げてるんだ……」

「昨日……あの銀髪の鬼軍曹に……何百回、槍を突き出させられたか……」


村人たちがうめき声を漏らす。そこへ、当の「鬼軍曹」が冷徹な足音と共に現れた。

エルダ・ヴァルグレイ。朝日に輝く銀髪は神々しいまでに美しいが、その瞳には慈悲の一片も宿っていない。


「……立て。立てないなら、這ってでも持ち場へ行け。敵は『筋肉痛なので今日は休みます』という言い訳を待ってはくれないぞ」


「ひぃっ!」「エルダ様、せめてあと五分だけ……!」


「……一秒もやらん。死にたくなければ動け。働けないなら、守られる資格はない」


エルダの一喝に、村人たちが「ヒィィ」と悲鳴を上げながら、錆びついた機械のような動作で立ち上がる。

カイゼルはそれを見て、ケラケラと愉快そうに笑った。


「ははっ、いい根性だ! まぁ安心しろ、エルダ。一度ぶっ壊れた歯車は、メシをさせば前より滑らかに回るようになるもんさ。……さて、マリナ! このボロボロの労働力リソースを再起動させるための、最高にエネルギッシュな『新製品』、お披露目といこうじゃないか!」


マリナが扇子を広げ、倒れ伏す村人たちを「在庫管理」のような冷ややかな、しかし期待に満ちた目で見つめる。

「ええ。壊して、鍛えて、そして最高のご馳走で釣り上げる。……カイゼル、あなたの教育方針、本当に悪趣味だわ」


「最高の褒め言葉だぜ、商会長! さあ、野郎ども! 鼻をひくつかせろ! 今日は筋肉の修復を加速させる、極上の『加工食品』の開発会議だ!」


広場の奥、新設された加工場から、暴力的なまでに食欲をそそる香りが漂い始めた。


燻製小屋の隣では、料理人たちがカイゼルの「設計図」に従い、未知の調理に挑んでいた。

腸の中に、細かく叩いた肉と薬草、そして隠し味の香辛料を詰め込んでいく。


「カイゼルさん! これ、煮るのか? 焼くのか?」


「どっちもだ! だけどな、まずは煙を潜らせる。水分を適度に飛ばして、旨味をこの薄皮の中に閉じ込めるんだ。名付けて――村特製・鉄人ソーセージ! こいつを一口食えば、筋肉痛なんて笑い飛ばせるぜ!」


料理人が火を入れ、煙を当てる。

じりじりと脂が弾ける音が響き、香ばしい煙が広場を支配した。

さっきまで「死体」のようだった村人たちの首が、一斉に、まるでひまわりが太陽を追うように加工場へと向けられる。


「……なんだ、あの匂い」

「……食いたい。あれを食えば、動ける気がする」


リナが近づき、出来立ての一本をナイフで切り分ける。

パチンッ、という弾けるような音と共に、中から肉汁が溢れ出した。

「……美味しい! お肉の旨味が凝縮されてる。それに、この薬草の配合……疲労回復の効果が格段に上がってるわ」


「だろ? 栄養学と美味の融合だ! マリナ、こいつの商機はどうだ?」


「完璧ね。携帯性が高い、保存が利く、そして何より『中毒性』があるわ。……これを兵糧や行商人の保存食として売り出せば、一財産築けるわよ」


マリナが即座に利益率を弾き出す横で、カイゼルはボロボロの村人たちを焚きつけた。

「よおし、食いたい奴は手を挙げろ! ただし、タダ飯はなしだ。今日から『加工班』『調味班』『パッキング班』に振り分ける。自分の役割を完遂した奴から、この黄金の肉棒を口にできる特権をやるぜ!」


「やる! やらせてくれ!」「腕は上がらないが、指先なら動く!」


食欲という原始的な衝動が、筋肉の悲鳴を塗りつぶしていく。

カイゼルは流れるような判断で、動ける者から順に役割を割り振っていった。

「お前は肉を叩け! 重力を利用すれば腕の筋肉は使わねえだろ! お前は紐を結べ! 指先の訓練だ!」


午後には、さらなる試作が始まった。

固く焼いたパンの間に、塩漬けの肉と乾燥野菜を挟み込み、さらに保存性を高めた「村式・携行サンド」。

「これは『歩きながら食える戦力』だぜ、エルダ!」


「……フン。行軍速度が上がるな。悪くない」


夕方。

広場には、疲れ果て、ボロボロになりながらも、どこか誇らしげな顔で新製品を頬張る村人たちの姿があった。


「……うめぇ……。生きてて良かった……」

「明日も訓練か……。でも、これが食えるなら、なんとか耐えられる気がする」


ボロボロの体。限界の精神。

だが、その瞳には「自分たちの手で価値を作り出した」という確かな光が宿っていた。


エルダはそれを見て、一瞬だけ、本当に一瞬だけ口角を上げた。

「……動けるようになったな」

「ははっ、だろ? 人を動かすのは恐怖だけじゃない。明日への『期待』と、腹に溜まる『満足感』だ」


カイゼルは広場の中央で、沈みゆく夕陽を背に受けて笑う。

「戦う、作る、回す! 全部繋がったな! この村はもう、ただの集落じゃない。壊れても、それを糧にして強くなる『自律型生命体』なんだよ!」


夜。

村には焚き火の明かりが灯り、加工場からは絶えず香ばしい煙が立ち上っていた。

誰もが疲れている。誰もが筋肉痛に呻いている。

だが、誰も止まろうとはしない。


「仕組みは回る。想いは繋がる。……さあ、明日はこの『鉄人ソーセージ』を引っ提げて、外の商人どもを驚かせてやろうじゃないか!」


カイゼルの陽気な笑い声が、夜の静寂を明るく、力強く突き抜けていく。

ボロボロの村人たちは、明日への希望を噛み締めながら、深い、しかし確かな眠りへとついていった。

止まらない物語は、肉汁溢れる新しい価値と共に、さらなる高みへと加速し続けていた。

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