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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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118/130

118:宗教撤退 “意味がない”と判断される。

朝の光が村を照らす。


畑には新しい芽が並び、子どもたちは水を運び、狩人たちは獲物を担いで帰ってくる。


煙が上がる。


パンが焼ける匂い。


変わらない日常。


――ただ一つ。


変わったのは、“外”だった。


街道の先。


白衣の一団が、静かに荷をまとめている。


誰も怒鳴らない。


誰も祈らない。


ただ、淡々と。


「……本当に撤退するのか」


若い男が問う。


声には迷いが残る。


だが、返答はあっさりしていた。


「する」


短い。


断定。


年嵩の男が続ける。


「ここに意味はない」


その一言で終わった。


若い男は歯を食いしばる。


「意味は……あっただろ」


「人を導く」


「救う」


だが。


年嵩の男は首を振る。


「それは“できていれば”の話だ」


静かに言う。


「できていない」


沈黙。


誰も反論できない。


「見ただろう」


男は続ける。


「あの村を」


「飢えない」


「病が広がらない」


「争いが少ない」


事実を並べる。


「そして――祈っていない」


そこが決定的だった。


「我々の役割は、そこにない」


結論。


冷たいほど合理的。


若い男は俯く。


「……じゃあ、俺たちは何だ」


問い。


答えは返ってこない。


いや。


返せない。


「“意味がない”と判断された」


別の男がぽつりと呟く。


その言葉が、全てだった。


怒りもない。


悲しみもない。


ただ、現実として受け入れるしかない。


荷車が動き出す。


軋む音。


去っていく背中。


誰も止めない。


止める理由がない。


――終わりだった。


一方、村では。


「撤退した?」


レイナが眉を上げる。


報告を受けて、思わず笑う。


「早いわね」


「合理的だ」


カイゼルは淡々と言う。


「勝てないと判断した」


マリナが肩をすくめる。


「商売と同じよ」


「利益が出ない場所からは引く」


「それだけ」


エルダは外を見る。


警戒は解かない。


「戻ってくる可能性は?」


「低い」


カイゼルは即答する。


「理由がない」


その言葉に、リナが小さく頷く。


「病人が減った」


彼女は静かに言う。


「怪我も少ない」


「薬の消費も安定してる」


現場の実感。


「“祈る必要がない”状態になってる」


核心。


誰も否定しない。


レイナが笑う。


「そりゃいらないわね」


「仕事なくなるもの」


マリナも続く。


「価値がないものは消える」


「当たり前よ」


エルダは一言だけ。


「残るのは、必要なものだけだ」


カイゼルは頷く。


「だから、残る」


それだけ。


特別なことはしていない。


ただ、回している。


止めていない。


それだけで、結果が出ている。


村の入口。


ルークが荷物を運んでいる。


汗をかきながら、息を整える。


「……終わったのか」


誰にともなく呟く。


レイナが横を通る。


「終わったんじゃないわ」


軽く言う。


「“向こうが終わった”だけ」


違い。


本質。


ルークは苦笑する。


「厳しいな」


「現実よ」


レイナはあっさり返す。


そのまま指示を飛ばす。


「次、倉庫に回して」


「はいよ」


自然に動く。


誰かに命じられているわけではない。


流れに乗っているだけだ。


カイゼルは遠くを見る。


去っていく白衣の列。


追わない。


引き止めない。


「いいのか?」


エルダが聞く。


「いい」


カイゼルは即答する。


「必要なら戻ってくる」


「必要じゃなければ、来ない」


それだけの話。


マリナがくすりと笑う。


「ドライね」


「現実的だ」


カイゼルは答える。


リナが小さく呟く。


「救うって、何だろうね」


誰もすぐには答えない。


だが、しばらくして。


エルダが言う。


「生きてることだ」


短い。


だが、重い。


レイナが続く。


「回ってることね」


マリナは肩をすくめる。


「価値があること」


三人三様。


だが、矛盾しない。


カイゼルは静かに言う。


「選べることだ」


結論。


それが、この村の答えだった。


村は今日も動く。


畑は育ち、料理が作られ、人が笑う。


誰も祈らない。


だが。


誰も困っていない。


遠くで、白衣の一団が小さくなる。


やがて、見えなくなる。


完全に消えた。


村には静かな風が吹く。


変わらない日常。


変わった世界。


カイゼルは目を閉じる。


そして、開く。


「……次だな」


止まらない。


この村は。


止まらないからこそ。


“意味がある側”に立ち続ける。


それが、すべてだった。


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