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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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117/120

117:信者分裂 内部崩壊。

白衣の一団が去った数日後。


村は、いつも通り動いていた。


畑では苗が植えられ、狩人たちは森へ入り、鍛冶場では槌の音が響く。


パンの香り。


笑い声。


変わらない。


――だが。


「……本当に、あのままでいいのか?」


小さな声が、今度は“外”から聞こえていた。


街道沿い。


簡素な礼拝所の前。


白衣の男たちが、集まっている。


先日の“異端の村”から戻った者たちだ。


だが、空気が違う。


まとまりがない。


「お前、あの村を見て何も感じなかったのか?」


若い男が詰め寄る。


「感じたさ」


答えたのは、年嵩の男。


「だからこそ問題だと言っている」


「違うだろ」


若い男は首を振る。


「問題なのは――こっちだ」


沈黙。


言ってしまった。


一線を越えた言葉。


「……何を言っている」


別の男が低く唸る。


「俺たちは正しい」


「導く側だ」


「そうだ」


すぐに同意が重なる。


だが、若い男は引かない。


「じゃあ聞く」


一歩前に出る。


「あの村で、飢えてる奴いたか?」


誰も答えない。


「病人は?」


「……いた」


「でも治療されてた」


言葉が詰まる。


若い男は続ける。


「祈って終わりじゃなかった」


「ちゃんと助けてた」


事実。


否定できない。


「それでも異端だって言うのか?」


静かに問う。


年嵩の男が口を開く。


「……あそこは、仕組みで動いている」


「だから危険だ」


「神を必要としない」


若い男は笑う。


乾いた笑い。


「必要ないなら、それでいいだろ」


その瞬間。


空気が割れた。


「――黙れ」


強い声。


今まで黙っていた男が、前に出る。


目が鋭い。


「それを認めたら、何になる?」


低く言う。


「我々の意味がなくなる」


核心。


誰も口にしなかった本音。


沈黙が落ちる。


若い男は、ゆっくりと頷く。


「そうだな」


あっさりと。


「だから怖いんだろ?」


刺す。


まっすぐに。


「自分たちが“いらない”って分かるのが」


誰も動かない。


言い返せない。


「俺は見た」


若い男は続ける。


「救われてる人間を」


「祈ってるからじゃない」


「回ってるからだ」


言い切る。


「だから俺は――」


一拍。


「戻る」


場がざわめく。


「裏切る気か!」


怒号。


だが、若い男は冷静だ。


「違う」


首を振る。


「選ぶだけだ」


カイゼルと同じ言葉。


「俺は、あっちを選ぶ」


完全に決裂した。


年嵩の男が目を閉じる。


「……そうか」


静かに言う。


「なら、お前はもう仲間ではない」


若い男は頷く。


「それでいい」


背を向ける。


止める者はいない。


止められない。


理屈が通っているからだ。


一人、また一人。


迷っていた者たちが動く。


「……俺も、見てみたい」


「俺もだ」


分裂。


止まらない。


残る者と、離れる者。


明確に割れる。


――内部崩壊。


だが。


同時に。


村の中でも、動きがあった。


「外から人が来てる」


レイナが報告する。


軽い口調だが、目は真剣。


「数は?」


カイゼルが聞く。


「十数人。増えそう」


「理由は?」


「“見に来た”ってさ」


肩をすくめる。


「信者崩れね」


マリナが笑う。


「面白い展開」


エルダはすぐに判断する。


「選別する」


「当然だ」


カイゼルも頷く。


村の入口。


簡易な検問。


だが、緊張はない。


来た者たちは武器を持っていない。


むしろ、戸惑っている。


「……ここが」


若い男――先ほどの彼が、村を見る。


畑。


煙。


人の流れ。


「普通だな」


思わず呟く。


レイナが笑う。


「何期待してたの?」


軽口。


だが、視線は鋭い。


「名前」


「……ルーク」


「はいルーク。仕事あるけどやる?」


即答。


男は一瞬止まる。


「……え?」


「食うなら働く。それだけ」


シンプル。


だが明確。


ルークは、少しだけ笑う。


「ああ、それでいい」


受け入れる。


レイナは頷く。


「よし、じゃあまず運搬ね」


即配置。


迷いがない。


マリナが横で見ている。


「回すの早いわね」


「止めたくないからね」


レイナは軽く答える。


エルダは別の方向を見ている。


残った連中。


戻ってきた者たち。


その動きを読む。


「来るか?」


カイゼルが聞く。


「来るなら止める」


それだけ。


専守防衛。


変わらない。


カイゼルは村を見る。


人が増えている。


だが、混乱はない。


仕組みがある。


回る構造がある。


だから、崩れない。


「……面白いわね」


マリナが呟く。


「向こうが勝手に崩れて、こっちが膨らむ」


カイゼルは肩をすくめる。


「俺は何もしてない」


レイナが笑う。


「いや、してるでしょ」


「土台作ってる」


エルダが短く言う。


「だから来る」


リナが遠くから声を上げる。


「次!怪我人こっち!」


日常。


いつも通り。


ルークが荷物を運ぶ。


汗をかく。


そして、ふと笑う。


「……これが“救い”か」


誰も答えない。


だが、彼には分かっている。


祈りではない。


言葉でもない。


――回ること。


生きていけること。


それが、答えだった。


そして外では。


残った者たちが、互いを疑い始めていた。


「お前も行く気か?」


「……分からない」


崩壊は、ゆっくり進む。


止められない。


なぜなら。


“正しさ”よりも、“現実”が勝ったからだ。


村は今日も回る。


止まらずに。


そして、静かに。


世界の構造を、壊し始めていた。


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