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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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116/130

116:救済の矛盾露呈 リナ(薬師)が現実を語る。

公開議論の余韻は、すぐには消えなかった。


広場は元の賑わいを取り戻している。


パンは焼け、鍋は煮え、子どもは笑っている。


だが、どこかに“引っかかり”が残っていた。


「……なあ、本当にいいのか?」


農夫の一人が呟く。


「外と敵対する形になるんじゃ……」


別の声。


「神様を信じないってのは……怖いよな」


小さな不安が、ゆっくりと広がる。


カイゼルはそれを聞いていた。


だが、すぐには動かない。


判断を急がない。


その時だった。


「はい、そこまで」


軽い声。


だが、よく通る。


広場の端。


白衣の女が、腕を組んで立っていた。


リナ。


この村の薬師。


長い髪を無造作にまとめ、目はどこか眠たげ。


だが、その視線は鋭い。


「不安になるのは分かるわ」


ゆっくり歩いてくる。


村人たちの視線が集まる。


「でもね」


立ち止まる。


「それ、“救われてない人の発想”よ」


一瞬、空気が止まる。


強い言葉。


だが、リナは気にしない。


「いい? 私、前の街で何してたと思う?」


誰も答えない。


リナは自分で続ける。


「薬師よ。普通に」


肩をすくめる。


「でもね、あそこは“神様の街”だったの」


ざわめき。


「教えは絶対。祈れば救われる」


皮肉気に笑う。


「で、現実は?」


指を一本立てる。


「金がないと薬は出ない」


二本目。


「重症は“祈り”で済まされる」


三本目。


「助かる見込みが低い奴は切られる」


静かに言う。


誰も笑わない。


「これが“救済”」


吐き捨てるように。


エルダが目を細める。


「合理的だな」


「でしょ?」


リナは頷く。


「でもね」


少しだけ声が変わる。


「それ、救ってないのよ」


村人たちが息を呑む。


リナは続ける。


「救済って、“結果”でしょ?」


「助かること」


「生きること」


「続くこと」


指で地面を軽く叩く。


「祈りじゃない」


静寂。


カイゼルは黙って聞いている。


口を出さない。


リナの場だと分かっている。


「この村はどう?」


リナが周囲を見る。


「金なくても診るわ」


「軽傷でも重症でも診る」


「助ける見込みがあるなら、全部やる」


当たり前のように言う。


「それで助かってるでしょ?」


誰かが頷く。


一人、また一人。


「それが救済」


簡潔。


そして強い。


「神様を信じるかどうかは自由」


肩をすくめる。


「でも、“現実を無視する救済”は、ただの言い訳よ」


マリナが小さく笑う。


「いいわね、それ」


レイナも頷く。


「現場目線だ」


リナは二人を一瞥し、軽く手を振る。


「で、問題はここから」


再び村人を見る。


「外がどう思うか、でしょ?」


核心。


不安の正体。


「結論から言うわ」


間を置く。


「関係ない」


即断。


だが、乱暴ではない。


「向こうは向こうで回ってる」


「こっちはこっちで回ってる」


「それだけ」


レイナが笑う。


「分かりやすい」


リナは続ける。


「干渉してきたら?」


肩をすくめる。


「止めるだけよ」


エルダが頷く。


「それが防衛だ」


リナはニヤリとする。


「でしょ?」


そして、少しだけ真面目な顔になる。


「ただし」


ここが重要。


「中途半端が一番ダメ」


村人たちが身構える。


「信じるなら信じる」


「疑うなら疑う」


「でも、“なんとなく不安”で動くと死ぬわよ?」


静かに言う。


重い。


だが現実。


カイゼルが初めて口を開く。


「補足する」


一歩前に出る。


「この村は“選択の場”だ」


ゆっくりと。


「信じるものを決める」


「生き方を決める」


「そのための材料は出す」


「でも――決めるのは自分だ」


広場に響く。


リナが頷く。


「それ」


マリナが腕を組む。


「だから成立してるのよね」


レイナが肩をすくめる。


「普通は崩れるのに」


エルダは短く言う。


「だから守る」


それだけ。


村人たちは顔を見合わせる。


そして。


「……俺は、ここでいい」


最初の一人。


「俺もだ」


続く。


「俺も」


連鎖する。


不安は消えていない。


だが、選択が生まれる。


それで十分。


リナは小さく息を吐く。


「はい、終了」


軽く手を叩く。


「診療再開するから、具合悪いやつは来なさい」


一気に空気が緩む。


笑いが戻る。


日常が戻る。


カイゼルはその様子を見る。


「助かった」


小さく言う。


リナは振り返らずに答える。


「別に」


素っ気ない。


「私は現実しか見てないだけ」


それだけ。


だが、それが強い。


マリナが横に並ぶ。


「いいカード持ってるじゃない」


カイゼルは首を振る。


「人だ」


レイナが笑う。


「いいね、それ」


エルダが静かに言う。


「揃ってる」


カイゼルは頷く。


この村は――


祈りで動いていない。


恐怖でもない。


“回る仕組み”と“現実”で動いている。


だから。


揺れても、崩れない。


そしてまた一つ。


外の“救済”が、内側の“現実”に負けた。


村は今日も回る。


止まらずに。


確実に、強くなっていく。


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