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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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115/130

115:公開議論 カイゼルが逃げない。

その日、村の広場には、いつもとは違う緊張があった。


露店は出ている。パンも焼けている。子どもも走り回っている。


だが中心には、円を描くように人が集まっていた。


外から来た一団がいる。


白い衣。


整えられた言葉。


そして、揺るがぬ確信。


「――我々は、導くために来た」


先頭の男が言う。


静かだが、通る声。


「この村は、誤っている」


ざわめきが走る。


エルダは一歩前に出るが、止まる。


カイゼルが手で制した。


「ここは俺が出る」


短い言葉。


エルダは一瞬だけ目を細め、そして下がる。


マリナは口元を歪める。


「逃げないのね」


「逃げる理由がない」


カイゼルは前に出る。


白衣の男と向かい合う。


「話すか?」


それだけ。


挑発でも拒絶でもない。


ただの確認。


男は頷く。


「公開で」


「いい」


カイゼルも頷く。


村人たちが息を呑む。


広場は即席の“場”になる。


レイナが素早く人の流れを整える。


「詰めて。見える位置に。押さない」


いつもの軽さで、場を回す。


料理人が鍋を火から外す。


薬師リナが診療を一時止める。


全員が“聞く側”に回る。


カイゼルが言う。


「始めろ」


男は一歩前に出る。


「この村は、神を否定している」


まっすぐな言葉。


「秩序を乱し、教えを無視し、人を惑わせる」


指を差す。


「異端だ」


空気が張り詰める。


だが、カイゼルは動かない。


「続けろ」


促す。


男は一瞬だけ眉をひそめる。


だが、構わず話す。


「人は導かれるべき存在だ」


「正しき道を示されなければならない」


「それを否定することは――罪だ」


言い切る。


強い。


迷いがない。


カイゼルは一拍置く。


「終わりか?」


「……一旦はな」


「じゃあ、こっちだ」


カイゼルは村人たちを見る。


「質問だ」


全員に向けて。


「ここに来る前、どうだった?」


ざわめき。


だが、すぐに声が上がる。


「飢えてた」


「奪われてた」


「借金で縛られてた」


次々と。


止まらない。


カイゼルは男を見る。


「聞いたか?」


男は黙る。


「今は?」


さらに問う。


「食えてる!」


「仕事がある!」


「子どもが笑ってる!」


今度は笑いが混じる。


カイゼルは肩をすくめる。


「これが現実だ」


単純な比較。


だが、強い。


男は即座に返す。


「それは一時の安定に過ぎない!」


声を張る。


「魂はどうだ!」


「正しき導きがなければ――」


カイゼルは遮らない。


最後まで言わせる。


そして。


「魂って何だ?」


静かに聞く。


男が詰まる。


「……それは」


「定義しろ」


逃がさない。


議論の土台を固定する。


マリナが小さく笑う。


「えげつない」


レイナが肩をすくめる。


「逃げ道潰しに来た」


男は言葉を選ぶ。


「……人が人であるための根源だ」


「曖昧だな」


即座に切る。


「ここにいる全員が、それを失ってるか?」


村人たちを見る。


誰も頷かない。


「じゃあ問題ない」


単純。


だが、逃げ場がない。


男は苛立つ。


「短絡的だ!」


「長期で見ろ!」


「いずれ崩れる!」


カイゼルは頷く。


「可能性はある」


認める。


これが重要。


「だから選ばせてる」


続ける。


「信じるか、信じないか」


「残るか、出るか」


「全部自由だ」


村人たちがざわつく。


改めて言葉にされると重い。


男が突く。


「無責任だ!」


「導くべきだろう!」


カイゼルは首を振る。


「違う」


一言。


「決めるのは本人だ」


静かに。


だが、強く。


「俺は“決める材料”を用意するだけだ」


「食える環境」


「死なない仕組み」


「奪われない構造」


指折り数える。


「その上で選べ」


「それが一番壊れない」


エルダが小さく頷く。


「現実だ」


男は一歩引く。


だが、まだ終わらない。


「……では問う」


「この村は、外と対立している」


核心。


「それでも続けるのか?」


静まる。


これは重い。


村人の中にも迷いがある。


カイゼルは即答しない。


少しだけ考える。


そして。


「対立はしてない」


言う。


男が眉を上げる。


「向こうが勝手にぶつかってきてるだけだ」


事実。


レイナが笑う。


「それな」


マリナも頷く。


「市場も同じよ」


カイゼルは続ける。


「俺たちは守る」


「外には出るが、攻めない」


「専守防衛だ」


明確な線。


エルダが口を開く。


「来るなら止める」


短いが、重い。


戦の現実。


男は黙る。


そこに嘘はない。


カイゼルは最後に言う。


「ここは強制しない」


「信じたいなら信じろ」


「出たいなら出ろ」


「残るなら、一緒に回せ」


レイナが笑う。


「いいね、それ」


マリナが肩をすくめる。


「シンプルで強い」


沈黙。


そして。


一人の村人が前に出る。


「俺は残る」


次に、もう一人。


「俺も」


そして、増える。


連鎖する。


誰も強制していない。


だが、流れができる。


男はそれを見て、息を吐く。


「……なるほど」


認めたわけではない。


だが、理解した。


「ここは、異端だ」


改めて言う。


だが、その声には先ほどの強さはない。


カイゼルは頷く。


「そうかもな」


否定しない。


「でも――回ってる」


それが全て。


男は背を向ける。


「いずれまた来る」


「構わない」


カイゼルは言う。


「逃げない」


男は去る。


白い衣が遠ざかる。


広場に、空気が戻る。


レイナが手を叩く。


「はい解散!仕事戻って!」


一気に日常へ戻す。


料理人が火を戻す。


子どもがまた走る。


笑い声。


カイゼルはその光景を見る。


エルダが横に立つ。


「悪くない」


短く評価。


マリナが笑う。


「むしろ上出来」


レイナが肩を叩く。


「アンタ、やっぱ狂ってるわ」


カイゼルは小さく笑う。


「回すだけだ」


それが本質。


思想も、対立も、議論も。


全部含めて。


この村は――


止まらない。


そして、さらに強くなる。


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